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ギルド・フェンリスからの手紙

 夕飯を終えてルクスがギルドの自室で時間を過ごしていると、エレナとの買い物を終えたベオが扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んでくる。


 新しい服を纏い、上機嫌そうに、


「ふははっ、どうだ? なかなかに機能的で可愛らしいだろう!」


 出掛ける前までの格好とは打って変わり、上はへそ出しの丈の短いシャツ、下はショートパンツと、随分と身軽な格好になっていた。

 ブーツや膝上まで覆うソックスも新調したらしく、女の子らしさと機動性が上手に両立されている。


「うん、いいんじゃない?」

「他にも何着か買ったのだがな。それはまぁ、機会があったら見せてやろう」


 くるくると回ってルクスに自分の格好を見せびらかしている。耳はぴんと立って、尻尾をぶんぶんと振っているところからして、大分気に入ったようだった。


「エレナさんに迷惑は掛けなかった?」

「……お前、私を童か何かだと勘違いしていないか?」


 見た目は子供のそのものだし、中身に関してはなんなら子供よりも質が悪い。


「心配は要らぬ。むしろ奴の着せ替え人形代わりになってやったのだから、こちらの方が大変だったんだぞ?」


 曰く、次から次へと試着させられたそうだった。確かに人形のように容姿が整ったベオをあれこれ着飾るのは、人によっては楽しそうだった。


「だがまぁ、それなりに楽しかったぞ。内緒でアイスももう一つ買ってもらったしな」


 いったい誰に対しての内緒なのだろうか。

 何にせよ、またエレナには借りを作ってしまったようだった。服の代金もベオが持っていたお金では足りないだろうし、後で払いに行かなくてはならない。


 そんなことを考えていると、ベオが開けたままにしている扉の向こうから、猛然と階段を駆け上がってくる足音が近付いてくる。

 当然、このギルド内にそんな風に立ち入るのは他に一人しかいるわけもなく、案の定やってきたのはエリアスだった。


「こ、これ見たか? いや、見てるわけないか、俺が今持って来たんだから……。とにかくルクス、これ見てくれ!」


 かなり焦っているのだろう。わけのわからないことを言いながら、エリアスが一枚の封書を差し出してくる。


「……これって?」

 差出人は、『ギルド・フェンリス』。綺麗な文字でそう書かれている。


「ギルド・フェンリス……」

「なんだ、それは?」


 ルクスが座っている椅子の隣に移動したベオは、エリアスに尋ねた。


「グシオンと並ぶ、大規模ギルドっす。色んな方面に手を出してるグシオンと違って、フェンリスはその全てが傭兵部門……もっと言うと、軍事に振り切った武闘派っすよ」

「武闘派? グシオンとやらもそうだっただろうが。揃って魔獣に一蹴されたようだったが」

「それはそうかも知れないっすけど……。どっちにしても俺達とは規模の桁が違うんすよ」

「私達より規模の小さいギルドがいてたまるか」


 現状人数三名。ベオの言葉はもっともだ。

 しかし、恐らくエリアスが言いたいのはそう言うことではないだろう。界隈切っての武闘派、それがルクス達に手紙を寄越した意味。


 まさか、ギルド間で抗争をしようと言うわけではないだろうが。


「何でもいい、来るから倒すだけだ。そのぐらいやった方が、英雄としても箔が付く」

「なんでそんなに好戦的なんすか……」


 二人の会話を余所に封を切って中に入っている手紙を読む。

 そこには丁寧な文字で、簡潔に用件だけが記されていた。


「……なんと?」

「字、読めないんすね?」

「うるさい。当たり前だろうが」


 千年前の文字なら読めるそうだが、そんな言葉を今の時代に使う人はいない。


「……えっと、なんか共闘依頼? 救援要請みたいな……」

「はぁ?」

「なんだ、やはり見掛け倒しか」


 ルクスの横に椅子を引きずってきて、それを越しかけたベオが手紙を覗き込みながら言った。

 内容を簡潔に説明すると、グシオンに代わり魔獣を討伐したことに対する祝辞。そしてギルドとしてお互いに切磋琢磨しようという激励。最後に本題として、とある樹海に発生した魔物討伐に対しての共闘依頼が書かれていた。


 その理由としては、今後ギルドとして連携を取っていくに際して、まずはお互いの実力をしっかり把握するためと理由が付けられている。


「ふむ……。つまりは、私達の実力を試そうと言うことか」

「そりゃまぁ、向こうからしたら名前も知らない謎のギルドがグシオンを追い払って、魔獣を倒したわけですからね。幾ら英雄アレクシスの力添えがあったとしても、普通じゃないっすよ」


 むしろ、アレクシスがルクス達を魔獣を討伐した者として称賛したことも噂に拍車を掛けているのだろう。


「恐らくは現地で私達の戦力を見て、あわよくば向こうの力を見せつけ内部に取り込もうという腹だろうな。そして呼び出しに応じなければ、その程度の相手だったと判断されるわけだ」

「別にそれでもいいと思うけど……」

「それで興味を失ってくれればいいがな。こちらの力がないことを知れば、下手をすれば武力で事を起こすかも知れんぞ。グシオンに先を越されたから黙っていただけで、狙いはこのミリオーラに根を張ることだろうしな」


 ミリオーラは大きく、先の戦争による被害も少ない街だ。それ故にフェンリスは、グシオンに先を越されたことを歯がゆく思っていたのかも知れない。


「……それで、どうする?」

「……取り敢えず、行ってみようと思う」

「本気かよ!」


 驚きの声を上げるエリアスとは裏腹に、ベオは楽しげに唇を歪ませて、ルクスの肩に寄りかかるように身体を寄せる。


「それでこそ私の英雄だ! それにエリアスよ、考えても見ろ。この場合の一番の解決方法は、私達が直接出向いて力を見せつけてやることだろう。貴様達に屈服させられるほど甘い相手ではないと、教えてやる」


 紅い瞳を爛々と輝かせながら凶悪な笑みを浮かべ、逸る気持ちを代弁するかの如く、ベオは手に浮かべた炎を弄ぶ。


「そう言うわけじゃないけど……。ただ、魔物と戦ってるならその手伝いをするのは悪いことじゃないし、直接会って話すことでわかることも色々あると思うんだ。向こうが僕達に絶対に悪意を持ってるとは言い切れないわけだし」

「まぁ、どちらでも構わんな。それに大規模ギルドならばむしろ都合がいい。私達の名前を売る機会でもある」

「それもなくはないね」

「くくっ、楽しみになってきたな!」

「……マジか……。ルクス、魔獣の時から思ってたけど、やっぱお前も相当無茶な奴だな」

「あはは、まぁね」

「ま、とはいえこれも乗り掛かった舟だしな。確かに二人がいればなんとかなる気もしてくるし」

「あ、いや。エリアスは留守番していてほしいんだけど……」

「な、なんで……? あぁ、いや、こっちの仕事もしないといけないからか……。うん、仕方ないよな」


 言いながらも、エリアスは何処かほっとした様子だった。


「大口の仕事があるからって、地域の活動をおろそかにはできないからね」

「それもそっか。うかうかしてると他のギルドに仕事取られるからな。最低限はやっておかないと」

「うん、だからこっちも大切なんだけど」

「……任せとけって! 二人の留守はしっかり守っといてやるからよ!」


 手紙の最後には、共闘依頼を受けるならば向かうべき場所が書かれていた。


 その夜に準備を整え、翌日にはルクス達はその指定された街へと向かうことになった。


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