期待外れの増援
魔物に襲われ廃墟と化した集落。その中で最も損害が少ない建物が、ギルド・フェンリスの中央司令部となっていた。
臨時の指令室兼ほぼ自室と化したその部屋の奥で、フィンリーは机の中から取り出した書類を一瞥して、忌々しげに握り潰す。
「何が……魔獣を倒したよ。とんだ期待外れじゃない」
彼女がそう呟くのと同時に、部屋の扉がノックされる。
「誰?」
「オーウェンだ」
その名乗りに対して何の反応もないことが、入室の許可だと判断したのだろう。扉の向こうの人物が部屋の中に入ってくる。
入ってきたのは、無精髭を生やした中年の男だった。長身で鍛えられた肉体をしているが、口元に締まりはなく、何処か惚けたような風貌をしている。
「何の用?」
「何って……。ほら、今日増援が来たんだろ? そこに、例の魔獣を倒したギルドの奴等が来てるって話じゃないか」
「……その件なら、期待外れよ」
「ありゃ」
などと、さほど驚いた様子もなくオーウェンが声を上げる。その様子が更にフィンリーの神経を逆撫でした。
「だから荒れてるってわけかい。別に現状維持でもいいって言われてるんだ、そんなに焦ることじゃないだろ?」
「あんたとあたしじゃ、意識が違うのよ。確かに上の連中は、ちゃんとした増援の手配が整うまでここを防衛すればいいと言った。その時奴等がどんな目をしてたかわかる?」
「……いいや。あ、煙草吸っていいかい?」
オーウェンがテーブルの上の灰皿を差して、そう尋ねる。
フィンリーは一度も使ったことのない、この家の元の家主のものであろうそれを思いっきり投げつける。
「どうも」
オーウェンは軽い様子でそれを受け取ると、近くにあるテーブルの上に置いて懐から煙草を取り出す。
熱を放つ小さな魔石の欠片でそれに火を付けて、全身から苛立ちの空気を放つフィンリーの目の前で悠々と吸い始めた。
「あいつらは、あたしを見下してた! どうせできないだろうからって、お情けで拾われた没落貴族の娘だからって!」
机を思いっきり叩き、フィンリーが叫ぶ。
「あたしはね、この戦いに勝つの。護りきるんじゃなくて、攻め切って魔物達を殲滅する。そして奴等を見返して、アタシの出世の足掛かりにしてやるわ」
「気合入ってるなぁ」
「当たり前でしょう。なのにあのロクに役に立たなさそうな兵隊はなによ……。どいつもこいつも、一人じゃゴブリンも倒せなさそうな顔して」
「顔で決めるのはどうかと思うけどな、俺は。つっても戦力として見た場合に、フェンリスの兵隊と比べて見劣りするのは仕方ないだろうよ。練度も、装備もそっちの方が遥かに上だ」
「ええ、わかっているわよ。それに、あんたが次に言うこともね」
「……ほう?」
「どんな兵士もちゃんと使って見せるのが、将としての腕の見せ所でしょう? オーウェン・スティール」
「……そうだな。もっと言えば、ちゃんと生還させてこそなんだが」
「そんな綺麗ごとに興味はないわ。そのための今回の招集なんだから。精々、あたしの出世のために役立ててあげる」
「命の無駄遣いはお勧めできないんだがね」
「うるっさい! あんたは今、あたしの部下でしょう? 自分が金で雇われた傭兵に過ぎないことを理解しなさい!」
「ごもっともで」
「あたしは絶対にこの戦線を切り抜ける。どれだけの犠牲が出ようともね。そのためにわざわざ本部から秘密兵器まで呼び出したんだから」
「ほぉ、秘密兵器ねぇ。そいつはいったい……」
「言ったら秘密じゃないでしょう」
それもそうだ、とオーウェンは口を噤む。
「で、俺の部下はどうなりそうだ? また激戦区に飛ばすなら、それなりの奴を……」
「心配しなくてもとびっきりのを用意してあげるわよ。魔獣を倒したって噂の奴等をね」
完全にフィンリーはその二人をオーウェンに押し付けるつもりだった。
今のフィンリーの反応からしてオーウェンは詳しくはわからないが、期待外れだったのだろう。そんなお荷物を背負わされることに辟易しながらも、彼が命令に逆らうことはなかった。




