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3‐32

 魔王を倒し、満身創痍で動けないルクス達はギルド・グシオンの救護班に回収されそこで治療を受けることができた。

 回復魔法を駆使してもルクスの怪我は相当に深手だったようで、結局ミリオーラへの帰郷へはそれから一週間の時間を要することになってしまった。


「なんか一年ぶりぐらいに帰ってきた気分だなー」


 ミリオーラの門の前で、エリアスがそんなことを口にした。


「本当に、帰ってこれるとも思ってなかったよ。命知らずにもほどがあるって」

「ふん。現実として私達はこうして凱旋しているではないか。次にそのくだらん恨み節を口にしたら、燃やすぞ」

「言わなくても燃やしてるじゃないっすか……あちぃ!」

「ふへへ、二人とも元気……。五体満足で帰れてアディも嬉しいです。手足の数本ぐらいは覚悟していたので」


 何とも物騒なことをアディが言う。


「みんながいてくれたからね。こうして無事に戻ってこれたんだよ」


 その言葉はルクスの本心だった。


「嬉しいこと言ってくれるなぁ、このギルドマスターは! だから俺も無茶しちまうんだけど」

「貴様の活躍など一割にも満たないだろうに。大半は私の健闘のおかげだろうが」

「いやいやいや、今回は俺だって頑張りましたって! な、ルクス?」

「そうだね。エリアスがいなかったら危なかったかも」


 エリアスは斥候として活躍しただけでなく、スコットの暴走を止めてくれたことはちゃんとウィルフリードから聞いていた。


「あ、アディも大活躍……ってほどではないかも知れないけど、中活躍……小活躍ぐらいは……」

「アディも大活躍だよ。本当に、アディがいなかったら生きて帰ってこれなかったし」

「ふへへっ、その言葉だけで後百年は頑張れそう……」

「ちゃんと給料も出すからね」


 緊急事態と言うこともあって、ギルド招集には相応の手当てが付く。ウィルフリード曰く「とても命を賭けるには値しないはした金」とのことだが、今のルクス達の財政を潤すには充分な額だった。


「お、ボーナス!」


 喜ぶエリアスを見ていると、不意にルクスの手にふわっとしたものが触れる。

 隣を見れば、周りに気付かれないように尻尾をルクスの手に巻きつけたベオが不満そうな表情でこちらを見上げていた。


「ベオには助けられてばかりだからね。今回も本当に、ありがとう」

「ふん、当然だ。……だがまぁ、今回ばかりはあれだな。私もお前に助けられたような気がしないでもないような……」


 もごもごと口ごもるベオを見て、何かを察したエリアスとアディが先行して歩いていく。


「……そんな気がするような……しないような……いや、しかし……まぁ、色々と世話になったような……なってない……とはとても言い切れないような」


 いったい何度「ような」を重ねるつもりだろうか。

 苦笑するルクスを見て、ベオは三角耳を尖らせて声を荒げた。


「なんだ貴様、その顔は! この私が折角素直に感謝してやろうと言うのに!」

「気持ちはちゃんと伝わってるから大丈夫」

「……む、ならいいか」


 思いの外簡単に、怒りを沈めてくれたようだった。

 エリアス達に追いつくために歩を早めると、少し前で彼等が門の方を指さして固まっている姿が見えた。

 彼等が指し示す先、ミリオーラの城門の前には、大勢の人だかりができている。


「凄いぞ、ルクス!」


 一瞬何が起こったのかと身構えたが、人だかりから発せられる声に否定の色はない。

 むしろルクス達を歓迎して、早く街に迎え入れたくてたまらないという空気がこちらまで伝わってくる。

 ルクス達は小走りで一団に駆け寄るとその中央にいた見知った二人に声を掛けた。


「エレナさん、サンドラさん! これって何ですか?」

「何って、ルクスさん達への出迎えですよ! 第二の魔王を倒すのに大健闘した、わたし達の街のギルドの!」


 なんでもエレナが言うには、一足先にミリオーラにやってきたグシオンの人と、英雄アレクシスがルクスの活躍を伝えていったらしい。

 今回の件、魔王再誕はルクス達がいなければ解決できなかったかも知れないと。

 グシオンの意見だけならば信憑性としては半分程度だったが、そこにアレクシスの言葉が加わることで一気に真実味を増したらしい。

 大勢の人々がルクス達を取り囲み、口々に賞賛の言葉を浴びせかける。


「……どうした?」

 エリアスはそれを素直に受け止め、アディは状況を受け入れられずに硬直していた。

 その中でルクスは呆然と、彼等の言葉を噛みしめるように聞き入っていた。


「嬉しくて」

「褒められたことがか?」

「……違うよ。それも嬉しいけど、何よりも」


 彼等はルクス達を街の誇りだと言ってくれる。

 その称賛の言葉は恐らく一過性のものに過ぎず、危機を乗り越えたという安堵から来る熱に浮かされているだけのものだろう。


「受け入れてもらえたことが、嬉しくて」


 長い間放浪を続けた。

 人造兵として人々から忌み嫌われ、それでも歯を食いしばり英雄になるためと目標を掲げ、その為だけに生きていた。

 ルクスの望みが全てかなったわけではないが、その一部だけでも報われたような、そんな気がしていた。

 やがては風化する感情だとしても。

 ベオ達のような共に戦った仲間から受け入れられたという事実は、忘れがたい経験となる。

 例えこれから先まだ辛いことがあったとしても、かつて英雄に憧れた時のように、この記憶を持って耐えることができる。

 ルクス・ソル・レクスはそう言うことができる人間だった。


「私には理解できんがな」


 そう言うベオの表情は、ルクスと同じで嬉しそうなものだった。


「あんた達がいない間に、依頼が殺到して大変だったんだよ! 今日一日ぐらいは休んでもいいけど、明日からはしっかり働いてもらうからね!」


 浮かれる人々の中で、サンドラだけはいつもと変わらない様子だった。


「ささ、ルクスさん達もお疲れでしょう? お腹空いてませんか? サンドラさんがご馳走を用意してくれてますよ」


 エレナがルクスの手を取って、街の中へと案内する。

 彼女の余計な一言にサンドラは微妙な表情をするが、特に咎めることはなかった。

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