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呪いの坩堝

 投げ入れられる。


 投げ入れられる。


 僅かな光の差す穴から、投げ入れられる。


 痩せ細った男、骨と皮だけの老人、泣きながら息絶えた女。

 自分が死んだことにも気付かない子供。

 生まれることもできなかった胎児。


 投げ入れられる。

 次々と投げ入れられる。


 少女はそれを黙って見ていた。

 小さな呻きを漏らしながら、内側に巣食う怪物の飢えと必死で戦っていた。


 胎の中に仕込まれたのは、魔獣と言う古代兵器。

 亜人の少女は、最も身分の低い彼女は、亜人の住処となることを義務付けられた。


 わけもわからず、魔法で痛覚を消され、無理矢理に開かれた腹の中に、獣を押し込められる。

 それはやがて体内に根を張り、少女の意識を乗っ取り、恐ろしい怪物へと変貌していくだろう。

 それこそが、外にいる者達の希望なのだ。


 虐げられてきた者達が、人間に復讐するための手段。少女は、その道具だった。


 投げ入れられる。

 投げ入れられる。


 土の壁面を転がり、幾つもの死体が重なる。

 そこにあるのは獣人やエルフなど、亜人と呼ばれ住み替え追われた者達。

 肥沃な土地を奪われ、森の奥や洞窟へと住処を移さなければならなかった同胞達。


 それが本当であるかは、少女は知らない。

 噂では、人間の社会で暮らす同胞もいると聞く。だがそれを大人に聞いても、怒られるだけで真実を語ってはくれない。


 だから、これが少女の全ての真実だ。


 この穴倉の底で、惨めな暮らしをする同胞達の、そのまた下の最底辺で、少女はそれを眺めている。


 投げ入れられる。

 投げ入れられる。


 魔物との戦いで死んだ者。

 人間の虐待によって死んだ者。

 病死した者。

 飢え死にした者。


 やがて、少女にも飢えが来る。

 身体の中の獣が、目の前に転がる餌を喰えと、無理矢理に身体を突き動かす。

 少女の抵抗は虚しく、襲いくる飢餓には敵わない。


 腕を持ち上げ、齧りついた。


 血生臭い匂いと、鉄の味が口の中に広がる。

 だが、それ以上に胸の中を支配するものがあった。


 彼等の中にある、怨みだ。

 人間への呪詛で育った彼等の死に際の怒りや苦しみ、自分達を追いつめた者達への怨恨が、一口ごとに身体の中に流れ込み溜まっていく。


 なんと心地よい味か。

 それは少女が亜人だから、人間に恨みを持っているからそう感じたのか。

 それとも体内にいる獣がそうさせたのか。


 すぐにそんなことはどちらでもよくなった。

 この怨念を喰らうのだ。

 この怒りを身体に溜め込むのだ。


 同胞の苦しみを、嘆きを、憤怒を。

 たった一匹の魔獣、たった一人の少女の中に全て取り込むために。


 喰らう。


 ひたすらに喰らう。


 そのために生まれたのだと。


 蓄えられた憎悪の数だけ、外の世界で喰らう人間の味は、きっと美味になることだろう。


 投げ入れられる。

 投げ入れられる。


 幾つもの餌が投げ入れられる。


 死者の数には事欠かない。

 思うがままに、それを喰った。


 そうして少女の中で、人間を殺すための怪物が成長した。


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