《アルケニー(幼)》
「……ん」
相棒が起きたようだ。
甲高い声が、今の姿ではしっくりくる。そういえば、相棒の前の表記は《智ある猛毒大蜘蛛♀》だった。
「おはよう」
「んー、おはよー」
相棒が両腕を伸ばして背伸びする。
平らな胸であるが、はっきりと人間の胸だった。ロングの黒髪が何か不思議な重力で固定され、首は見えなかった。
相棒は一つ伸びをすると、自分の両掌を見る。顔に触れる。
肩や胸、腹に触れていく。驚きが表情には現れないが、速度を増す動きで表現していた。
「な、なんやこれぇぇえ!?」
相棒は、人間の幼女の腹から下に蜘蛛の身体がくっついた姿になっていた。脚はヒトの腕の二本分減り、六本になっている。
人間の瞳の黒と白が真逆の構成の眼を大きく見開いて、自分の身体をあちこち見て触って確認している。
俺としては腕や脚が欲しいので、羨ましいのだが。
「えー、こんな生物見たことないで……。どないやって食ってくねん」
困惑の後にすぐ考えることが、食うこと。生物として相棒はまっとうだ。
「てか、あいぼーもけったいな姿になってんなぁ」
五つの頭を持つ俺を見て、言う。
「そうだな。相棒ほど変わってないとは思うが」
今回から二人とも、一気に生物から魔物よりの見た目になっていた。
言い忘れていたが、尾は二本ある。五つの頭上の角は、今度こそ前を向いて尖っており武器として使えそうだ。
左右二つの顔で真ん中の顔を見てみたのだが、真ん中の眼は縦に裂けた大きい単眼が一つだけある。
だから、十あると思っていた眼は九つだ。《邪眼》もレベルが上がっていたが、真ん中の単眼でしか使えない感覚があった。
「まぁそんなんええわって思うぐらい腹減ったわ。約束通り頼むで」
そういって、六本の脚を折り畳んで相棒は座り込んだ。
食いやすいように分解しろということらしい。
改めて見るムカデ。キモい。それでも涎が出るくらいに、腹が減っている。
《噛み千切るLV8》が《噛み千切るLV9》に上がった!
《噛み千切るLV9》が《噛み千切るLV10》に上がった!
《噛み千切るLV10》が《握撃LV1》に進化した!
《空中戦LV3》が《空中戦LV4》に上がった!
ようやく全部をバラバラにした。
やはりキモくて見たくなかったので、目を瞑って分解していったら《空中戦》まで上がった。
ほな食うか、と立ち上がって相棒も食い始めたので、俺も本格的に食い始めた。
目を瞑ったら、普通に美味い。前のキモい姿はもう忘れた。
……忘れたい。
相棒は、何やこれめっちゃ美味いと言いながらガツガツと食っていた。
確実にモノを食うのが、美味くなっているとのことだ。やはり人間の姿になることで、舌などが発達しているらしい。
食いながら話をしていたが、どうやら相棒は《アルケニー(幼)》という魔物になったらしい。
前世の知識で《アラクネ》という蜘蛛のモンスターがいた気がする。語感も似ているし、おそらく同義のものだろう。
「……ウチ、自分の姿見たときは、ちょっとアレコレ考えてん」
「ん?」
「あいぼーを恨もうかとも思たけど、何やまぁ、今の姿での食事が美味すぎるから許したわ」
意味がわからなかったので、そうかそんなに美味いかと返した。
間があったが相棒は、美味いで、相棒も早くこの姿になりぃと笑ったので、味覚の表現だと思った。




