《箒とちり取り》
「ん?」
北上の途中《南の森の知恵LV1》が囁いた気がした。
「どしたん相棒?」
幼女が《消化吸収能力LV1》を獲得したのは《森の賢者》を食った後だ。
だからこの声は、俺だけに聞こえている。
【警告】 南の森第三層へと入ります。
危険度:3~7
「ここから、変わるみたいだ」
「ほぅ」
相棒は、何のスキルかなど聞かない。
きっと野暮なことなのだろう。だから俺も、相棒の《蜘蛛糸》や《毒牙》のレベルがどれくらいか、聞きたいけど聞かない。
気になるけど聞かない。
とても気になるけど聞かない。
……聞かない。
聞かないんだから!
今まで会った魔物の危険度は、1~2または0~3ってところだろう。
「つまりは、少なくとも《ゴブリンエリート》以上が出てくるっちゅうことか?
賢い相棒に伝えると、良い例を出してきた。
「いや《ゴブリンリーダー》以上しか出てこないってことだ」
俺は若干の訂正をする。
「えふっ」
「えふっ」
「ぎゃははははははははは!」
「きゃははははははははは!」
蛇と幼女は気持ち悪い声で笑う。
よっしゃよっしゃ、強いスキル持ってるやつをめっちゃ食うぜぇぇぇえ!
相棒は、美味い食事に喜んでいるのだろう。
より高位に進化したのは相棒で、味覚は上がっても、今までの魔物は薄味に感じていたはずだ。
「確かに、雰囲気からして違う感じするわ」
木々も『強い者が勝つ』という弱肉強食の法則に則っている。
高く幹も太い木が、後方より多くなっている。弱い木は伸びることさえ許されない。
強い木々は枝葉も多いのか、木漏れ日さえ少なくなっている。木の本数は少ないが、森が深くなっている。
その木々だけでも、異様な雰囲気を作り出している。
「警戒しているのか、いや面白がってるのかもな。視線をひしひし感じる」
木の陰から、木の上から、森の奥からさえ見られている気がした。
恐怖ゆえの過剰反応もあるかもしれない。あの大ムカデはさすがに例外だろうが、奥に行けばあのレベルにもいずれは会うのだろう。
「まぁ確かに、この異様な雰囲気に浅い層から向かっていくウチらは、マレやろなぁ。これまでは弱肉強食の世界やったし」
弱肉強食。強者を弱者が食う、自然を描写しただけではない。
弱者は強者を狙うな、という警告でもあるのだ。
だが、それを覆してこそ成長があり、進化があり、さらなる美味がある。
ざっ、という足音とともに《ゴブリンエリート》が一匹現れた。
それに勇気づけられたのか、はたまた食い分を奪われまいとしたのか、木々に隠れていた数匹が現れる。
「今までより、デカいな」
それぞれのサイズが、今までより大きい。そしてすべてが棍棒や何かの角などの、武器を持っている。
遅れて一匹が、躊躇いがちに出て来た。
《解析LV7》で見ても、それぞれのHPは平均で、今まで喰ってきたヤツらの1.2倍ほどの多さだ。
体感の身長でいえば、180センチのものもいる。腕と脚は戦うことに向いていて、それぞれ長い。
躊躇いがちな一匹は、サイズもHPも大きく高い。棍棒も大きなもので、一匹だけコシミノまで巻いてやがる。
「……あいつは後回しやな」
リーダーを倒せば、戦況はこちらに傾く。逃げるゴブもいるだろうが、それでは困る。
「応。俺は遠い距離にいる奴らから追い込んでいくわ」
「ウチが中心にいるヤツと、相棒が追い込んで来た奴らを《蜘蛛巣》で回収やな」
賢い幼女に説明はいらない。遠くに行きすぎひんようになぁ、と心配までしてくる始末だ。
「それじゃあ?」
「一、二の?」
「「散!!」」
相棒はゴブたちの中心に飛び込み、俺は右に疾走して円を描き始める。




