もしかして:蛇
囲まれている。というか、包まれているのだと理解した。
曖昧な意識が続いていたが、少し前から思考が出来る程度にはっきりしてきた。
どうやら俺は一度死んで、生まれ変わったらしい。
とはいえ、記憶は無い。俺が体験したことがあるのは、この乳白色の手狭になってきた世界だけだ。俺に手はないようだけれど。
少し前の記憶をさかのぼるに、徐々にこの包みは狭くなっている。というか、俺の身体が大きくなっている。いずれ入りきらなくなるだろう。
頭で包みを突くのは、やめた方がいい気がした。スキル《先見の明》が発動したのだろうか。きっと俺の頭はまだ柔らかいのだ。物理的な骨の意味で。
生まれたばかりだというのに、スキルはあるし知識もある。そうするものなのだと、なんとなくわかったので自分自身を《分析》してみた。すると、透明度のあるウインドウが出てきた。
包みを破くには時期尚早だし、自分について確認しておこう。
《??? ♂》
ステータス
LV 0
激弱
状態
孵化を待つ
スキル
《隠密》
《分析》
《計算》
パッシブSKILL
《先見の明》
《勇者適正》
《戦闘の天才》
《武器技能適正》
《魔術技能適正》
《輝く英雄性》
《精力絶倫》
《観察力》
《器用な指先》
《滑かな舌》
《淫蕩の血》
《身体操作》
《感情操作》
《逆境耐性》
《絶対の復讐》
《陽の当らぬ闇》
《武道の素養》
《驚異の集中力》
《恵体》
成長スキル
《神の約束した克服》
《焦土の吸収力》
《果て無き成長》
《無限の度量》
称号
《分析者》
《抗う者》
《切ない旅人》
《覆う者》
《憎む者》
《復讐者》
《深き闇の者》
《神を欺く者》
《善悪に愛されし者》
《武を愛する者》
《与えられた者》
《奪われし者》
《翻弄されぬ者》
ステータスというのは、なんとなくわかる。前の世界のRPGという概念が理解できるため、レベルを上げていくと体力や力が強くなっていくのだろう。『激弱』って何だよ。
スキルは使える技、パッシブスキルは自動で発動している能力といったところか。
成長スキルも技のコツとかを吸収したりするのだろうと、何となく予想は付くのだが、枕詞が大仰だ。神だの無限だの何なのだと言いたくなる。
……感想。
穏やかじゃないねぇ。(ナァシノー。)
生前の自分についてのイメージが全く湧いてこない。勇者に向いてて復讐したがる、神を騙して深い闇にいる与えられて奪われた、スポンジのような吸収力を持った戦闘民族のエッチなヤツ?
俺はどういう奴だったのだ。ステータスには表示されていないが、何か巨大な存在3つほどから護られている気もする。
生前の自分に関してはわからないが、自分が哺乳類サル目ヒト科二足歩行の人間という種族であったこと、どんな文明に生きていたのかは朧げに分かる気がした。
気がしただけなのでまるで違うのかもしれないが、中〇彬というねじりマフラーのおっさんの知識はある。そして、この中尾〇がこの世界の重要人物でないことは《分析》を使ってみて、明らかにした。
嘘だ。本当はするまでもないのでしていない。だから〇尾彬は、この世界の重要人物かもしれない。
《分析》を乳白色の世界に使ってみる。『卵の殻』とだけ出た。俺の状態から予想はついていたが、そういうことらしい。
視力が弱い上に視野も狭い気がするのは、自分がまだ孵化もしていないからではないだろう。
舌をチョロっと出してみる。そうした方が、周囲の状況や自分がどんな『カタチ』をしているか、目で見るよりよっぽど分かる気がする。
そして、目と目の間からやけに情報が入って来る。『第三の目』とか言うと、厨二wwwと揶揄されることが理解できる程度には、前世の知識は残っている。ぶっちゃけピット器官で赤外線を情報として知ることができるのだろう。
でも『第三の目』と呼びます! ドン!
舌と『第三の目』から読み取った情報、俺の長い『カタチ』と舌、ピット器官がある事実から踏まえて――。
どうやら俺は、蛇に転生したらしい。