表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/204

エリアスの悩み

 戦いが終わって程なくして、日が暮れて夜がやってくる。

 ギルド連合軍はウィルフリードの指示を受けて、その場で野営地を設立する流れとなった。

 その為の物資は持ってきていたらしく、彼の部下であるギルド・グシオンの隊員達があっという間に作業を終えてくれたので、ルクス達がやることはそれほどなかった。

 現在はギルドの幹部が集まって会議をしているらしく、下っ端であるエリアスは幾つか設けられた焚火の、隅っこの人がいない場所で一人黄昏ている。

 そこに一人、小柄な影がやってくる。

 同じギルドであり、エリアスと同じく逸れ者のアディだった。


「ふへへ……。ここ、いいですか?」

「……おう、好きにしろよ。同じギルドだろ」

「そ、そうですね。でもでも、エリアスさんとはあんまり喋ったこともないので」

「……確かにな」


 アディは警戒するようにゆっくりと、焚火を挟んでエリアスの向かい側に腰かける。


「姿が見えなかったけど、何してたんだ?」

「……食事を少々。やっぱり沢山戦うとお腹が空くので」

「食事って……配給の食料食べた時は一緒に居たと……」


 言いかけて、エリアスは気付いた。

 彼女もまた普通ではないということに。

 言葉が途切れた理由を察したアディは、いつも通り不健康そうな顔に張り付いたような笑みを浮かべる。


「死体処理もできて、一石二鳥……なんちゃって」

「いや、うん。あんたが嫌じゃないならいいけどな」

「全然、嫌じゃないですよ。アディは生まれた時からこうなので、むしろ今はルクス君たちのお役に立てて、嬉しいです。いつでも気力充分で、すぐに戦えるようにしておけば、安心安全」


 むん、と力こぶを作るような仕草をするが、残念なことに彼女の病的なほどに細い腕が盛り上がることはない。


「……役に立てるか……」


 彼女が言った言葉が気になって、繰り返してしまう。


「ひょっとしてアディ、言ってはいけないことを言ってしまった感じですか?」

「いやいや、そう言うんじゃないんだよ。……俺が勝手に悩んで、落ち込んでるだけさ」

「アディでよければお話し、聞きますよ? 何の役に立つかどうかはちょっと聞かないでもらえると助かりますけど、落ち込んだり自己嫌悪したり自傷したりには一家言ある立場だと自負していますので」

「……あー……」


 アディは心の底からエリアスの役に立ちたがっているようだった。それが例え結果としてその方がルクスのためになるからという理由ありきだとしても、その心遣いがありがたい。


「俺、役立たずだよなぁ……」


 改めてそう口にしてみると、思いの外その言葉は重く心に圧し掛かる。


「俺さ、正直この戦いがどうなるかなんて深く考えてないんだよ。このギルドの居心地がいいからさ、ルクス達に死んでほしくなくて」

「あ、アディも、アディもそうです! 別に魔王がどうとか、ギルドの関係がどうとか、難しくて理解できないしどうでもいいです。ルクス君が無事ならそれで、はい。……これってあんまり言わない方がいいですよね?」

「……まぁ、そうだな。でも、俺って何にもならなかったんだよ。ルクスが飛び出していった時も、護るどころか肩を並べることもできなかった」

「それはまぁ、仕方ないかと」


 一目散にルクスを助けに行けたアディにそう言われると、一層辛いものがある。彼女はこんなに細くて弱そうで、おどおどしていたとしてもあの場で魔物達を蹴散らしてルクスを助けに行ける強さがあるのだ。


「……それだけじゃなくてさ、正直怖かったんだよな」

「怖い? あ、アディがですか? アディはちょっと不気味なだけですよ?」

「あんたじゃねえよ」


 ちょっと怖いのは否定できないのだが。


「……ルクスがさ。あんなに必死になって、まるで狂戦士みたいだった。普通じゃないよって、思っちまったんだ。それで、途中で諦めた。ああ、俺はあいつのことは追いかけられないって」

「……正しいと思います」


 そう答えたアディの表情は、いつもの薄笑いとは違う、嬉しそうな笑みを浮かべているような、口元を愉快そうに歪めながらも涙を流そうとしているような、そんな表情をしていた。

 エリアスはそんな彼女の顔を見つめて、思わず聞き返す。自分が今しがた吐き出した言葉を、否定してほしくて。


「ルクスは普通じゃないってことか? それは人造兵だからか? 別にそんなの、珍しいけど、だからって……」

「そう言うものですから。ルクス君もアディも、普通じゃないように造られて、育てられて、でもアディの方がまだマシだったのかも知れません」

「どういうことだよ? お前等が同じ出身だってのは聞いたけど、マシって……だって、人造兵は別に」

「ふへへ、それは秘密です。というよりも、アディが話すべきではないと思うんですよね」

「……それは、そうか」


 確かに彼女の言葉は正しい。ルクスは怒りはしないと思うが、自分の出生を、それも今まで話していなかったと言うことは隠したいのかも知れないようなことを他者の口から聞かされて、いい気分がするわけはない。


「ああ、でも、でもでも。わたしは、アディはルクス君のお友達だから、大切なことを言います」

「なんだよ?」

「エリアスさんと出会えて、ルクス君は幸せですよ」


 それは先程までのアディの表情とは打って変わって、余りにも穏やかな顔をしていた。

 だからエリアスはそれ以上の言葉を失い、ルクスのことを追及するつもりも失せてしまう。

 彼女は嘘を言っていない。そして彼女が語るルクスの心も、きっと偽りではない。

 それはこれまでの彼の行動がそう語っている。そうでなければ、単なる野盗であったエリアスをどうしてギルドに入れてくれたのだろうか。


「……わかったよ。俺に何が出来るとも思えないけど、あいつを信じることだけはやめねえ」

「……ふへへ、嬉しいです。アディを初めとして弾除けは多い方が、ルクス君が生きれますから」

「……お前……」

「ああ、ごめんなさい! 今のは本音がぽろり、じゃなくてちょっとしたジョークです。気分を和ませるための、ブラックなユーモアですです」


 ひょっとしたらこの少女は、思っていたよりもいい性格しているのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ