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マスター・ウィルフリード

 事態は一刻を争うようで、翌日の早朝からスコット率いる騎士団によって、ルクス達は近くの街にあるポータルにまで案内された。

 街の広場に設置されたポータルは淡い光を放っている。


「つい先日か、ここから戦場に赴いたのは。ここから先に待っているのは、あれ以上の地獄だぞ?」


 隣に立つベオが、ルクスに視線だけを向けながらそう告げる。


「わかってるよ」

「緊張しているのか?」

「……少しね」


 ベオの言った通り、ここから先にあるのはこれまでルクスが体験したことのないほどに凄惨な戦場だろう。

 幾人もの英雄達が馳せ、武勇を示す戦いの場。ルクス達はその場に置いて主役でも何でもない、単なる捨て石として招かれているのだから。


「安心しろ。貴様の命は私が保証してやる」

「頼りにしてるよ。僕も、みんなのことは護るから」

「大きく出たな?」


 ルクスの言葉に、ベオは上機嫌そうに尻尾を振るった。

 ちらりと後ろを見れば、荷物を持ったアディと、エリアスがいる。二人を巻き込むのは気が引けたが、アディはルクスが行くのならばと付いてくる気満々だったし、エリアスも表面上とはいえ気合が入っている。

 ルクスの視線に気が付いたエリアスは、無理矢理に作り笑いを浮かべる。


「考えてみりゃ、ここで手柄を立てれば英雄になれるかも知れないだろ? 英雄に憧れて目指してるのは、お前だけじゃないってことだよ」

「そうだね。エリアス、負けないよ」

「ああ! どっちが多く敵を倒すか、勝負しようじゃねえか」


 それが単なる強がりであることは、ルクスにもよく伝わってくる。そうまでして自分を奮い立たせる必要が、エリアスにはあるということだった。

 彼のその覚悟を、ルクスは無下にすることはできない。その身を案じて残ることを命ずることは、エリアス・カルネウスにとっての侮辱となるだろう。


「これで全員だな」


 広場のポータルの中央で、スコットが集めたギルドのメンバーを見渡しながらそう呟いた。

 辺りを見れば、ルクス達の他にも幾つかのギルドが声を掛けられたようで、各々に荷物を持って集合していた。

 ある程度の集団から予測するに、やはり集められたギルドの規模としてはルクス達が一番小さいようだった。


「烏合の衆を集めても意味はない。ここに集まった木偶の坊の内、何人が役に立つか見ものだな」


 腕を組んで、ベオが不遜なことを口にする。

 幸いにして広場の騒めきに掻き消されて、その言葉はルクス達以外に届くことはなかった。

 もっとも、ルクス達の他のギルドからは少人数に加えて子供ばかりということで相当に不審な視線を向けられてはいるのだが。


「全員、広場の中央へと集まれ!」


 スコットの言葉で、彼を広く囲むように集まっていた円が狭くなる。

 淡く輝く魔法陣に全員が足を踏み入れたのを確認したところで、スコットは大きく息を吸って声を張る。


「私は貴様達を先導する、アルテウル騎士団所属のスコットである! 今現在、この国には大きな危機が迫っている。貴君等が今日まで我等騎士団のお目こぼしを受けて武力を維持できていたのはこの日のために……」

「何か始まったぞ……」


 呆れ顔で、ベオが耳をぴくぴくと動かす。

 気持ちよく演説をしようと思っていたスコットだったが、彼の横に立っていた副官と思しき男が、それを中断させる。


「スコット郷。今はお時間が」

「なんだと? 別に待たせておけばいいではないか、ギルドの連中ぐらい。そんなことよりも今一つ緊張感の見受けられないこいつらに、騎士団の威光をだな……」

「そういうわけには行きません。先に待たせているのは、『彼等』ですから」

「……ちっ。わかった」


 面白くなさそうにスコットは表情を歪めて、演説を中断する。

 ルクス達には最早一瞥もせずに、懐から取り出した魔石を魔法陣の中心に投げ入れた。

「これより貴様達が向かうのは大陸南部、『ターラント』樹海だ。我等騎士団の力により、そこには前哨地が築かれている。そこで新たに軍団を編成し、先行した部隊へと追いつくのだ」

 端的にそれだけを告げたところで、足元の魔法陣の輝きが強くなり始めた。

 光は瞬く間に広がっていき、やがて視界一面を覆い尽くす。

 全身が浮揚感に包まれ、気が付けばルクス達の姿はその広場から消失していた。


 ▽


 光が収まり視界が安定するよりも早く、全身を不快感が包み込む。

 気温も、湿度も先程までいた場所とは比べ物にならない。加えて周囲には街の喧騒を超えるほどに騒がしい。

 足元は街の石畳ではなく土へと変化している。そして周りに見えるのも、石造りの建物ではなく、急遽作られたであろうテントや木製の建造物だった。

 周囲には今しがた転移してきたルクス達だけでなく、この地で先んじて活動していた者達が騒がしく動き回っている。

 既に何度か戦いも行われていたようで、負傷者を担いで移動する者達や、痛みに呻く者達もその辺りに転がされていた。


「……やっぱり、とんでもないところに来ちまったんだな」


 ぽつりと、エリアスが呟いた。

 この前哨基地全体から血の匂いと、命を賭けた戦いを前にした人々の高揚が混じりあった、死の空気が蔓延している。


「各ギルドマスター! 動ける連中を数えて報告しなさい! 負傷者の救護はこっちでやるから、余計なことに気を回してるんじゃない!」


 聞き覚えのある金切り声に顔を向けると、部下達に向かって怒鳴り散らすフィンリーの姿があった。

 彼女はルクス達に気が付いたのか、一瞬こちらに視線を向けたようだが、すぐに金色の髪を翻して大股で歩き去って行く。


「ふへへっ、フィンリーさん、元気そう」

「そうみたいだね」

「以前のようなやらかしをしなければいいがな。もっとも、ここの最高指揮官は奴ではないようだが」

「貴様達! 私語を慎め! これより貴様達は我等騎士団へと臨時に編入され……」


 スコットが揚々と叫ぶが、その声は途中で中断される。

 今この場に集まった誰もが、最早彼の方を見ていなかった。


「何をぼうっとしている! 私の後ろに何が……!」


 一瞬背後を振り返り、その場に立っている人物にスコットは息を飲んで黙り込む。

 すっかり静かになった彼の代わりと言わんばかりにその人物は前に歩み出て、集まった者達を労うようにゆったりと話し始めた。


「よく来てくれた、諸君」


 後ろに撫で付けた黒髪に、長身。鋭い眼つきをした男。

 集まったうちの誰かが、その名を呟いた。


「ウィルフリード……ギルド・グシオンのギルドマスター、絶氷のウィルフリードだ」


 その名を呼ばれた男、ウィルフリードは気にすることもなく、ルクス達を纏めて睥睨する。

 値踏みするような、無礼とも言えるその視線に意見できるものは、その場にはいなかった。この場の全員が、彼の持つ雰囲気に圧倒され飲まれている。

 アルテウルを二分する大規模ギルド、その一方であるグシオンを束ねる男の姿に、畏怖の念を抱いて見つめることしなできないでいた。――ルクス達を除いて。


「……骨のありそうな奴もいる。各々、言いたいことはあるだろうがここに至っては俺達は共に戦う同士だ。魔王というのは厄介で、英雄様に任せておいてもなかなか解決するわけでもないようだ」

「貴様、我が国の誇る英雄達を愚弄する……」

「そう言われたくなけりゃ、俺達がこんな場所に呼び出される前に解決しておくもんだ。実績が伴ってない騎士団に、何の価値がある?」


 その言葉と共に一睨みされ、スコットは押し黙る。


「さて、見ての通り我が国の誇る騎士団は自分達の座る椅子を磨くのに忙しいご様子だ。細かい作業はこちらでやらなけりゃならん。ま、誇り高き王国騎士団を煩わせちゃならんってことだな。そこで、代表者二名、こっちに来てもらおう」


 ウィルフリードの言葉を受けて、集まったギルドから二人が彼の前に歩み出ていく。


「ルクス、頼むぜ」

「もう一人は……ベオ、お願いできる?」

「当然だ」


 ベオは腕を組んだまま頷く。

 ルクスと並び立ってウィルフリードの前に歩み出る。


「ミリオーラのギルドってのはお前等か?」


 ウィルフリードは鋭い視線を向けながら、そう尋ねた。

 ルクス達の背後で、咎められたわけでもないのにエリアスとアディが身を固くする。


「……はい、そうですけど」


 ルクスも負けじと、ウィルフリードを睨み返す。ルクス達は彼のグシオンの代わりにミリオーラにやってきた魔獣を退けた。そして本来ならば彼等が使うはずだった建物で、そのままギルドを経営している。

 下手をすれば言いがかりを付けられて、抗争が起こってもおかしくはない。


「まだガキだが、度胸は一番あるようだな」

「……そうですか?」

「ああ。魔獣の件は助かった。ありゃあこっちの落ち度だ」

「やってくれたのは殆どアレクシス様ですから。僕は、本当に少し手を貸しただけです」

「こういう時は、多少は驕っといてもいいもんだがな。まあいい、行くぞ」


 身を翻し、ウィルフリードがルクス達を先導する。

 とてつもない威圧感を持つ目の前の男に怖気づくことないルクスの態度に、その隣でベオは愉快そうに笑っていた。

 そして同時に、彼に一目置くような視線も、周囲から集まって行くのだった。

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