【幕間(7)】
ケイン王は将軍の視線を受け止めると、盃を空にして酒を注がせ呼びかける。
「四人だけにせよ。他は下がれ」
ケイン王の言葉に、侍女や臣下たちは騒然とする。
「なりませぬ! 勇者といえど――、亜人をそこまで信用するなど!」
「無用じゃ。俺、朕を襲うほど愚かではない。それにテイ・ホ大将軍もついておる」
老将軍がうなずき、周囲を見渡す。しぶしぶといった様子で臣下たちは下がっていった。
そうなんだよね。この爺さん怖いだけじゃなく、ものすごく強い。
戦うまでもなく、鑑定を使うまでもなくわかる。今僕が戦っても負けるだろう。
「……すまんな。本来であれば夜は国を挙げての宴になるのだが、反対派が多く開けなかった」
ささやかだがここで祝福させてくれと、ケイン王は続けた。
「いえ! 十分です。王様にそんなことを言わせてしまうことでは、ありません」
やはりそういうことだったのかと、確信を深める。必要な情報さえも、聞かなければ教えてもらえないのだ。国というか、政府には間違いなく歓迎されていない。
「さて勇者ヒジカ・トージスよ。お主はこれから勇者となって何を為す?」
周囲から人が引いたのを確認してから、王は僕を真っ直ぐに見据えて言う。
「今は、どことも戦争は起こっていないでしょう。しばらく、冒険者ギルドでクエストをこなしながら力をつけていきたいと思っております」
「当面はそうであろうな。して、その末はどこを見ておる?」
まぁ誤魔化しても無駄だろう。さて……、お願いをするには、正直に言うことが一番か。
「まずは亜人の奴隷禁止です。行く末は、亜人族と人族の格差解消です」
「……で、あろうな。同胞の皆殺しで復讐を誓った者で、実行者だけでなく遠くを見ておる。復讐の対象はこの情勢そのものであろうよ」
「僕は子どもです。世のことも何も知らない、田舎の子どもに何が出来るからはわかりません。ただ、僕に出来ることはすべてやろうと思っております」
「……立派に振る舞っているように見えるがな」
ははは、と笑って口元に右手を持っていく。牙に触れ自身の手に《蛇毒牙》を流す。
「この震えが見えます? 今普通に座って話してるのだって、精一杯なんです」
右手が自分の毒で震えだす。本当に震えているので、演技には見えないだろう。
対面する王が、少し驚きの表情を浮かべる。右隣からは、ぐすりという音が聞こえた。
ぐすり?
「うぐぅぅう、なんてけな気な子なのぉぉお。あたしより小さいどにぃぃい」
右を見れば、赤ツインテ巨乳王女が虎のような目をつむって立ち上がって泣いていた。
さっきまで存在感がなかったのに。泣き上戸なんだろうか。
「がんばぎなざいぃぃいい! 応援しでるがらぁぁあ!」
千鳥足で寄って来て、僕を胸元で抱きしめる。赤い上質な衣服ごしに柔らかい双丘があたる。この世界にブラという装備はないのか、直で柔らかさが伝わって来る。
「ちょ、ちょっと! ショウコ王女!?」
押し返すわけにも、突き放すこともできずに手を左右でバタバタとさせた。
しかも思いの外、王女は力が強い。将軍に助けを求める。
「大将軍も助けてくださいよ!」
「…………」
大将軍は、斜め上を見上げて瞑目していた。目尻からは、だばだばと涙が流れている。
涙が落ちるのを恥じらい、耐えているような表情だが滝のように流れているので、量と仕草が合っていない。滲み出るくらいなら適切だっただろう。
ちょろすぎるでしょ。こいつが大将軍で大丈夫なんだろうか。
王はといえば、盃を手酌で飲みながら、はっはっは! と呵々大笑。




