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残念でならない

 あれだけ蒸し暑く不快だった空気は、瞬く間に寒々としたものへと変わり、地面のぬかるんだ土はたちまちに霜を纏った。

 パキパキと氷が砕ける心地よい音の中心で、ルクスはようやく剣を下ろして立ち止まった。

 周囲には無数の魔物の死体。ルクスが打ち取ったものもあれば、ベオとアディの手によって倒されたものもある。

 その上で、放たれた氷の波動が薙ぎ倒した数も、それらに及ぶほどの数に及んでいたことだろう。

 肌寒い空気の中、霜が張った大地を悠々と歩いてくる人影。


「……絶氷」


 思わずその異名をルクスは口にしていた。

 名前を呼ばれたウィルフリードは、ルクスを一瞥する。


「遅くなって悪かったな、よく持たせてくれた。正直、もっと被害が出てるだろうと思っていたが……」


 凍り付いた魔物達の死体を眺めながら、意外にもウィルフリードはそんなねぎらいの言葉を掛ける。


「伊達に魔獣殺しを名乗ってないようだ。名ばかりの雑魚ギルドより余程役に立つ。……威張り腐って何も行動しない騎士団よりもな」


 ルクスが肯定も否定もしないでいると、その背後からベオが顔を出して、恐れ知らずにもウィルフリードの周りに纏わりつく。


「凄まじい魔法だな、貴様! これだけの広範囲を一気に凍り付かせるとは、並大抵のものではない!」

「あぁん?」

「なあなあ、私に少しばかりやり方を教えてはくれんか?」

「馬鹿かてめぇは。商売敵にそんなこと教えるわけねえだろうが。それにここで言ったところで……」


 言いかけて、ウィルフリードは周囲に転がる魔物の幾つかを眺めた。


「なるほど。魔法を使う獣人ってのも珍しいが……そう言う類でもなさそうだ」


 ベオ一人でどれだけの魔物を焼いたのか、この辺りに炎の魔法を使う者はいない。ウィルフリードは彼女もまた、尋常ではない使い手であることに気が付いたようだった。


「随分と使える部下を持ってるみたいだな」

「ベオは凄いですけど、部下じゃありませんよ。僕の相棒です」


 その言葉に、ベオは機嫌をよくしたようだった。尻尾がぱたぱたと揺れている。


「まあ、どうでもいいが。……相変わらず凄まじい暴れっぷりだな」


 その言葉は当然、ルクス達に掛けられたものではない。

 ルクス達よりも前方の戦場、地面から突き出るような氷の刃によって切り拓かれた道から駆け寄ってくる、赤毛の少女に対して向けられたものだ。


「随分と早い到着じゃないか、マスター・ウィル! 噂には聞いていたが、君の魔法は凄いな! 是非使い方を学びたいところだ!」

「てめぇら英雄に必要か?」

「手の内は多いに越したことはないよ。それにこの絶景、白く彩られた美しき世界! 素晴らしいじゃないか! ボクが歌い踊るための舞台に相応しい!」


 両手を広げて、子供のように回りだすエーリカ。この場で、これだけの範囲の魔法を放ったウィルフリードを入れてもなお、倒した魔物の数はエーリカが圧倒的だった。


「ではここで勝利の歌劇を披露しようと思うのだがどうかな? 主演はボク! 助演は……うーん、君だな!」

「僕ですか?」

「ああ、そうだとも! 懸命にボクに食らいつこうと戦っていただろう? 戦いの最中に少しばかり様子をうかがわせてもらったが、いや、実に見事だった! 君にはボクと一緒に舞台に上がる資格がある!」

「おい、馬鹿なことをやってるな。戦いが終わったのなら、身体を休めておけ」


 ベオが割って入ったことで、歌劇はどうやら中断になったようだった。

 エーリカは残念そうに肩を落としつつも、今度はベオの手を掴む。


「君も実に素晴らしい戦いだったよ。そちらの影の濃いお嬢さんもね」


 話題を振られて、アディが大きく反応しながら、言葉にならない言語で対応しているが、どうやらエーリカはあまり聞いていないようだった。


「そこの獣人の言う通りだ、英雄であるお前はともかく、部隊の損耗が激しい。今夜はこの辺りで夜営して、明日本体に合流するぞ」

「ふふふっ、仕方がないか。お楽しみは魔王を打ち倒した後に取っておくとしよう」


 それだけ伝えて、ウィルフリードは足早にその場を去っていく。


「しかし、本当に見事だよルクス君。君の力、勇気、どれをとっても人より優れ、並び立つ者はいるものではないだろう」


 薔薇の英雄は言葉を切って、ルクスの顔を覗き込む。

 不思議な光彩を放つ、人のものではない瞳を真っ直ぐに見つめて。


「君は英雄に足りえる器だったかも知れない。だからこそ、残念でならない」

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