強者たちのカーニバル
甘かったと言わざるを得ないだろう。
この森の中と外が違う世界であるように、木の上が木の下と違う世界であると恐れたように。
同じ場所であっても同じ空間であっても、昼と夜とは違う世界なのである。
暗い森の中。俺の眼前には、明らかに俺を食う位置にある者たちが跋扈していた。
狼の群れが通り過ぎ、巨大なムカデが俺の潜む木の上から降りて、どこかへ去っていく。
フクロウらしき鳥が木から木へ悠然と飛び、頭上では予想通り猿たちが喚いていた。
猪がどこからかか走り来て、間違ったように木へと頭突きをかます。ふらついた猪を狼の群れが覆ったと思えば、少しして骨だけを残して去っていった。
起きる時間を間違えたような小魔鼠や蛇が、一瞬で捕食されていく。
捕食している捕食者が、時折その隙を突かれて捕食される。
いたるところで血飛沫が上がる。
まるでカーニバル。
昼の森の中で恐る恐るネズミを狩っていた俺を嘲笑うかのように、激しい弱肉強食が繰り広げられていた。
彼らのうち一匹でも、昼の世界に舞い降りれば独壇場とするだろう。
それでも夜にだけ姿を現すのは、明るい中で姿を曝すことこそ、最も危険だと認識しているのか。
鼠や蛇のような小物には興味が無いのか。
強者たる矜持から来るマナーのようなものなのか。
弱肉たる俺には、わからなかった。
眠れるわけもなく、俺はただただ恐怖に震えながら夜の世界を見続けていた。時折目の前を通る巨大なムカデや、落ちてくる猿に小便ちびりそうになるくらい怯えながら。
《解析》してみたい欲求に駆られたが、やめておいた。それで気づかれたら、それで不興を買えば。一瞬先の未来の俺は、口の中で咀嚼されているだろう。
小便を洩らさなかったのは、俺のプライドではない。臭いで気付かれたら殺されるという、より強い恐怖だった。
弱肉強食の祭りは、時に阿鼻叫喚のような激しさになり、緊張感のある静寂になったかと思えばあ、また激しい血飛沫を上げた。
夜が明けるにつれ、強者たちは数を減らしていく。それぞれがどこかへと帰っていき、俺の知る静謐な森になった。
ピーチクと小鳥たちが囀り、俺はやっと浅い眠りに落ちた。