お返し
俺の唾液で、ペリペリと皮が剥けた。
蜘蛛の脱皮に水分は必要ない。それでも水分があることで、剥けやすくはなるらしい。
――復讐(?)を完了しました――
終わったのだと、理解した。
「相棒? おい、相棒?」
相棒に声をかける。
相棒はもぞもぞと動き、皮から出て来た。
「おぉ、何や? 相棒」
蜘蛛の表情など、蛇の俺にわかるわけもない。
それでも、笑っているのがわかった。
―一時的ステータス向上を停止します―
―復讐(?)達成ボーナスが付与されます―
「えらく必死に、助けてもらったみたいやな?」
蜘蛛は悪戯っぽく笑う。俺も照れ臭く笑う。
「昨夜の誰かさんと一緒でな?」
俺も悪戯っぽく笑う。蜘蛛も照れ臭く笑う。
「なぁ……? 助けて、もらったばっかで、こう言うのもなんや、ねんけど」
「何だ?」
「……ごっつ、眠い、ねん」
そう言って蜘蛛は、8つの目を閉じた。
「……いいけどさ」
別に俺は死力を尽くして戦ったわけじゃないし、何だかんだ美味いもの食ってレベルもしれっと上がった。
まだ陽も高い。滅茶苦茶に飛び回った昨日とは違い、今回は真っ直ぐ北へ向かってきた。
真っ直ぐ南へと戻れば、朝起きたほら穴に辿り着けるだろう。
ほら穴に、相棒を吐き出した。
死んでないかと心配になるほどに、ピクリとも動かず、天に腹を見せている。
俺もこんな状態だったのだろうか。舌で裏返してやる。
寝息はしているので、まず生きているだろう。
ほら穴を背にとぐろを巻く。この状態を襲われれば一たまりもない。昨日の俺と同じように。
恩に報いなければならない。
邪眼で周囲を睨めつける。