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トロール撃破

 ベオの炎が櫓の上部に直撃し、そこにいたオーク達を纏めて焼き払う。炎に巻かれて木でできた櫓はバキバキと音を立てて崩れていった。

 その隙に、ようやくルクスは門まで辿り付くことができた。

 門の裏側から抑えているゴブリン達へと斬り込み、二匹を薙ぎ倒す。


 五匹を相手に苦戦していたのも過去の話。今のルクスにとって、ゴブリンならばものの数ではない。

 同時に城壁の上部にある歩廊へと、炎の榴弾が次々と降り注ぎ、そこから地上へと矢を放つ魔物達を焼き払って行く。

 ルクス達が内部へ突入したことにより連携が乱れた隙を縫って、本体の魔導師達が進軍を開始した証だった。

 そして、ルクスは目の前にいる一匹の巨大な魔物と対峙する。

 門の裏側で侵入者を待ち構えていたそれは、背後から強襲してきた少年に対して牙を剥き、乱暴に持っていた棍棒を振りかぶって応戦する。

 緑色の肌をしたその魔物は、手に剣と盾を持ち、荒い息を吐きながらルクスに迫る。


「……来い、僕が相手だ」


 大きく腕を振り上げてから、一撃が落ちてくる。

 ルクスを狙ったそれは、同時に少年に襲い掛かろうとしていたゴブリンごと纏めて薙ぎ払い、絶命させる。

 間隙を縫って滑り込むように足元に潜ったルクスが、擦れ違いざまに黒の剣でその足元を斬りつけた。


「浅い……!」


 ルクスの一撃は、僅かにその膝に傷をつけた程度。

 そしてお互いに振り返って武器を構えている間に、その傷は再生しつつあった。

 次々と打ち下ろされる棍棒の一撃を避けながら、その隙間に攻撃を差し込んでいく。

 腹を、足元を、腕を、指を斬り飛ばしてもトロールはすぐに再生し、痛みを感じるような素振もなく、ルクスに向かってくる。

 唯一の救いは、自分の周囲を飛び回るルクスに対してトロールが苛立ち、他へと注意を向けないことだろうか。

 ルクスが戦っている間にも城門が何度も揺れ、外側から打ち破られようとしているのが伝わってきていた。


「僕がこいつを倒せば!」

「後ろだ、でかぶつ!」


 高らかな声と共に、影が飛来する。

 銀色の軌跡を描いて飛翔したベオは、その手に纏った炎を放つ。

 それは真っ直ぐにトロールの背中に直撃し、腹に穴を穿った。


「やった……?」

「まだだ!」


 一瞬緩みかけた気を、ベオの声ですぐに引き締める。

 トロールは腹に穴を開けられながらも、その棍棒を手放しはしない。目を血走らせ、口からは血の混じった涎を撒き散らしながら、武器を滅茶苦茶に振り回してルクス達を攻撃し始めた。


「奴を仕留めるには首を落とすしかないようだな」


 隣に立ったベオがそう言った。


「首……? わかった、やってみる」

「あ、おい!」


 ベオが何かを言う前に、ルクスは駆け出す。

 このまま城壁を破っても、このトロールが倒せなければ多くの被害が出る。

 そうなる前にこいつを倒すことが、今のルクス達に課せられた義務だった。

 倒壊しかけた建物の中に入り込み、二階へと駆け上がる。

 二階の部屋の中にある窓を剣で叩き割ると、丁度その下あたりにトロールの首があった。

 足を掛け、飛び降りる。


 地上では、ルクスの真意に気付いたベオがトロールの注意を引いていた。

 彼女の派手な魔法は敵の気を引きやすい。今はそれが有利に働いていた。

 両手に握った剣を、背中を向けるトロールの首もとに突き立てる。

 だが、弾力のあるトロールの首はそれだけでは斬れず、まるで埋まるように刀身が動かなくなってしまった。


「くっ、この……!」

「ちぃ!」


 トロールの注意が、首元のルクスに向いた。

 今度こそ命の危険を感じた怪物は、形振り構わず暴れ、ルクスをそこから振り落とそうとする。

 これまでにないほどの力で全身を振り乱し、自らの身体を家屋にぶつけてはどうにかルクスを吹き飛ばそうとしていた。


「確か、こうやっていたな、あいつは!」


 ゴブリンの死骸から手斧を抜きとると、ベオはそこに魔力を込める。

 紅く灼熱するその刃は、単に炎を纏わせただけではない。

 ベオの手から伝わる魔力によって、熱を帯びた魔法の刃と化していた。


「エンチャント……?」

「飛べ、ルクス!」


 ベオが振りかぶり、手斧が投擲される。

 回転しながら真っ直ぐに飛来した斧は、ルクスが剣を引き抜いて飛び降りたそのトロールの首を焼き切り、跳ね飛ばした。

 地面に着地したルクスは上を見上げる。

 首を失ったトロールが片足を挙げたまま、ぐらりと揺れて大きな音と共に倒れていった。


「勝った……!」


 同時に、背後で門が破られる。

 外で戦っていた兵士達が洪水のように内部に侵入し、ルクス達に襲い掛かろうとしていたゴブリンやオーク達を次々と駆逐して行った。


「どうやら、無事に役割は果たせたようだな」


 いち早く手柄を立てるために、兵士達は半ば戦意を失った魔物達を追い立てるように街の奥へと入り込んでいく。

 それらを見送りながら、いつの間にか横に来ていたオーウェンがそう言った。

 彼の手に持った槍は魔物の血に染まっていて、ルクス達がトロールと戦っている間に相当数を屠ったであろうことが見て取れる。


「トロールを倒しちまうとは、驚いた。すぐに加勢に行こうと思ってたんだがね」

「よく言う。途中から、こちらの様子を伺っていたくせに」

「ありゃ、ばれてたか? 怒るなよ、本当にやばかったら助けに行くつもりだったんだから。お前さん達の戦いが見事だから、見入っちまったんだよ」


 懐から煙草を取り出して、口に咥える。

 視線でベオに火を頼んだようだが、そっぽを向かれてしまっていた。


「ちぇ」

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