地を這うモノ
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
這い進んでいくと、変化はすぐに起きた。
《分析》の熟練度が一定に達した!
《分析》は《解析Lv1》になった。
どこからがアナウンスが聞こえた。どうやらスキルが変化したらしい。
しかし、このアナウンスも謎である。先ほど歩きだしたときも、
《大地■■の加■》を獲得した!
《転生者》の称号を獲得した!
というアナウンスが脳内に流れたのだが、どこで誰が、何の目的で俺に伝えているのか。
考えてみる価値はありそうだが、今は食い物を探すことと安全を確保することが先決だ。そういう世界だと捨て置いておこう。
《解析》をしてみたが《分析》と差はなかった。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
相変わらず草木しかなく、詳細がわかることもない。
しかし、地面が近いのも面白いと思った。草の根をかき分けるのがデフォルトの視界なので、草がどう生えているか、どんな生き物の足跡があるのかわかりそうだ。今のところ、ネズミの小さな足跡しか見つけられていない。その足跡の主をまさに探しているのだが。
情報は欲しい。今俺は、ここが森で自分が蛇ということしか知らない。
周りに自分より強い生き物が多い場所なのか、そもそも自分の食物ピラミッドの位置さえ知らないのだ。見たこともない母蛇が、外敵のいないところで生んでくれたならいいが、訊ねることも出来ない。
そして、そろそろ本格的に腹が減ってきた。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『?』『木』『草』
そんなところで《解析》結果に変化があった。
『?』という今までにないものが出て来たのだ。
普通にピット器官もとい『第三の目』で見てみると、ネズミの形状をしたものがいた。《解析LV1》だからか、普通に蛇の機能で見た方が詳しくわかった。見逃しそうだから使っていたけど。
ネズミの大きさは、そう大きくない。太さが俺の頭より少し大きいくらいだろうか。《隠密》のスキルのお陰か、あちらは俺に気づいていないようだ。
《解析》した時点で俺は腰? というか全身を左右に振って進む蛇行を止めていた。息を潜めて、ただただ『第三の目』で様子を伺う。
ネズミは小さく進んでは止まり、周囲を見渡してはまた小さく進み、また周囲を見渡すというのを繰り返していた。
……状況としては、俺と同じなのかもしれない。
何度か見た足跡よりも、ネズミは小さいようだった。生まれて間もなく、外敵に怯えながらも食い物を探している。さすがに哺乳類なので、さっき生まれた俺よりは母親の庇護は受けただろうが、たどたどしい歩みには不慣れな印象を受けた。
つまりは、恰好の獲物だ。
万全を期せば、ネズミが木の実か何かを見つけて食っている時が、狙い時だろう。しかし、俺も生まれたばかりの狩人(蛇)初心者だ。時間をかければかけるほど、あちらに気配を辿られる恐れも大きくなる。そして、俺が俺を食う者に見つかるリスクも大きくなる。
自分の細長い身体に問う。ここから飛びつくか? 届かない。そもそもどうやって食えばいいか? 噛み殺せ。外した場合は? 逃げられるだろうな。逃げられたら? 追いつけない。次の獲物を見つけるまでおあずけだ。
自分で問い、自分で答える。最適解は、気づかれないように、一っ跳びで噛み殺せる間合いまで近づくこと。
ゆっくりと近づいた。こちらが食おうとしているのに、食われる者のように緊張している。
徐々に、徐々に近づき、自分のイメージで届く範囲まで来た。
心臓がはち切れそうに鼓動している。目も第三の目も《解析》もネズミから離さないまま、心臓ってここにあったんだとどうでもいいことを考えた。
ネズミが周囲を見渡す。小さく数歩歩いて立ち止ま、
スキル《身体操作》発動。
スキル《突進》を獲得しました!
アナウンスが聞こえた時には、ネズミの腹に噛みついていた。勢い余って、ネズミのいた位置を噛みつきながら通り過ぎた。
スキル《噛みつき》を獲得しました!
アナウンスが続く。情報は助かる。これからは天の声とでも呼ぶことにしよう。
突き立てた牙から、ネズミの血がしたたる。口に、ネズミの肋骨を噛み砕く感触があった。数度ビクンと跳ねるように痙攣し、動きを止めた。
どうやらこの体は咀嚼を必要としないらしい。本能でわかったので、そのまま口の奥へと誘った。
顎の可動域が広い。人間の時のように骨と骨が組み合わさっているのではなく、伸び縮みする靭帯が顎を繋げているようだった。
映像で見た知識がある気がする。自分よりも大きな肉を食っていくその摂理を、自分で体現していく。牙と口、咽や食道をこういう風に使うのか。
スキル《丸呑み》を獲得しました!
捕食者となる覚悟はしていたつもりだったが、実際に体験してみるのは、また違う。
「……ごちそうさん」
とりあえず、初めての狩りは成功に終わった。