銀髪巨乳眼鏡受付嬢ヒナ
遊んでみるのも、いいと思った。
十数人も腕や脚を、掌を蛇の頭に見立てた《握撃LV5》で噛み千切ってやれば、もう向かってくる者はいなかった。運良く出入口が近い者は外へ出て、階段に近い者は二階へ上がった。
そうでない者は、地震でも来たかのようにテーブルの下でガタガタと震えている。
「さすがに全員は覚えてないんだよねぇ」
そう言いながら、ギルド内をゆったりと歩いて回る。舐めた目を向けた冒険者を探す。草原をスキップしているかのように、足取りは軽やかに。
「でも、君の顔は覚えてるなぁ」
頭を抱えて震えている男の肩に、優しく手を置く。
「ヒィい!」
ビクンと電気が走ったように跳ねる男に問う。
「君は亜人族に喧嘩を売るの?」
「いい、いいえぇ? め、滅相もありません?」
裏返る声を上げる男の肩を掴む。
「亜人族に文句をつける?」
肩を掴む手に力を入れる。掌を蛇の口に見立てた攻撃は、王都までの旅でもう体に馴染んできている。
「いいえ! 二度と! 二度と亜人族の方を不快にさせることは! 致しません!!」
《破砕牙LV5》
肩を砕かれ悲鳴を上げる男に、いいよ君は許してあげると言って肩を叩く。また悲鳴を上げた。
何人か繰り返し、飽きてきたところで全員に向かって床の掃除をするように命じた。千切った肉片が床に散らばっているのだ。ついでに、二十本髪の蛇を抜いておいた。
すんなりと言うことを聞いてくれるようになったので、少し気は軽くなった。
「お姉さん。僕の冒険者登録は済んだ?」
「え? は、はい。すみません! ただいま!」
銀髪を後ろで簪でまとめた、生真面目そうな眼鏡の巨乳受付嬢は、戸惑ってはいるがこの惨状に目を逸らしてはいない。多少の流血沙汰には慣れているのだろう。
床がきれいになったところで、イッサとソージを呼んで二人の冒険者登録を始めた。
「へぇ? 意外に悪意は感じないんですねぇ」
「……よく見ろよ。何人か腕と脚ないぞ」
ソージが入って来た時は、軽んずるような目をしていた冒険者も、イッサの姿を見るとさっと目を逸らした。さっき殴りかかってきた男も、イッサに比べれば小さい。
見てわかる強大さは、伝わりやすい。
……うん、これも使えそうだ。ソージを見てそう思った。
二人の冒険者登録をしながら、受付嬢の視線は僕の顔を注視していた。熱っぽい視線に笑い返すと、書類へと目を逸らす。
三人揃って隣接した酒場のテーブルを借りて、ギルドの説明を受ける。
「さて、最初に《冒険者》については、どのくらいご存知なのかしら?」
「えっとね、何も知らない!」
「まぁ。クエストを受けて、達成したら報酬をもらうぐらいしか知らないな」
「タマソン村――というか亜人の村や町には、ギルドなんてありはしませんからね」
僕達は三者三様に応える。中途半端な知識など、無い方がマシだ。取りこぼしのないように全て教えてもらいたい。
「そうね。基本的には、えっと、イッサ君? の言ったとおりね。採集にしても討伐にしても、物資や討伐の証と指定されているものを持って来てもらうわ」
狼だったら牙、ゴブリンタイプだったら耳になるわね、とヒナ嬢は例を挙げる。
「牛や馬とか、食用になる肉は買い取ってもらえるんです?」
「ええ、もちろんよ。買取は肉の新鮮さ、狼だったら毛皮の傷み具合なんかで、買取額が上下するわね」
ソージの質問に答えるヒナ嬢に、イッサが質問を続ける。
「どんなクエストでも受けられるわけじゃないんだろ?」
基本的にはイメージ通りで、掲示板に書かれたクエストを見て依頼を受理。達成してからギルドの受付で報酬をもらうというものだった。
最初はFランクから始まり、評価を受けてEランク、Dランクと上がっていく。受けられるクエストは基本的に自分のランク以下のものだが、一つ上のランクのクエストも受けられるらしい。狩った獲物を取りに来てくれるサービスもあるようで、もちろん運搬費の分引かれるが、馬鹿にできない程度の稼ぎにはなるという。
「今はいいけど、Cランク以上はパーティ名とタグが必要になってくるわ。もう考えてるかしら?」
僕たちは三人で顔を見合わせた。今初めて知ったのだから、考えてるわけもない。なんとなく考えておこう。
「まぁ、今日明日でCランクになんて上がれないわ。Cランクは中堅クラスだもの」
そう言ってヒナ嬢は、各ランクについて説明してくれた。
Fランク 見習い。始めたばかりの新人。
Eランク 新人、三流。討伐クエストも低いものなら安定して達成できる。
Dランク 冒険者。一人前として認められる。
Cランク 中堅、二流。ギルドや公的機関から指名で依頼されることもある。
Bランク ベテラン、一流。ダンジョンへの出入りが許される。
Aランク 超一流。一生を懸けて冒険者が目指す。ダンジョンをソロで十階層まで踏破出来る者。
規定があるわけではないが、全ての者が活躍により国が貴族階級を与えられている。
Sランク 英雄。ダンジョンの踏破を期待される。国内で知らない者はいない。
SSランク 伝説。昔、戦争を終わらせた者や魔王を倒した者に与えられた。後世にまで名を遺す。
ダンジョンを踏破した者に与えられる予定。
ダンジョンがあるのか。というより、上級ランクではその関連のものばかりだ。
かなり重要視されているらしい。
「まぁ、ダンジョンのことは当分気にしなくてもいいわ」
「ありがとう! お姉さん!」
そう礼を言うと、クールビューティなお姉さんは、白い肌をを赤らめて俯いた。銀髪に白い肌って、いい。
「冒険者登録の試験に関してだけど、勇者であるヒジカ君に関しては免除されています」
「俺達にはあるのか?」
「基本的にあるのですがー、戦闘力の試験になりますので、あなたのように規格外の体格を持っている方も免除です」
イッサが、肩透かしを食らったような顔をした。自分の力を試したい気持ちもあったのだろう。
「じゃあ、俺だけですかね?」
「そのハズなんだけど――」
ソージの質問にヒナ嬢は、僕を見て苦笑いする。
「最初にヒジカ君が倒したザケさんが試験官だったのよね」
「「Oh……」」
ソージがやれやれと言ったように、僕を見る。
「じゃあ安心だね! あいつよりはソージの方が強いよ!」
ソージの視線から逃げるように、だから試験はパスしてくれと言ったつもりだが、さすがに認められなかった。登録は認めるが、後日試験はあるらしい。




