70部から書き直します。
夕飯は、色んな物を大量に炒めた、みたいな料理でした。これだけの人数の分を修道女一人で作っていることが、すでに重労働なので誰も文句は言いません。
三人で手伝おうかと申し出、調理場には立ったのですが、イッサさんは調理場には大きすぎて入れず、蛇は食材の切り方や量り方が大雑把で頻繁に摘み食いをするので、
「邪魔になるだけならぁ、出ていってくださいねぇ~」
と包丁を持ったまま笑顔で言うのだけは、近くにいた俺も怖かったです。
結局、調理場には修道女と俺だけが残されました。
「あなたは器用ですねぇ~」
「……時々、言われます」
小さな頃から、器用だと周りに持ち上げられて色んなことを手伝わされてきた。それで、さらに器用になった気もする。
手さえ動かしていれば、話していても怒られないらしかった。というより、修道女は話すのが好きなようで、てきぱきと動きながら色んなことを聞いてきた。
「今さらですがぁ。あたしはぁイチルと言いますぅ。みんなはシスターとか、シスターイチルとか呼びますがぁー、あなた達は?」
確かに今さらだが、こちらも聞かなかったので仕方がないでしょう。
「俺がソージです。大きいゴリ、大猩々がイッサさん。白い大きな蛇が……」
「?」
「……ヒジカ。ヒジカ・トージス。勇者です」
「えぇ~!? あぁ! あなた達がぁ、噂の新しい勇者さんたちだったんですねぇ~!」
ぽやぽやしている印象からそうかもと思っていたが、今知ったらしい。
「じゃあぁ、村のお友達で勇者一行になったのかしらぁ~?」
「……いえ、そういうわけではなく、ですね」
人に話すのは、初めてだった。というか、村の人以外の、敵意を持たない人とちゃんと話したのも、これが初めてだった。
それなのに、俺達の関係は複雑です。
手を動かしながら、考えながら話し続けていると、気づけば色々と話してしまっていました。
蛇が魔族だとは話さなかったが、村が壊滅し、慕っていた《勇者適正》を持つヒジカという人間が殺されたことまで話してしまった。
語り終え、マズいと思って彼女の表情を見ようと首から振り向けば、栗色の髪に囲まれた彼女の顔が目の前にありました。
驚く俺を、彼女は抱きしめました。
後頭部を両手で押さえられ、首ごと前に持っていかれ、大きさゆえに盛り上がり、パツパツにさせた黒い修道服とやらが視界に入ったかと思えば、そこに頭をうずくめさせられる。
思春期ゆえに、意識させられたのは一瞬でーー。
そこに感じるのは、人の温かさだけでした。
「……あなたはぁ、まだ子どもなのですぅ。そしてぇ、それでいいのですぅ。使命感を持ってもいいですがぁ、それと子どもであることは別ですぅ」
間延びした声が、苛立たせるのではなく優しく聞こえました。
「悲しいし悔しいのにぃ、恨む対象がいなくなって、やり場がないのですぅ。それで、鬱屈としてしまっているのですぅ」
そうかもしれません。それで、あの蛇ともどう接していいかわからないんでしょう。
「あなたに必要なことはぁ、もっと感情を表に出すことですぅ。悲しいなら泣いてもいいですし、楽しければ笑ってもいいのですよぅ?」
そう言われて、顔を上げて彼女の笑顔を見ると。両親のために、姉さんのために、ヒジカさんのために、タマソン村のみんなのために。
そう考えて復讐者であろうと、それしか考えないようにしようとせきとめていた心の壁が決壊しました。
こわばらせていた体中から力が抜けて膝から崩れ落ち、呻くように泣いてしまいました。
彼女は俺の背中をさすりながら、俺の泣き顔を肩で支えてくれました。
「今は無理でも~、いずれはぁ、声を上げて泣いてくださいねぇー。あなたには、まだそれが必要ですぅ」
彼女には、俺たちに見えないものが見えていました。
ここまで書いておいてなんですが、第70部分《鑑定LV1》から書き直して、大きく方向転換することになりました。更新わかりにくくなりますが、週一で換えていこうかなと思います。