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アルテウル王立騎士団

 アルテウル王立騎士団。

 この大陸を治める神の末裔の国、アルテウルの直属騎士団を指してそう呼ぶ。その中核をなすのはアルテウルに古くから根ざす貴族達であり、彼等こそが王族を守護する盾でもある。

 しかし同時に、魔王戦役や度重なる戦いによってその力は大きく疲弊し、今ではギルドに劣る戦力と評されることもある。

 とはいえ、それでもまだその権力は絶大であり、例え最大級の規模を誇るギルドであろうと、直接的な反乱を起こせるほどではない。加えて、王立騎士団には『英雄』も所属している。

 国の力が衰え様々なギルドが力を付けたと言われていても、それでもなお強い権力を持てるだけの理由が彼等にはあった。


 今日ルクス達の元にやってきた男は『スコット』と名乗る、髭を生やした中年の男だった。

 今現在一同は夕立亭のテーブルにて向かい合っている。もっとも、スコットの向かいに座っているのはルクスとベオだけで、他の二人は別の席で聞き耳を立てているだけだが。

 スコットの部下達もそれぞれ別の席に座り、食事を注文してはいるもののことの成り行きを見守っているようでもあった。


「あの、お茶を」


 エレナが三人分のお茶をテーブルの上に置き、頭を軽く下げて戻って行く。

 彼女の行動が合図のようになり、スコットが口火を切った。


「ギルドに応接室すら持たない連中とはな」

「お恥ずかしながら」


 今のルクス達のギルドの拠点には、大きめのテーブルなどはない。まさか個人の部屋に呼ぶわけにも行かず、この夕立亭を借りることになったのだった。


「ふん。どう見ても弱小ギルドだが……本当に貴様等がこのミリオーラに来た魔獣を倒したのか?」

「証拠でも見せてやろうか?」

「ベオ」


 ベオは早くも目の前の男の態度が気に入らないようで、臨戦態勢だった。


「獣人が……。躾はしっかりとしておけ。王都ならばこのような薄汚い連中は、大通りを歩くことすら許されんのだからな」

「貴様のような阿呆が住んでる場所など、頼まれても行くものか。それよりそんなくだらないことを言いに来たのか? なんとか王立なんとかという連中は、随分と暇を持て余しているようだな」


 足を組んで、ベオは明らかな挑発を見せる。

 本来なら咎めるべきなのかも知れないが、ルクスも大分彼女に毒されてきたのかも知れない。


「英雄アレクシスの推薦がなければ、誰がこんな辺境の地に来るものか……。だがそんな偉そうな態度を取っていられるのも今の内だぞ」


 意外にも冷静なスコットは、懐から一枚の書状を取り出す。

 テーブルの上に広げられたそれを、ベオとルクスは覗き込むようにして眺めた。


「……つまり、どういうことだ?」

「僕達を、政府公認のギルドに昇格してくれるってことでいいんですか?」

「公認ギルドぉ!?」


 そう叫んで立ち上がったのは、背後で話を聞いていたエリアスだった。それに驚いて、アディが椅子から滑り落ちている。


「そ、それって国家から正式に認められたギルドってことですよね?」

「そう書いてあるだろう。平民はその程度のことも逐一説明されなければわからんのか?」

「……俺、一応貴族の出なんすけど」

「つまりどういうことだ? エリアス、説明しろ」

「は、はいはい。政府公認ってのは、つまるところ国が認めてくれたギルドってことです」

「そんなことは言われんでもわかる。それで、私達に何の得がある?」

「幾らでもありますよ。まず国から仕事が回ってくることがあるっす。それだけでも金回りは大分よくなるし、合同作戦ってことで戦力の提供だってあるっすよ。それに加えてしっかり手柄を立てれば爵位やらなんやらだって……」

「別にそんなもんはいらんが」

「だいたいはその小僧の言う通りだ。名も売れるし、こちらの仕事を受けた際には普段のちんけな仕事とは比べ物にならないほどの報酬だって懐に入る」

「……ふむ。貴様の態度は気に入らんが……名が売れるのならば悪くはない話なのではないか?」


 ベオはそう言って、ルクスに視線を寄越した。

「別に貴方の下に付かなければならないとか、そういう話ではないんですよね?」

「当たり前だ。頼まれても、貴様等なんぞ部下にするものか」

「嫌われたものだ」


 やれやれと肩を竦めるベオだが、スコットの態度の半分ぐらいは彼女の所為でもあるだろう。


「魔獣の討伐、フェンリスとの共同作戦。それらの結果から貴様達は我等に認められたのだ。光栄に思え」


 スコットの態度はともかくとして、その提案はルクス達にとって決して悪いものでないどころか、幸運だった。

 ルクスの目的である英雄、それになるためにはまず己の実力を知らしめる必要がある。例え今は力不足だとしても、国家公認として戦っていればいつかはその領域に辿り付くことができるかも知れない。

 それに加えて、単純に仕事が増えてより多くの収入を得られることもありがたい。

 他のメンバーの顔を見て、彼等の意思を確認する。誰もそれに否定的な意見はないようだった。


「わかりました。公認ギルドの話、受けさせていただきます」

「ではここにサインをしろ」


 言われるままにルクスは一枚の紙に署名する。


「それではこの時より、貴様達のギルドは我等アルテウル公認となる。今後は神の末裔である王家のために、身を粉にして働くがよい」

「やったなルクス! 国家公認だって箔が付けば、色々と仕事が増えるかも知れないぜ」


 嬉しそうにエリアスがルクスの肩を叩く。

 その様子を見ていたスコットは、意地の悪い笑みを浮かべて、しまった書類とはまた別の書状を取り出して広げて見せた。


「では、改めて我等が国家公認となった諸君に対して、ギルド招集を発令する」

「……ギルド招集……?」

「貴様達ギルドに対して王家が放つ勅命だ。対象となるのはある程度の規模以上のギルドか、もしくは……」

「公認ギルド、か」


 ベオは何かを察したようで、呆れ笑いにも似た表情を浮かべながら続きを口にする。


「そういうことだ」

「い、いや、どういうことですか? 全然、話がわかんないんですけど?」


 食って掛かるエリアスを一瞥してから、スコットは続ける。


「他のギルドであればいざ知らず、公認となったギルドはこの招集を拒否することはできない。それは、貴様達を認めた国家への反逆となるからな」

「いやいやいや、そんなふざけた話があるわけないでしょ! だいたい、俺達今さっき公認になったばっかりの……」

「一秒前だろうと一年前だろうと変わらぬ。署名をした以上は、貴様達は国家のために尽くす義務がある」


 勝ち誇ったように、スコットが言い放つ。

 ベオの態度にも怒りを見せなかった理由は、思ったよりも早く明らかになった。

 彼はこのために、ルクス達を国家公認へと押し上げたのだった。


「そ、そんなの詐欺みたいなものじゃないですか! 国がらみでそんなこと、許されるんですか!」


 エリアスに続いたのは、エレナだった。詰め寄ろうとするが、立ち上がった騎士達に道を塞がれてそれ以上は何もできない。


「むしろありがたく思え。貴様達臣民に、こうして直接的に国に貢献する機会を与えてやっているのだからな」

「そんな言い方……!」

「まあ待て乳女。肝心なのは、その召集の内容だろう。私達の得意分野は猫探しとゴミ拾いだが、役に立てるような仕事なのか?」


 真剣なのかふざけているのか、ベオはそんなことをスコットに尋ねた。

 スコットはベオの言葉を半ば無視し、ギルドマスターであるルクスへと嫌な視線を向ける。


「時期に噂は流れてくるだろう。これより南方の地で、魔物達の大量発生及び行軍が確認された」

「……そ、それって、つまり……」


 エリアスが息を飲む。

 スコットの言葉を聞いたエレナの顔色もまた、見る見るうちに青ざめて行っていた。

 そう、この国に住む者達の中で強い恐怖として刻まれた出来事。

 僅か数十年前に、多くの悲劇をもたらした大災厄。


「魔王再誕だ」

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