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3‐14

 高い木の上を移動するエリアスが、黒い群れを発見したのは、その翌日の昼頃のことだった。

 群れの向かう先が丁度ルクス達が次ぎに行こうとしている場所と一致したことで、急ぎそれを追いかける。

 数時間の後、亜人達が暮らすであろう村に突入しようとしている魔物の群れを背後から捉えることに成功した。


「道を抉じ開ける! 突入しろ!」


 言うが早いか、ベオの手が炎を纏う。

 地面を這うように放たれた炎の波が、獲物を見つけて一目散に掛けていくオーク複数体の足元から全身を焼き尽くした。

 何事かと立ち止まる魔物達の群れに、ルクスとエリアスが斬り込む。


「アディ、村の人達を護って!」

「はいぃ!」


 アディから伸びる黒い、この世ならざる泥のような影が、まるでベールのように逃げるもの、立ち向かおうとする亜人達を諸共に覆い隠す。


「このやろぉ! こっちは鬱憤が溜まってんだよ!」


 走りながら、エリアスが短弓に雷を纏わせる。

 彼の放つ矢は軽々と固まったゴブリンを串刺しにするようにして仕留めてみせた。

 ベオが放つ火球と同時に飛び込んで、ルクスは剣を振り回して自分に注目させるように暴れまわる。

 ゴブリンの群れを薙ぎ倒し、オークと数度の剣戟の末に打ち倒したルクスは、一瞬の間に亜人達を見た。

 ベオと同じような獣耳が生えた獣人達。思った通り彼等の足には枷が付けられていて、満足に抵抗もできない。


「人造兵! お前はわたし達の味方か!?」


 一人突出した獣人が、甲高い声で叫んだ。


「見ての通りです! 敵だったらこんなことしませんよ!」

「だったら枷を外せ! わたしも戦う!」


 そう言ったのは、獣耳と尻尾を生やした短髪栗毛の少女だった。彼女はその手にスコップを持ち、殺到する魔物達を捌いている。


「ベオ、こっちに!」

「わかってる!」


 炎の波が分かれて、ピンポイントに魔物だけを焼き尽くす。


「すっげぇ、精密な狙い」


 エリアスの称賛の声に、ベオが「ふふん」と胸を張った。


「アディ、こっちに防御を!」

「わかってますぅ!」


 アディから伸びた黒い塊が、無数の棘を生やして魔物を薙ぎ払う。

 その間にルクスは少女の足元に付けられた重苦しい枷に、全力で黒の剣を叩きつけた。


「ありがとう! 恩人の名前が知りたい!」

「ルクスです! 貴方は!?」

「エルマだ! 人造兵の生き残り、感謝する!」


 両手でスコップを持ち、それを振り回して大立ち回りするエルマ。

 彼女に続くような形で他の獣人達も、石を投げたりするなどしてルクス達の援護をしてくれた。

 彼女等の身体能力はやはり凄まじく、勢いを取り戻せば少数ながら馬鹿にできないほどの力を発揮した。

 程なくして魔物達は勢いを失い、やがては我先にと散り散りになって逃げていく。元より本能のままに暴れるだけの奴等に、命を賭けてまでここで戦う義務はない。敵わないとわかったらすぐに逃げていくだけだった。


「……ふー、無事に追い払えた。怪我をしている人はいませんか? 少しなら薬品もあります!」


 ルクス達が持ってきているものの他に、ウィルフリードから持たされたものもある。それなりの量があるが、残念なことにここに来るまでに一度も使用する機会はなかったものだ。


「お前、強いな!」


 先程の少女、エルマがルクスにぎゅっと抱きついてくる。


「わっ」


 戦場の興奮の後に少女の柔らかな感触は、青少年の心によくない。


「助けに来てくれたのか? ありがとう、ありがとう! 人間達に見捨てられて、奴等はわたし達に枷を付けたまま逃げて、もう駄目かと思ってた!」


 強くルクスを抱きしめて、頬を寄せるエルマ。

 ルクスにとって何とも対処し辛いその状況を救ってくれたのは、やはりというかベオだった。


「離れんか!」


 間に割って入るように、細腕で二人を引き剥がす。

 ベオを見たエルマは、同族を見た嬉しさからか耳をピンと立てて喜んだ。


「お前も、凄い魔法だったな! 獣人は魔法が苦手なのに、エルフの血でも引いてるのか?」

「そんなわけあるか。私は特別なのだ、崇めるがよい」

「崇める崇める!」


 見れば、エリアスとアディは怪我人の治療を始めていた。ルクスは自身のやるべきことを判断して、改めてエルマに向き直る。


「この村の代表者と話しがしたいんですけど」

「代表者……? んー、多分それはわたしで大丈夫だ」


 エルマの言葉に獣人達に異論はないようだった。


「わたしはこの村の族長の娘だからな」

「だったら族長さんは……いたっ」


 ベオがルクスの後ろ脛に蹴りを入れる。

 それですぐに、ルクスも理解した。


「あ、ごめんなさい」

「大丈夫だ。いや、本当は全然大丈夫じゃないけど、お前達の所為じゃない」


 そう言いながら、エルマの声色に暗いものはない。必死で隠しているようだった。


「わかりました。それで、貴方達は現状をどのぐらい把握していますか?」

「嫌な空気があるってことはわかる。それからここを管理していた人間が逃げたから、凄く危ないってことも」

「はい。この樹海の奥で、魔王が生まれています。だから魔物が活発化して、群れをなして集落を襲ってるんです」

「……やっぱりか。村の大人達は、十数年前と同じだって言ってた」


 エルマが顔を向けると、話を聞いていた大人や老人達が一斉に頷く。彼等は以前の魔王戦役の経験者なのだろう。


「僕達は皆さんに避難してもらうために来ました」

「避難って……」

「何処に逃げろっていうんだ?」

「ここを放棄したことが人間達にばれたら、俺達はどうなることか」


 口々に獣人達からそんな言葉が出てくる。

 ここを管理していた人間達は、一体彼等にどんな酷いことをしていたのだろうか。


「ルクスの、あの手紙を見せてやれ」

「うん」


 懐から折りたたまれた手紙を取り出して、エルマに見せる。

 そこに書かれていたのは獣人の言葉なので、ルクスには内容は理解できない。

 エルマの周囲に獣人達が集まり、書かれている内容の説明を求める。


「みんな、これ……亜人達の住処への紹介状と、そこまでの地図とそこに行くまでのお金まで入ってる!」


 それはどうやら彼女達にとって、希望の光になりえるものだったらしい。


「レンツォって獣人が亜人達の保護を唱えているって話は聞いていたんだ。でもそこに行く方法も、本当に守ってくれるのかもわからなかった。この書状にあることが本当なら、大きなギルドと協力関係にあって、人間達に酷いことされる可能性はないだろうって」


 瞳を輝かせながら、エルマはそう説明してくれた。


「ウィルフリードさんって、顔は怖いけど優しい人なんだな」

「そうみたいだね」


 エリアスの言葉に素直に頷いておく。実際に彼等の商売を奪うような形になったルクス達にも、寛容に接してくれたほどだ。


「獣人達を将来的な労働力として使うつもりなのではないか? 反乱の恐れがある強制労働をさせるぐらいなら、しっかりと契約をしたうえで雇用した方が便利だと判断したのだろう」


 ベオがそんな予想を口にする。大方それはあっているように思えた。まだ彼の人となりを完全に理解しているわけではないが、善意だけで行動するような人物があれだけのギルドを束ねられるとも思えない。


「でも何にせよ、この人達が助かるみたいでよかった」


 一先ずほっと胸を撫で下ろす。

 救えなかった命の方が多かったとしても、それでも自分達の力で彼女達が生き伸びる手助けができたことが素直に嬉しかった。


「ルクス、お前も恩人だ! 向こうに行ったら絶対に手紙を書くから!」

「獣人の文字を勉強しておくよ」


 エルマは感動の涙を流しながら、ルクスの手を固く握る。

 彼女は再びルクスに抱擁しようとして、ベオがその妨害をしたところで、見張り台に昇っていた獣人の一人が声を掛ける。


「誰か来るぞ! 魔物じゃない、あいつらも仲間なのか?」


 ルクス達は顔を見合わせて、同時に首を横に振る。

 ウィルフリードともそう言った話しはない。

 警戒しながら街の入り口に向かうと、意外な人物達がそこにやってくる。

 現れたのは、鎧を着た部下達とその後ろに鉄でできた馬に大量の荷車を引かせた、スコットの姿だった。

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