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3‐28

 深い暗闇は、嫌な記憶を思い出す。

 魔王の体内は、そこが生物の体内であるとはとても思えない。例えるなら別の世界に来てしまったような、そんな場所だった。

 適当な個所の足元を切り裂くと、また下に層が広がっている。世界は闇に閉ざされていて、時折靴に触れるものが何であるかも判断することはできない。

 もし魔王が巨大化することでこれが広がっていくのだとしたら、それは生き物が捕食するというよりは別の世界が浸蝕してくる、という方がしっくりくる。少なくともルクスはそう思った。

 闇の中を進む間に、幼いころの記憶が何度も何度も想起する。

 幼いころ、自分達は英雄になるために集められたのだと教えられた。だからそれを使命のように思い、訓練を受け続けた。


 そうやって日々を過ごすうちに、一人また一人と、英雄になっては人格が壊れ死んでいった。

 ここで行われていることが只事ではないと、ルクスがそれを理解できたのは丁度半分の、四人目の少年がいなくなってからだった。

 一緒に遊んでいたアディもいなくなり、希望がなくなり、英雄という言葉すらも忌むべき者のように感じられた日々があった。

 しかしそれでも生きるために、明日の食事のために訓練と実験は繰り返される。

 だからある日、ルクスは自分に言い聞かせることにした。

 英雄になる。死んでいった兄弟達の意思を継いで、この研究所にいる大人達が語るような人々を護る礎となる英雄に。

 なってみせると、自らに言い聞かせた。

 それは呪いとも呼べない子供の思い込みだったが、現にこうしてルクスは生きている。

 黒い心臓が強く脈打つ。

 偽りとはいえ魔王と戦える事実に、英雄に近付けたという歓びにルクスの中の『彼等』が歓喜の声を上げているのだろう。

 凶暴な声が内側で木霊する。

 彼等の想いは純粋なものではない。何故自分達は死ななければならなかったのか、まだ何も成せていないというのに。

 そう言った無念が呪詛となり、黒い心臓に宿っていた。

 幼いころからルクスは、ずっとこの声と一緒に過ごしてきた。

 普段は活性化することはなかったが、何かの拍子に内側から激しく脈動し、ルクスを破滅へと向かわせようとするのだ。


 それは彼等の恨みからくる悪意なのか、それともルクスへの親切心からくる善意なのか、未だにその結論は出ていない。

 声が激しくなる。

 その声の中には愛憎が入り混じる。

 間近にいる英雄達への憧れと称賛の声。

 魔王に対する怒りと敵意の叫び。

 ――自分達が英雄になれなかったことに対する、悲しみと嫉み。

 だからルクスはこの戦いが始まってからずっと、己の身も顧みず戦い続けてきた。

 英雄達には負けたくない。ここで力を示し、自分達の死が無駄でなかったことを知らしめる必要がある。

 その声に従い、自らが傷つくことも厭わずに剣を振るってきた。

 だが、今は違う。


「……煩い」


 彼等の声と、ルクスの方向性が違う。

 魔王を倒すことなどは最早、二の次だった。

 気が狂いそうなほどに声が騒めく。

 心臓がまるで歩みを止めさせようと強く、壊れそうなほどに脈動を続ける。

 それでもルクスは止まらない。


「……邪魔するな。僕は」


 ここだと、何故かわかった。

 或いは彼女の声や息遣いが、ルクスに伝わったのかも知れない。

 足元に何の躊躇いもなく剣を差し込む。

 黒の剣その刀身の紅い輝きが広がり、闇の中を切り拓いていく。

 切り裂いたその隙間から、銀色の髪が覗いた。


「ベオ」


 今この瞬間だけは、ルクスは英雄に憧れることを捨てていた。

 ただ彼女を助けるため、その一心でここにやってきた。

 声が消えていく。

 それはひょっとしたら本当に存在しているのではなく、ルクスが生み出した幻なのかも知れない。そう思えるほどに、彼女の存在を知覚した途端、彼等は静まり返った。


「今、助ける」

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