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3‐12

 野営地の中心に建てられた広めのテントの内部では今回の作戦に参加した各ギルドマスターとエーリカが集合し、今後の方針について話し合いをしていた。

 そこにはルクスも参加していたが、当然と言うべきか今日の昼間に集まった時よりも数が少ない。

 議席の中央に座るウィルフリードは手に持った紙の資料を見る傍らに、空いている席へと視線をやった。


「なるほど。ギルド・マクベスとアルターサ、それからもう二つほど」


 先に挙げた二つの名前は、彼の属するグシオンほどではないがかなりの規模を誇るギルド名だった。人数にして大凡、百名程度が参戦していた。

 それらを率いていたギルドマスターの姿はここにはない。


「まあこんなもんだろう。残った副官に指揮を引き継がせろ。それができないようなら残った兵隊はうちで使ってやる」


 淡々と、何の感慨もなくウィルフリードはそう告げる。見れば、ルクスに絡んできていたあの男の姿もなかった。ウィルフリードの言う、もう二つほどに含まれていたようだった。


「彼等は勇敢に戦った。その奮戦と勇猛な生きざま、そして志はボクの勝利という形で歴史に刻まれることだろう」


 エーリカが演技掛かった風にそう言ったが、ウィルフリードはそれを一瞥するだけだった。


「そんな志を持った連中なんざここにはいないだろうよ。欲しいのは富と名声だ。もしくは俺達のように、王家の名前を使って強制的に集められたか。全部持ってる英雄様には理解できねえか?」

「はっはっは! そうだね、ボクには君達のその生き方は理解できない。君達がボクを理解できないようにね。だからこそボクはボクの最も喜ばしい方法で、彼等の死を悼むのさ。戦場で剣を持ち、強敵に挑み、散っていった勇士として!」


 何を言われても、英雄エーリカが揺らぐことはない。それ以上ウィルフリードも何かを言うことはなかった。


「作戦の成果としては上々だ。こっちの戦力も想像より残せたし、別動隊は無事に補給部隊を救出、前線へと向かわせることに成功してる。一週間もすれば、最前線の英雄達は目標地点へと到達する。しかし、一週間分の物資も用意できない王国軍には驚かされる」


 ウィルフリードの嫌味は、誰に向けられたものでもない。強いていうならば、この場にいないスコットだろうか。


「それだけ事は一刻を争うと言うことさ。ボク達がこうして戦力を集める時間を稼げたのも、先行している決死隊の活躍あればこそだ」

「大方、手柄を焦った騎士団の連中が先遣隊の指揮を執ったんだろう。その結果ぐだぐだになってりゃ世話はない。二次派遣の俺達が簡単に指揮権を奪えたのもその辺りが理由じゃねえのか?」


 ウィルフリードの疑問に答える者はいない。というよりもこの場は彼からの報告を聞くだけで、エーリカ以外口を利けるような状況ではなかった。


「まあいい。話は以上だ。今日はよく休め、明日には軍を動かし、最前線に向けて進軍する」


 そこ言葉に、若干だが空気が弛緩する。

 集められた各ギルドマスター達は口々に返事を残してその場から去っていった。


「あぁ、魔獣殺し」


 一瞬そう呼ばれたのが自分であることに気付かなかったルクスだったが、ウィルフリードがこちらを見ていることに気付いて、立ち上がったままその場に留まる。


「なんですか?」

「ついさっき報告が入ったんだが、ここから半日ほど東に逸れたところに、亜人達の集落がある」

「……亜人達の?」

「そうだ。色々と訳ありな連中がな。理由を説明してもいいが、自分の目で見た方が早いだろう」

「助けに行けってことですか?」

「命令じゃねえがな。便宜上俺が指揮を執ってるが、別に俺達グシオンに他のギルドが従わなきゃならない理由はねえ」

「どうしてそれを僕に聞くんですか? 別に他の人でも」

「俺がお前を買ってるからさ。このまま行きゃ確実に魔物の群れに襲われて村は滅びる。そう言うのが見捨てられない質だろう?」


 実際、それはその通りだ。別にウィルフリードに言われなくても、その話を聞いたルクスはそちらに向かったことだろう。


「わかりました。僕達は別行動をして、その村に向かいます」

「あぁ、そうしてもらえると助かる。これを」


 テーブルの上に大きな紙が一枚と、数枚の折りたたまれた書状のようなものが乗せられた。


「俺が知ってる限りの、道中にある亜人の村が記された地図だ。気が済むまで連中を助けたら、印が付けてあるところにまで来い。そこが最前線になってる」

「わかりました。こっちの紙は?」


 近付いて、それを懐にしまう。


「紹介状みたいなもんだ。亜人を保護してる場所に心当たりがある。そこに行くように伝えてくれ」

「……ウィルフリードさんは」

「なんだ?」

「見た目よりいい人なんですね」

「どうだかな」


 実際、思わずそんな言葉が出てしまうぐらいには彼の行動は意外なものだった。


「亜人の保護か。英雄様は、その件に付いてはどう考えている?」


 椅子に座って偉そうに腕を組んだまま、今まで無言だったベオが、エーリカに挑発的な表情を向けた。恐らく彼女は、エーリカが何と答えるかを予想している。


「別に。ボクにとっては、関係のないことだからね。ボクは英雄だ、人間のために戦い、人間の敵を滅ぼす。それだけだよ」


 そう回答したエーリカの声色には、いつもの弾むような活力はない。

 ベオも彼女がそう答えるのがわかっていたからこそ、それ以上は何も追及しなかった。


「やはり歪んでいるな、貴様達は」


 エーリカもウィルフリードもそれには答えない。


「つまらねえ喧嘩を売るんじゃねえよ。それよりももう一つ、騎士団のスコットが俺達が敵と交戦したころに出立したらしい。道に迷ってる可能性もあるが、まぁ見つけたら適当に保護しておけ。あんなのでも一応は俺達の上にあたる」

「あの見るからにぼんくらな男がか? いったい何のために?」

「……さあな。だが、今回必死になってるのは俺達だけじゃないってことだ」


 ウィルフリードの言葉は、ルクスにはよく意味がわからなかったが、ベオは何かを察したようだった。

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