薔薇の激励
会議を終えたルクス達は、エリアス達が待つ各ギルドに宛がわれた待機所にやってきた。
「随分と立派な場所を貰ったものだな」
横を歩くベオが、尻尾を不機嫌そうに振りながら心にもないことを口にする。
「人数も少ないし、実績もないからね、僕達は」
「……そう言うものか」
実際問題、大勢の人員が入りきらない方が問題なのでこれが正しいのだが、即席で建てられたであろうテントはルクス達四人が入ることも窮屈なほどに狭い。
「よぉ、どうだった?」
テントの横側で座っていたエリアスが、ルクス達を見つけて手をあげる。その声に反応してか、中からアディもひょっこりと顔を出した。
「話しあいって言うか、殆ど確認事項で終わったけどね。やることも作戦も、もう決まってるみたいだし」
「ふーん。それで俺達は何を?」
「各ギルドは魔導師一人を中心として四人一組の小隊を組んでおけって。回復魔法が専門的に使える人は医療班にするから、その人達だけで再編成になるらしいよ」
「魔導師一人の四人小隊……俺達はいつも通りってことか」
「そうだね」
ギルドのメンバーがバラバラにならないで済んだのはルクス達にとっては幸いだろう。エリアスはともかくベオとアディが問題を起こさないはずがない。
「回復魔法は……一応ベオ、さんが使えるけど?」
「貴様は私をぼんくら連中の使い走りにさせたいのか?」
「い、いえいえ、俺もベオさんと一緒に戦いたいっす」
「それでいい。そもそも、貴様等が私抜きで戦えるとは思えんからな」
「頼りにしてるっすよ、ベオさん」
力なく、エリアスがベオに言った。
「アディは大丈夫? すぐに実戦になるけど?」
「ふへへっ……。戦場は慣れっこなので、むしろ帰ってきたというべきか、とにかく大丈夫。ルクス君に、格好いいところ見せたいような……あぁでも可愛いところも見てほしいような……」
取り敢えず問題はなさそうだった。思えば、ルクスとアディの再会は、戦場で彼女が魔物の大軍を薙ぎ払ったところだった。
「僕達はそのまま大隊に編成されて、それからある地点を目指して進軍する。報告によると魔物の大群が補給部隊を襲撃したらしいから、そいつらとぶつかることになると思う」
「お、おぉう……。聞いてるだけで寒気がしてくるぜ……」
「部隊を二つに分けて、素通りできた方が一刻も早く補給部隊の救援に向かうんだって」
「じゃあ、運悪く敵と遭遇した方は……」
「そのまま戦う」
「だよなぁ……あぁー! 頼む、俺達を素通りさせてくれぇ!」
天に向かって祈るような仕草をするエリアスに、ベオの冷めた視線が突き刺さる。
「ここにきて往生際の悪い奴だ。それに素通りできたとしても安全なわけではないぞ、今度は生き残った連中を護りながら、最前線まで送り届けるのだからな。そうなったら当然、そのまま戦闘に参加することになる。本物の激戦区でな」
「いや、そうかも知れないっすけど、最前線には英雄がいるじゃないっすか。俺達の負担もかなり減るんじゃ……」
「馬鹿め。英雄がそれほどの強さを秘めているのならば、もう既に戦いは終わっているだろうが。私達がここに駆り出されたと言うことは、その力を以てしても危うい戦いということだ」
「……そうっすね」
戦う前からすっかり意気消沈してしまうエリアス。
「大丈夫。みんなで戦って、生き延びよう」
エリアスの肩を叩いて、そんな気休めを口にする。
ルクス自身これからこの戦いがどうなるかはわからないが、不思議と恐怖はなかった。
それはやはり、自分が純粋な人間ではないからなのだろうかと、そんなことを心の中で自問する。
そんなルクスの表情に何か思うところがあったのか、おずおずとアディが近付いてきた。
「あ、あの」
「やぁ、さっきぶりだね!」
「ぴゃ!」
高らかに響く声と共にエーリカが現れる。
「エーリカさん」
「これが君のギルドのメンバーが。なるほど、個性的だが、いい仲間達じゃないか」
数が少ないことには一切触れることはない。もっとも英雄と呼ばれるほどの実力者から見れば、人数などさしたる問題ではないのだろうが。
「ば、薔薇の英雄……エーリカ・ライプニッツ! ルクス、お前どれだけ英雄と仲良くなるんだよ!」
羨ましげにエリアスが声を上げる。
「安心したまえ、お兄さん。確かにボクとルクスの間には特別な絆のようなものが生まれるのかも知れないが、君とてこの戦いでは背中を預け合う仲間同士。言うなれば共に死線を潜り抜ける戦友なのだから」
「せ、戦友……俺が、薔薇の英雄の……」
「そちらの少女もよろしく頼む。……君も不思議な力を秘めているね。ふむ、この世界に在らずもの、と感じられるが」
「わ、わかるんですか……? 流石薔薇の英雄……あぁ、でもでも、アディはどちらかといえば英雄に討伐される側のような気がしないでもないので」
「気にする必要はないよ。どんな存在であろうとそれが善良であるならば、ボクにとっては護るべき者なのだからね。戦う自信がないのなら歌えばいい、高らかに、このエーリカ・ライプニッツを讃える賛歌を!」
「……で、何しに来たんだ貴様は?」
疲れたようにベオが尋ねる。
「ああ、そうだった。朗報だ、ボク達の配置が決まった。共に最前線、最も戦場において栄光を手にしやすい場所だ」
「最前線……わかりました」
「臆していないかい?」
「大丈夫です。むしろ、その方が大勢の人を護ることができますから」
「いい目をしているね。そちらの獣人君も」
「当然だ」と、ベオが頷く。
「マスター・ウィルは二つの大隊とは別動隊を率いて、敵の遊撃を行うそうだ。もし敵と遭遇してもすぐに援護は期待できない」
「あいつか。見掛け倒しでなければいいのだがな」
「彼の実力は本物だよ。英雄になっていないのが不思議なくらいさ。そんなマスター・ウィルを全く恐れない君も、相当な大物になるかも知れないね」
「既に大物だ、私は」
「はっはっはっ!」
ベオの大口にも苛立ち一つ見せず、豪快に笑ってみせる。
「出立は二時間後だ。それまで各自、身体を休めておくようにとのことだ」
「はい」
ルクスの返事を聞いて、エーリカは背中を向けてその場から去って行く。
それから二時間。各々の武器や魔法の点検をしている間に、あっという間に進軍の時間がやってきた。




