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「何が……起こってるんだ……?」


 英雄達が手を止めて、アディの様子を見ている。

 無理もない、端から見れば魔王がもう一体現れて喧嘩をしはじめたようなものだ。

 エリアスも彼女の変貌ぶりに驚かされて、我を忘れてその姿に見入っていた。

 深い藍色の魔神は無数の腕を広げ、魔王を逃すまいと抑え込み続ける。

 魔王もそれを脅威と感じたのか、全身から生やした触手でその巨体を叩き続ける。


「おい! 魔王が二匹に増えたぞ、ありゃあ両方やっちまっていいのか?」

「やれるもんならね!」


 閃光の英雄が武器を構え、魔導の英雄が空中高くに飛翔する。

 恐らく両者とも、その攻撃範囲にはアディも含まれているはずだ。

 だからエリアスは、その場で叫んだ。


「ま、待ってください!」


 彼の声に応えたのは、偶然近くにいたエーリカだ。

 曲がりなりにも一緒に戦場を駆けた仲だからだろうか、エーリカはこの戦場には場違いすぎる小物の言葉を無視することはなかった。


「あっちの小さいのは、俺達の仲間なんです! それにほら、見ればわかると思いますけど、魔王を抑え込んでるじゃないっすか! 攻撃しないでください!」

「……確かに彼女は君の仲間だったね。だが、その特異性は見てわかるだろう。事情は理解してあげたいが、余りにも特殊過ぎる」

「英雄だって俺達からすれば一緒っすよ! 理解できない、やばい代物じゃないっすか! でも今は同じように魔王に立ち向かってる、そこの違いは俺にはわかりません!」


 どちらも人知を超えた力を持っている。

 人のために戦うから英雄、その正体がわからないから異物、そうやって人は線を引いてきた。

 亜人にしてもそうだ、何よりもエリアスが一緒に過ごしてきたルクス達だって同じように迫害されてきた。

 彼等は純粋に自分達の居場所を作って、護りたかっただけなのに。


「……ああ、そうだな」


 低い声が、エリアスの言葉を後押しする。


「アレクシス……」

「少なくとも俺達のやるべきことは、魔王を倒すことだ」

「その後でアディがあんたらに迷惑をかけるなら、その時は俺の首でも何でも、持って行ってくださいよ!」

「……そうだね。ボクとしたことが、刻一刻と切り替わる現状に少し混乱していたようだ。彼女は敵ではない、同じ舞台に上がった仲間だ!」


 エーリカも、アレクシスに続いて同意する。「で、どうするんだよ?」

 少し離れたところから、閃光の英雄が訪ねてくる。


「彼女は仲間だ。この好機に、一息に魔王を倒す!」


 アレクシスの答えに納得して、英雄達は一斉に武器を構えた。

 アディに夢中になっている魔王に、英雄達が攻撃が次々と繰り出され、その身体を削り取っていく。

 結界兵や魔導兵の援護がなくなっても、アディのおかげで英雄達は無事に態勢を立て直し、また彼女が囮となったおかげで攻撃に集中することができていた。


「……ふぅ……こえぇ」


 この緊急事態だ。例え英雄といえど、邪魔だと判断されれば殺されていたかも知れない。

 事実傍にいたのがエーリカとアレクシスだからこそ受け入れられたが、もしエリアスと全く面識のない英雄だった場合、戦いの邪魔をしたと見なされた可能性も高い。


「おい、何やりきった顔してやがる」

「ひぃ!」


 背後から声を掛けられ、慌てて振り返る。

 面白くなさそうな顔で、ウィルフリードが立っていた。


「ま、マスター・ウィルフリード……!」

「別に俺はお前のギルドマスターじゃねえだろうが」

「そ、そうでした。……でも、他に俺がやれることなんてありま……」


 エリアスの声を遮るように、空から砲撃が降り注ぐ。

 英雄達は既に着弾を予想しているのか意にも介していないが、生き残った兵士達も、アディもそれに晒され続けていた。


「あの馬鹿を止めねぇと勝てるもんも勝てなくなる。お前さんのお仲間も、本体に直撃したらどうなるかわからねえだろ」


 単なる爆風だけならば今のアディは防げるかも知れないが、もし何かの間違いでアディ本人に着弾した場合、確かに無事でいられる保証はない。


「足には自信があるな?」

「一応……」

「撃ってる場所を見極めて、一っ走り行って来い」

「行ってどうすれば……」

「やめさせろ。場合によっては力付くでもだ」

「俺一人でできますかね?」

「……無理だろうな」


 エリアスの記憶が正しければ、スコットの周りには騎士団の団員が護衛していた。一人でそれらに勝てるかと問われれば、自信はない。


「適当な目印を残しておけ、俺がそれを追いかける」

「ウィルフリードさんが!?」


 思いがけない共闘依頼に、思わずエリアスは声が上擦った。


「……この戦場にもうできることはねえ。今の俺達にはな」


 そうだ。例え圧倒的な魔力を誇り、一瞬で敵軍を凍り付かせたウィルフリードといえど、英雄達の戦いには最早介入することはできない。


「少しでも効果のある方に力を割くのは当然だ。それとも、ここで突っ立ったままお仲間が死ぬのを見てるか?」

「い、行きますよ! 俺にだってまだできることがあるなら、やって見せます!」


 ルクスも、アディも、ベオもまだ必死で戦っている。

 自分にできることがもう終わったなんて思い込んでいた数秒前の自分を恥じながら、エリアスは樹海の道を引き返していく。


「エンチャント!」


 魔力を振り絞り、自らの足に強化魔法を掛けた。

 ルクスと出会ってからの日々で何もしていなかったわけではない。少しでも役立てるよう、自分の長所を生かせるように思考錯誤し、その為の努力をしてきたつもりだ。

 再び轟音と共に、空に大砲が放たれた。

 その方向へと進路を定めて、エリアスは駆けていく。

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