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オーウェン・スティール

 隙間風の吹く小さな廃屋で夜を明かしたその次の日の事。

 朝を迎えてまだ間もない時間帯に、ルクス達の寝床を尋ねてくる人物がいた。


「よぉ、噂の魔獣を倒したギルドってのは、お前さん達か?」


 壊れかけた扉を抉じ開けるようにして入ってきたのは、無精髭を生やした中年の男だった。


「僕達ですけど……でも、それは……」

「あぁ、詳しい話はお嬢ちゃんから聞いてるよ。だが、それでも大勢の人間を救ったことに違いはないだろう?」


 改めてそう言われてルクスが返答に窮していると、男はにやりと笑って傍に寄り、手を差し出してくる。


「オーウェン・スティールだ。お前さん達を預かることになった。よろしく頼む」

「あ、よ、宜しくお願いします」

「おう、頼むぜ。一応俺はお前さん達の隊長になるんだが……ま、あんまり堅苦しいのはなくていい。ここは貴族達の騎士団じゃなくて、ギルドなんだからな」


 言いながら、テーブルの上に取り出したパンを幾つか並べていく。


「朝食の配給だとよ、食っときな。今日は沢山働いてもらうからよ」

「働くのはいいが……人員は三人だけか?」


 ぴょんと椅子に飛び乗り、パンを片手に掴みながらベオがそう尋ねる。


「ま、そうだな。俺もお前さん達も、嫌われたらしい。残念なことにな」

「残念なものか。価値のわからん馬鹿共のために力を振るわずに済んでほっとしている。無能な味方程恐ろしい者はないからな」

「言うねぇ……」

「すみません。その子、ちょっと口が悪いんで」

「いや、このぐらい生意気な方が可愛げがあるさ」


 オーウェンも椅子を引いて、そこに腰かける。

 ベオは何故かその様子を不思議そうに眺めていた。


「意外だな」

「何がだい?」

「当世の者達は、私が不遜な物言いをすると決まって獣人如きがと悪態を吐く。貴様にはそれがない」

「あー……。ま、世の中色んな奴がいるってことさ。別に珍しいことじゃない。獣人を連れた人造兵よりはな」


 オーウェンが口にした言葉に、思わずルクスは手に持っていたパンを落としそうになった。


「え、なんで……?」

「目を見りゃすぐにわかる。昔戦ったことがある。敵としても味方としてもな」

「……そうですか」


 取り敢えず、オーウェンと言う男にとって人造兵も獣人も差別の対象ではないようだった。

 すぐに正体がバレてしまったことは驚きだったが、奇異の目を向けられないだけ気が楽になった部分もある。


「さて、食いながらでいいんだが話を聞いてくれ。戦力の補充が終わったフェンリスの本隊は、ここから南側にある敵の拠点を襲撃する手筈になっている。まぁ、拠点って言っても奴等が占領した街なんだがな」

「それじゃあ、それに僕達も……?」

「ああ、それに参加する。とは言っても本隊には入れてもらえない、遊撃隊だがね」

「遊撃隊?」

「自分達の判断で臨機応変に動いて、手の薄いところをカバーするのが仕事ってことだ」

「つまりは期待されていないから好きにしろと言うことか」


 パンを飲み込んだベオの言葉に、オーウェンは笑顔で頷いた。


「しかし、余りにも急な進軍だな。それでどうにかなる相手なのか?」

「問題はそこなんだよな」


 二個目のパンを手に取ったオーウェンが、椅子の背に身体を深く預けながら、そう返した。


「フェンリスの部隊はここだけじゃなくて、別の街にも分散してる。一応、そいつらを一ヵ所に集める手はずにはなってるんだが、今回は機動力を重視した装備を持っていない。全速力で走っても、今日の日暮れに間に合うかどうかだ」

「敵の戦力は? ここにいる連中だけで何とかなる相手なのか?」

「街に残ってる連中ならならなくもないだろうが、周りの街や森にも奴等は潜んでる。何らかの手段でそいつらが戻ってくると、かなり厳しい戦いを強いられるだろうな。作戦としては初手の奇襲で街を確保、その後にそこを防衛陣地として、増援の到着まで持ちこたえるそうだが」

「ギリギリ過ぎる。攻めるにせよ、もう少し余裕を持つべきだろうな。実際、あのポータルとやらを使えば物資や人員も運べるのだろう? もう少し時間を掛けて戦うべきだな。……なんで間抜け面で私を見つめてるんだ、ルクス?」

「いや、なんか……余りにも普段のベオと印象が違い過ぎて……」


 これが先日アイスのお代わりをねだっていた少女と同一人物とは思えない。ここにエレナがいたら、熱が出たと勘違いすることだろう。


「貴様! 私の聡明さをあれだけ見ていおいてまだ疑っていたのか! ……それにな、戦だぞ、戦。これにて手柄を上げて我等の名を世に知らしめる。血が沸き立たんわけがない」

「いや、しかし変わった獣人を連れてるんだな、お前さんも」

「不服か?」

「いいや、上等だ」


 ニッと、笑うベオに対して同じような表情で返すオーウェン。どうやら、この二人は何かしら通じ合う物があるようだった。


「そこのお嬢さんの言葉はもっともなんだが、問題が二つほどある。一つにポータルによる人員や物資の輸送にはかなりのコストが掛かることだ。あの魔法陣を起動するためには、高純度の魔石を利用するんだが、それがまたお高い。おいそれとは使えないのさ」

「二つ目は?」

「ここのトップとしては、何としても早期に任務を終えて凱旋したいらしい。出世に響くんだと。……馬鹿馬鹿しくなったかい?」

「大丈夫です。それが何であれ、人を救うことに繋がるなら、やってみます」

「……いい返事だ、少年」


 オーウェンは何かに思いを馳せるような表情でそう言って、改めて椅子に座りなおす。

 それから三人は簡単な作戦会議を済ませ、やがて外から号令が聞こえてくる。


 外に出るとフィンリーを中心として多数の戦力が集まっており、目的地を告げられる。

 朝焼けが照らす道を、ルクス達は歩き始めた。


 目的地は魔物に占領された街。ルクス達のギルドの初陣がここに始まったのだった。


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