旅立ちは即
……蛇かぁ。
神性のモチーフによくなっているとかは聞いたことあるけど、ぶっちゃけそんな良いイメージはない。前世でいいことをして、勇者適正とか大層な枕詞のついた成長スキルをもらったのかと考えたのだけれど、ご褒美として蛇に転生させてあげようなんてことになるとは、思えない。
そんなことを考えている内に、さらに殻は手狭に感じるようになった。体が大きくなっている。
《恵体》のパッシブスキルのお陰で、成長が早いのかもしれない。正直、空腹を感じてもいる。
殻を《分析》しても、壊せそうだとかの情報は出てこず《殻》であることしかわからないけれど、いけそうな気はしていた。
ツン。
コツン。
コン。
うん、軽く突いてみたが、いけそうである。
俺は首を引いてみて、力を込めて前に出してみた。
パキッという小気味よい音がして、殻は割れた。
少し怖かったので、目は閉じてしまっていた。
しかし、目にそこまで頼っていないこの体では、生まれ出た世界がどういうものかピット器、いや《第三の目》で理解できた。
「……森かぁ」
目を開き、舌を出して状況を把握する。母蛇は、俺達卵を木の根のくぼみで産んだらしい。地面近! と思ったのは、生前の感覚だろう。
《分析》を周囲に使ってみる。
『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『卵』『卵』『卵』『草』『卵』『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
「草www」
言って、殻から這い出ながら笑ってみる。蛇なので上手く笑えているかはわからない。というか蛇の笑い方がわからない。
卵は、俺の周囲にある兄弟姉妹たちだ。俺が出て来た殻と同じ卵である。
周囲は草と木しかない。視覚に頼って見ると、暗いことがわかる。上を見上げてみても木々が鬱蒼とし過ぎていて、木漏れ日から日中だと辛うじてわかる。
温度は暑くも寒くも感じない。生きるのに適切な温度なのだろう。湿度は高い。
卵が湿っていたことが、俺が殻から出れて、パキッという小気味よい音がした理由だろう。
「しかし、どうするべきか」
おそらく俺はかなり早く生まれてしまった気がする。なんとなく、兄弟卵たちはしばらく出てこない確信があった。
「とりあえず、啜ろう」
俺は自分のいた卵の殻に頭を突っ込み、中の液体を啜った。栄養が豊富そうな気がしたからだ。
どうするべきか迷っているのは、ここに留まるか移動するかだ。
母の姿は見えないが、たまたま居ないのかもしれないし、産んだら放置するタイプかもしれない。ただ、戻ってきたら戻ってきたでどうなるか。
「なーんか、蛇って共食いしそうなイメージあるんだよなぁ」
蛇の生態については詳しくないが、種によってはするだろう。自分の種がどうなのかはわからないが。
「離れておくにこしたことはないよね」
そう思い《分析》を使いながら、草むらに入っていく。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
勇者がどうとか闇がどうとか、気になりはするが気にしている場合ではないのだ。恵まれた成長スキルも、成長する前に死んでしまえば意味が無い。
生まれたばかりの蛇たる俺は、間違いなく弱い。ならば、当面の目標は生きることだ。
そう覚悟して、ずりずりと草の間を這い進んだ。