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釣り

 ミリオーラからそれほど離れていない街道沿いの川辺。

 そこで釣り糸を垂れる少年と青年の姿があった。


「いやー、やっぱりこういう楽な仕事が一番だな」


 そう語るのはエリアス・カルネウス。隣に座る少年、よりも少し年上で、ギルドの雑用係をこなす苦労人だった。

 もう一人の、一見すると少女のような顔つきをした少年の名はルクス。見た目通りの若さでありながらギルドマスターである。

 彼の瞳をよく覗き込むと、不思議な光彩を放っており、それがルクス・ソル・レクスが普通の人間でないことの証でもあった。


「ベオは怒ってたけどね」


 そんな彼等のギルドは、このミリオーラでもちょっとは名の知れた組織となっていた。ミリオーラ自体にはギルドは他にも幾つかあるが、敢えてルクス達を頼る者達も多い。

 今日受けた仕事は、付近の森に出現した魔物の討伐だった。それは幾つかの戦いを潜り抜けた彼等にとっては造作もない仕事であったし、現に半日も経たずに完了している。


「ベオさんはもう少し落ち着いた方がいいと思うんだけどなぁ。魔獣を倒して、フェンリスと一緒に共闘して魔物の軍団と戦って、そっから今度はフェンリスに喧嘩を売る。そんだけのことやらかしたんだからさ」

「あはは……」


 ルクスは苦笑いを返す。

 エリアスの持つ竿がぴくりと揺れ、彼は見事に魚を釣り上げた。手際よく魚から針を外して、籠に入れていく。


「俺としちゃあ、心臓が幾つあっても足りねえよ。そりゃ付いてくって決めたのは俺だけどさぁ、なんつーか、もうちょっと常識的なギルド運営をだなぁ」

「それはそうかも知れないけど」


 今度はルクスの竿が揺れた。

 すぐに引っ張るが、残念なことにその先に付いていたのは川を流れてきた藻の塊だった。


「でも色々あった方が楽しいし」

「楽しいって……お前何回死に掛けたんだよ……」


 呆れたように、エリアスは言う。

 藻を外して、再び釣り糸を川に投げ入れる。

 温かな陽気、軽い風が辺りの草花を揺らす音が耳に心地よい。

 平和そのものの空気は嫌いではないが、ルクスもベオと同じようなことを心に抱いている。


「でも、その分だけ英雄に近付いてる。……多分だけど」


 ルクスの目的は英雄になること。

 この世界の柱とも呼べる英雄。幾多の災厄を退け、人を護り続ける戦場の綺羅星達。

 そんな英雄になることは戦いに身を置く者達誰しもの夢であり、一度は目指さんとする目標でもある。

 ルクスも、そしてその隣にいるエリアスも。


「……お前の生き方じゃ、英雄になる前に死んじまうよ」

「……エリアス?」


 その声は冗談めかした風でも、馬鹿にしたようでもない。

 純粋にルクスのことが心配で、エリアスはそう言ったのだった。


「丁度いいペースってのがあると思うぜ、俺にもお前にも」


 目の前の少年は、エリアスにとっては余りにも危うい。

 覚悟が決まり過ぎていた。自分で決めた信念のために、困っている誰かのために、容易く命を賭けてしまう。そしてそれを後悔することはない。

 その生き方はエリアスにとっては眩しく羨ましいものでもあり、同時に友人として止めなければならないほどに不安な要素でもあった。

 ベオも、新しくギルドに入ってきたアディも、ルクスのそう言った部分を恐らく理解しているであろうに止める気配はない。

 それが彼等の絆であるというのなら、エリアスが口を挟むことではないのかも知れないが、それでも自分だけはルクスのことを普通の人間として留めておかなければならないと、そう思っている。


「お前は充分強いよ。それに度胸もあるし、立派なギルドマスターだ」

「急にどうしたの?」

 照れ笑いを浮かべながら、ルクスがエリアスを見上げる。

「……無茶すんなってことだよ。俺も、お前に合わせて無茶して死にたくねえ」

「努力するよ」

「おう、努力してくれ」

「でもこのままじゃ全員を養えないから、もっとちゃんと釣らないとね」

「俺の半分も釣れてないお前がそれ言うか?」


 共通の籠には魚が四匹。エリアスが釣ったのがそのうちの三匹だった。


「藻とかゴミを引っ掛けることに関しちゃ、お前の方が上手いみたいだけどな」


 そう言ってる間に、ルクスは再度穴の開いた籠を釣り上げていた。ムッとした顔でエリアスを睨んでくる。


「そこの二人組、少しいいか?」


 二人のやり取りに割り込むように、少し離れたところから声が聞こえてきた。

 後ろを振り返れば、いつの間に来ていたのか街道には数匹の馬と、それに跨る軍服姿の男達が立っていた。


「なんですか?」

「ミリオーラの住民と見受けるが、道案内を頼みたい」


 先頭の男はそう言うと、懐から革袋を取り出してルクス達の足元に投げつける。

 重量からいって、中身はお金だろう。先程までみんなを養えないなどと話していたが、彼のその態度には嫌悪感を抱かざるを得なかった。


「ミリオーラにできた、新しいギルドにな」

「新しいギルド?」

「ああ、そうだ。お前も同じ街に住んでいるなら知っているのではないか? 魔獣を倒し、フェンリスと揉め事を起こした命知らずの馬鹿共だ」

「馬鹿って……!」


 立ち上がり、食って掛かろうとしたルクスを、エリアスが制する。


「ルクス、落ち着け! この人達……」


 彼の着ている軍服には、目立つようにある徽章が掲げてある。

 それはこの大陸に置いて最も権力を持つ者達である証。

 神の仔、その王家に認められし彼等の守護者達。


「……アルテウル王立騎士団だ……」

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