子供達の罪と罰
白い世界に少女は連れてこられた。
戦災で両親を失った、哀れな子供。
そこには母親のお腹から生まれてこられなかった子供達がいて、彼等は少女を奇異の目で見ていた。
彼等からすれば、少女は奇妙だったから。
少女の目に見た、彼等が奇妙であったように。
少女は人でなければならなかった。何度も何度も実験を繰り返した末に、『それ』は造られた肉体には馴染まなかったから。
連れてこられたのは少女だけではない。
綿密なデータを取って、それらを次に生かすために、何度も何度も儀式を強いられ、失敗した子供達は肉片となって飛び散った。
血の匂いと、子供達の悲鳴が染み込んだ嫌な空間。
『それ』が何処からどうやってやってきたのかは誰にもわからない。
ただ、大人達は何かにとり憑かれたように、実験を繰り返す。
仲良くなった子が連れていかれて、そして帰ってこなくなる。
大人達は顔色一つ変えず、紙にひたすらにメモを溜め込んでいく。
帰ってこない友達を待ちながら、少女は泣いていた。
「泣いてるの?」
膝を抱えて蹲る少女に、そう声が掛かる。
顔を上げると、そこには一人の少年が立っていた。顔立ちは女の子みたいで、辛うじて服装から男の子であることを理解出来た。
白い部屋の中で、まるで彼だけが色を持っているかのような綺麗な少年だった。
「……友達が、帰ってこない」
「そうなんだ。友達って、仲のいい人の事だよね。一緒に泣いてあげたいけど、僕にはそれがわからないから」
「どうして?」
「生まれたばかりだから、友達がいないんだ。僕じゃない僕には、いたかも知れないけど。それは多分、もう違う人だから」
少年の言葉の意味を、少女は理解できなかった。
「もし君さえ良ければだけど、僕と友達になってもらえないかな? 大切な人が欲しいんだ。それを護りたいって、誰かが言ってるから」
少年の言葉の意味はわからない。
それでも、彼が少女を慰めようとしてくれているのだけは伝わってきた。
だから、少女は少年の言葉に小さく頷く。
「本当? やった! これで僕はまた、成功に近付けるかも! ……じゃあ、君は僕の最初の友達で大切な人だから、護ってあげるね」
「う、うん……」
綺麗な彩色の目が、少女を覗き込む。
それが、少女と少年の最初の出会いだった。
彼と出会ったことが幸運を呼び寄せたのか、少女の実験は成功した。
死なずに実験室から出ることができた少女は、己の生を噛みしめ、大人達に観察されながらも少年と同じ時間を過ごした。
時間が経つにつれて、少年の妙な発言は影を潜めた。そんなことを言っていたことすらも、もう覚えていないようだった。
少女だけがそれを覚えていることが、なんとなく誇らしかった。
そして、あの日がやってくる。
全てが炎に巻かれた火。
必死で少年の手を掴んでいたけれど、少女は最後の最後で彼を信じきることができなかった。
力を緩めてしまった。
二人の手は離れ、もう繋がれることはなくなった。
これは罰なのだ。
外の世界で少女は色々なことを知った。
自分は普通ではない、怪物であることも。
少女が背負った『その名』が、人の世では忌み嫌われるものであることも。
それ故に、もう二度と少年と同じ道は歩めない。
研究所で盗み聞いた話によれば、彼は『英雄』の道を歩むはずだから。
――我慢しよう。
それでもきっと、幸福なのだと自分に言い聞かせよう。
少なくとも、ここに居場所がある。必要としてくれる人が現れた。
それはとても幸福なことだ。忌むべき存在である自分には、それだけで充分だ。
――しかし、現実は非常過ぎて。
少女はまた、居場所を失った。




