【幕間(4)】
神官が一つを伝えるごとに、謁見の間はざわめきを増していく。
「おぉ……!」
「……なんと」
「これは……!!」
最後まで読み上げる頃には、騒がしいと進行役が怒鳴るほどになった。悪い意味ではないと、確信している。
クソ貴族を殺した後、夜は《我》の巨蛇の姿で移動してきたため、かなり速い旅の行程になった。
余裕があったので《隠密LV7》で隠れながら、寄った町街の冒険者ギルドへ《鑑定LV1》を使いに行った。
Aクラス以上にはお目にかかれなかったが、Bクラスは二人観ることができた。僕のステータスはBクラスの者をゆうに越えていた。
スキルについては、Bクラスの者でもスキルとパッシブ合わせて、玉石混交で二十数個。Cクラスについては、平均して八個前後だった。
五十を越えるスキルなど、持っている者はいなかった。
称号も、Bクラスの者で二、三。一つも持っていない者がほとんどだ。
評価はされておくべきだと思ったので、隠す必要がないものは隠していない。
できれば、畏れられるほどに評価されるべきだ。手出しすれば何をされるかわからないと、思わせるほどに。
「《勇者適正》と《勇者適正Ⅱ》だと……!? これは、どういうことだ」
玉座の近くの一人が、怒気を孕んだ声で僕を睨む。想定通りの受け答えでいいだろう。
「……浅学非才ゆえ、私も自分のスキルについてはわかりません。名前のとおりに、勇者に適性がある者の、種類が異なるものであろうとしか」
「そういうことを言っておるのではない!!」
腕を震わせながら上げ、振り下ろして怒鳴る。
「……お怒りの理由がわかりません」
「有り得ぬということだ! 勇者であることさえ疑わしい、田舎の亜人ごときが! このステータスとスキルは有り得ぬ!!」
「身に余る物を、小さき身に受けたのだと思います。神より受けた使命に応え、必ずや魔王を倒しソン=サックに平和をもたらします」
僕は下を向いたまま応える。返す言葉がなくなったのか、何かを言いたそうにしながらも貴族は黙った。
「して、朕もわからぬのじゃがー《勇者適正Ⅱ》とは何だ?」
皇帝が、抜けたような声で鑑定官に問う。
「《勇者適正》のⅡ種でございます。どちらが優れているかではなく、仲間の異なる能力を向上させるものにございます。二種類の《勇者適正》を持つ者のみに発現すると言われておりますが……、私も見るのは初めてです」
鑑定官のその言葉に、ケイン王は喜んだ。手に入れた経緯もあるが、珍しいことらしい。
「ほーぅ。それまた稀有な者よ! おいショウコ! お前も来るがよい」
ケイン王は、何やら上手に声をかける。そこから、王と同じく赤い髪をツインテールに結んだ、金色の瞳をした美少女が歩いて来た。胸元が大胆に開いた豪華な装いで、大きく形の良いモノを持っているのだとわかる。
「興味があったのだろう? お前も見てみよ」
少女の顔立ちは、勝ち気、という表現がぴったりだった。形のいい鼻がわずかに上を向き、への字になった口が少し不機嫌そうだ。少しツリ目の大きな目が、こちらを無遠慮に見つめている。
「……何よ。子どもじゃない」
虎みたいな目だなぁ、と思う。獰猛な目と、かわいらしいふわりと軽そうな赤毛が対照的だ。
「そういうなショウコ。紹介しよう。朕が娘、第一王女ソン・ショウコである」
バッ、と衣服が音を立てて、皆が跪いて礼をする。僕も跪いたまま頭を下げた。
「面を上げてください」
声はなお勝ち気だった。尊大に振る舞うことを生まれた時から許され、推奨されてきたような声だ。
それが、悪い響きじゃない。
「さて、続けようではないか。何やら面白そうなものが、他にもあったろう?」
上から一つずつ、説明がなされていく。
《瞬身》《突貫》《破砕牙》が《瞬発》《突進》《噛み砕く》の上位スキルであることが軍人から説明があり、《蛇毒牙》や《眼力》が蛇の魔物でも多かったため蛇亜人特有のものであろうと元冒険者の貴族から説明された。
「英雄や、勇者として生まれた者は、
《統率者》
《超直観》
《戦闘の天才》
《武器技能適正》
《魔術技能適正》
《輝く英雄性》
《逆境〇》
を持っていることはあります。しかし、ここまでの数を一人で持っているなど……」
禿頭の軍人が、驚いたように、不思議なものを見るように言う。
ほとんどが生まれついてのものだった。前世の僕は、どうやらよほど上手く神を欺いたらしい。
僕を置き去りに、貴族たちは僕のステータスで盛り上がっている。
「《神の約束した克服》? 《焦土の吸収力》? 《果て無き成長》? 《無限の度量》? 何なのだこれは……?」
「大袈裟な名前のスキルですなぁ。見たこともない。どうせ見かけ倒しの使えぬものに違いないでしょう」
貴族からの茶々が入るのは別に気にしないが、どうにも繰り返されるとうんざりしてくる。
「どうなのだ? 鑑定官」
「……同じものを見たことはありませんが、枕言葉には見覚えがあります。《果て無き》も《無限の》もそれぞれ最上級のものにございました。しかし、四つなど……」
軍人や貴族が騒ぎ立て、評価を落とそうと文句を付ける者もいる。それらに鑑定官は、高い評価をつけて返していく。
まぁ、僕にとっての確認にもなるから都合が良い。
幸運の測定不能も、勇者や英雄には見られることらしい。どうやら鑑定官のスキルレベルは、???としか表示されない僕よりも高いようだ。
「《精力絶倫》《観察力》《器用な指先》《滑かな舌》《淫蕩の血》《巨根の者》ねぇ……」
「はっは! これはいい! 勇者どのは思いのほか――、お好きなようだ」
王が笑う。周りからも嘲笑と本気の笑いが混じる。
雰囲気を和ませるものになれば、と思って隠さなかったが功を奏したようだ。嘲笑も笑いに混ざれば好都合だ。
……でもめっちゃ恥ず!
演技でもなく、褐色の顔がさらに赤くなるのを感じる。
ショウコ王女と目が合うと、軽蔑するような目で僕を見ていた。細い顎を高くして腕を組み、さっきまでよりさらに見下している。
組んだ腕の上に、大きな胸が乗っている。ホント巨乳ですネ王女様。細いウエストもあいまって大きく見える。ばいん、て感じ。
そんなことを思っていると、舌打ちをして睨まれた。
傷つくわぁ。でも何だろこの気持ち。
……ちょっと興奮してきた。
「《武道の素養》《驚異の集中力》も良いものであろうな。だが気になるものがある。《絶対の復讐》とは……?」
和やかだった空気が、冷える。笑っていた者も悪意のある者もみな口を噤む。静寂。
突っ込まれることはわかっていた。だが、わからせるべきこともある。
「……わかりません。以前の鑑定ではなかったように思いますが、心当たりはあります」
「それは、何だ?」
王が問う。
「先ほどご指摘があった通り、私どものタマソン村は何者かにより皆殺しにされました。私はその何者かを、決して赦さないと誓いました」
王は黙って聞いている。表情は読めない。言葉を続ける。
「好い人たちでした。お人好しで、温かくて、行き倒れのぼ――人にも無償で宿や服を提供するような、見ているこちらが心配になるぐらいに」
僕は僕がしてもらったことや、ヒジカたちから聞いた話を続けた。ヒジカやヒジカの両親だけじゃない。フェレット亜人のおばさんをはじめ、泣いている子どもがいれば村中が駆けつけるようないい人たちだった。
結局は、だから赦さないということを言いたいだけなのだけれど。
ダルマのようにソージが手足を斬り刻んだクソ貴族の屋敷からは、首謀者の情報はただの一つも手に入らなかった。しかし、手に入らないことでわかることもある。首謀者が、大きな力を持っているということだ。この謁見の間に、顔を出さないわけにはいかない程度には。
そいつに、お前を必ず殺すと宣戦布告することが、ここに来た一番の目的だった。
「…………」
話し終えると、謁見の間は静まり返っていた。
好意的な沈黙ではない。同情も少ない。
亜人の苦労話など興味はない。さっさとそんな話は終えてしまえという表情がほとんどだった。
だが、軍部の人間を中心に響いていない人間が、いないわけでもなかった。
王様といえば、
「……よくわかった。何か意見のある者は?」
と表情を変えずに、周りに意見を促した。
「復讐の理由はわかりました。が、所詮犠牲でいえば亜人100人程度です。そのような些細なことで復讐を誓うような者が、勇者として適正でしょうか?」
腸が煮えるような思いがした。事実、腹が熱くなる。
些細だと?
同情されようなんて思ってはいない。どういう認識でいるかも探るための言葉でもあった。挑発されることさえ想定内。むしろ、僕たちを怒らせるための言葉だろう。
イッサとソージは、よく耐えている。跪いたまま怒りに震えているが、嗚咽の一つも上げはしない。
それでもあの人たちの死を、小さなことと言われると冷静ではいられなかった。
頭に血が上る。上った血で頭髪が持ち上がるような思いだった。
「ヒジカ、髪! 髪!」
イッサの小声で上目遣いで髪を見上げると、本当に蠢き出していた。《オレ》が起きかけている。集中して心を静かにさせると、髪は動きを止めた。
冷静に周りを《第三の目》を表出させないままで見まわした。周囲にも、同意の意見が広がっていく。あぁ、つまりは国全体がそういう認識なのだろう。
いいさ。有象無象の意見はどうでもいい。
今重要になるのは、まず王の認識だ。
明日からは平日なので20時更新でござんす。




