《?蛇?》
「サイズは同じくらいか」
同属殺しをやるのは、昨日の夜から決めていた。
いつまでもネズミを食っても埒が明かないのだ。昨日の強者たちの祭りの理由に、思い当たることがあった。
いくら小魔鼠を効率的に狩れるようになったとしても、それは食事が上手くなっただけに過ぎない。いわば、ナイフとフォークを使えるようになったのと同じだ。
レベル差の暴力は、種族差の暴力に及ばない。
自分と同サイズ以上の敵の狩り方は、ネズミを殺していてもわからない。
俺に今必要なのは、バターナイフの扱い方ではなく、サバイバルナイフの扱い方だ。
初めての、狩りではない戦闘。食事ではない戦争。
同属ではあるが、名前も知らぬ未知数の敵。
今まで隙を突いて一撃必殺で殺してきた。俺の一撃で殺せる相手だけを狩ってきた。
だからこそ。
視界に入った蛇と、間合いを維持しながらぐるりと回る。
正面へ。
正面に来る前には、あちらも俺に気付いた。
「キシャ―」
口を開けて威嚇してくる。向き合った。
俺は威嚇を知らないので《眼力LV2》で睨みつける。
相手は怯まない。レベル2ではこんなものだろう。
「さぁ、やろうか」
正々堂々。
蛇は頭を前後に揺らす。《突進》でもしそうだが、しない。
相手も《突進》と《噛みつき》は持っているだろう。俺も持っているからこそわかるが、相手の正面に突っ込むのはおっかないのだ。
口を開いてタイミングよく閉じるだけで、一撃必殺のカウンターが成立する。
だから俺は、徐々に前進する。一応、いつでも口は開けるように。
相手も前後に揺れながら、俺に近づいてくる。
一定の間合いに入ると、お互い近づかなくなった。
前に行かず、右に回る。示し合わせたわけでもないが、二匹とも右に回った。二匹で同じ円をなぞるように。
回りながら、俺のプランは立った。後は相手次第。
《驚異の集中力》が発動しているのを感じる。あぁ、もう来るだろ
シッ。
《突進》
風を感じる前に、俺は円から外れた。相手に向かってではなく自分の右に向かって突進する。
相手は《噛みつき》で俺のいた位置に牙を立てたのだろう。俺には相手が見えていない。
《三角蹴り》
背を向けて俺は離れていた。そして三角を描くというより、ほぼ同じ進路で元の位置に戻る。
《噛みつき》
俺は相手の腹に噛みついた。牙を強く突き立てる。理想としては、首に食らい付きたかったが。
相手は痛みによって身体をのけぞる。しかしそれで終わらない。
「ぐぅっ」
のけぞった身体を持ち直し、俺に噛みついてきた。
……俺に分がある!
俺は自由な体勢で噛みついた。しかし相手は、俺に噛まれて怯み、不自由なまま噛みついている。
冷静に状況を観る。俺の方が深く身体に噛みついている。相手は浅い。このまま噛みついていれば、相手の方が早く絶命するはずだ。
「キシィ」
鳴き声なのかダメージで息が漏れただけなのか、相手は弱弱しい音を口から出し、身を捩った。
「――!」
戦慄する。
相手は身を捩ったのではなく、俺の身体に巻きついてきた。
巻きついた相手は自分の身体を使って梃子の原理を作用させ、俺の牙を外す。
そして自身の牙を外し、俺を深く噛みつきなおした。
「がっ」
今度は俺が痛みでのけぞる番だった。
俺も急ぎ噛みつきなおす。今度は俺の《噛みつき》が浅い。
「ィ……」