友として並び立つために(1)
「おーい、あいぼー」
起きろー、という相棒の声で目を覚ます。幼女ボイスなだけに、お兄ちゃんとか言ってほしいところ。
「んー。おはよ、相棒」
まだ冷える。夜の温度だ。夕方前に寝たので、今が真夜中ってところだろう。月明かりはわずかだが《暗視》を持つ俺たちには問題ない。
目を開けると、そこにはもしゃもしゃと食事中の幼女がいた。かわいらしい。
ただし食っているのは魔物だ。五つの頭で周囲を見渡せば、夥しい魔物たちが巣を取り囲んでいる。というか、蜘蛛の巣に捕らわれている。前後左右に天井まで。
それでもなお、相棒の《蜘蛛巣》は破られない。さすがにあちこち、たわんではいるが。
《解析LV7》してみると、見事に《?》ばかりだった。今までより高位の魔物のおかげか《解析LV8》に上がった。
見たことのない魔物も多かった。熊や巨大な蟻、天井には鷹のような魔物がいた。
一匹だけ《邪眼の大蛇》もいたが、サイズはかなり小さい。体長三メートルといったところか。もしかしたら、あれが通常のサイズなのかもしれない。
「《毒液付与》した?」
「したでー。さすがっちゅう褒めるべきトコは、死んでないトコくらいやな」
辛辣な幼女である。しかし、事実それ以外の違いはない。
あとは、巣にかかっていない奴らを俺が殺し、巣にかかった奴らを相棒と下僕蜘蛛が《毒牙》にかけていくだけだ。
文字通りに。
不釣り合いだ。例の如く、その経験値は俺にも入って来る。
相棒の方が強い可能性が高いのに?
劣等感を感じているのに?
これから俺は常に、相棒に敵わないかもしれないと思いながら、一緒に過ごしていくのだろうか。
その思いはいつしか確信になって、相棒には敵わないんだろうなと思いながら、一緒に過ごすのだろうか。
……そんなのは、ごめんだ。
「なぁ、相棒」
「何や?」
《義ある多頭の邪蛇》は《アルケニー(幼)》とのパーティを解除しました。
「……もう一度聞こか。何や? いや、何のつもりや?」
幼女が俺を見上げて睨む。
5メートルは下にいるであろう幼女の視線に、怯みそうになる。
八つの眼は、人型になって二つに減ったわけじゃない。黒髪ロングに、ヘアアクセのように六つの赤い眼が付いている。
「俺と、戦ってくれ」
その視線を、五つの頭の九の瞳で受け止めて、言う。
ため息を吐きながら、右手で頭をかく。
「……本当、めんどいやっちゃで」
短くとも、濃い付き合いだ。賢い相棒には、俺が何を思っているかも、何となくはわかっていたのだろう。
俺は五つの頭で笑う。蛇の笑い方は、もうわかっている。相棒と笑い合ってきたおかげだ。
「ま、そう……に惚……んや……」
「? 何か言ったか?」
うつむいて何かを言う相棒の声は、高い位置にある俺には聞こえなかった。
「……何でもないわ! ほな、どこでやる?」
「改まってやるのもアレだし、ここでいいだろ?」
「……いつ始める?」
「いつでも?」
いつ、どちらから仕掛けてもいい確認だった。
ただ、おそらく相棒も思い出していた。
初めて出会った日の夜に、共に過ごした木の下穴。あの時も、夜の魔物に囲まれていた。
違うのは、俺のサイズ。相棒の強さ。
そして、あの時恐怖の対象だった取り囲む夜の魔物たちは、俺たちに決して敵わないということだ。
あの時俺たちは、友でも相棒でもなかった。疑い合い牽制し合う、お互いがお互いの命を脅かす存在だった。
お互いのリスクを考えて、戦わないように一緒に過ごしただけだ。
今、俺たちは友だ。信頼し尊敬しあう、相棒だ。お互いがお互いに生きていてほしいと思っている。
戦う必要なんてない。それでも俺は戦いたい。相棒はそれを受け入れてくれる。
「ほんじゃ」
「そうするか」
始めるまであと十秒だと、お互いに理解した。
俺は首をぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃぱきゃ、と鳴らす。
相棒は人の両腕を後ろで組んで、伸びをする。
「行くでぇ、相棒!」
「応!」
深い森。枝葉から漏れるわずかな月明りが、二体を照らす。




