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蛇に転生しました。勇者か魔王になろうと思います。  作者: 松明ノ音
【駆け出し編】少年は冒険者になった。
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あの時の聖女の話をしよう(2)




 町に入る前に、蛇を起こしました。


 魔物がいる荒野よりも、塀に囲まれた町の方が俺たちには危険です。


 力の強い魔物よりも、敵意の無いような顔をして近づく弱い人族の方が恐ろしい。


「ありがと。休めたよ」


 蛇はそう言って、ドスンとイッサさんの背中から降りて伸びをする。


「つくづく、アンタの体どうなってんですか」


 息を切らせているイッサさんを横目に、目を閉じている蛇に言います。


「人の顔や心遣いは見えても、人の心も自分の心も見えないんだよー」


 だから、自分のことを知るのは他人のことを知ろうとするより難しいのだと、俺より幼い褐色の顔で言う。質問には答えていない。まだ寝ぼけているのかもしれない。


「……さて、どうする? 塀から見て人族の村のようだが」


「うん、タマソン村は原始的だったけど、中世洋風の田舎って感じだねぇ」


 蛇は時々、よくわからないことを言います。


 亜人の村は、基本的に簡易的な柵しかありません。きちんと石垣を組んでいるところ、人族の町でしょう。


「普通に、何食わぬ顔で入ってみようか。いい加減、まともな飯を食べたいよ」


 僕達は誰も、料理ができませんでした。ヒジカさんは薬師の応用で調味料なども使って、時々美味い料理を作ってくれましたが、イッサさんは不器用で俺は子どもです。


 結局、蛇が《邪眼》で見つめて焼いた肉しか食えてないです。


 ヒジカさんが死んだ時に初めて見たからか、額の眼には未だに慣れません。




 王都と比べれば小さな町でしたが、タマソン村に比べれば五倍はある町でした。人口は20倍はいたでしょう。地面に石畳はなく、タマソン村と同じ剥き出しの土でした。


 僕達が塀の切れ目から入ると、町は騒然としました。


「何だ? 金髪ってー、珍しい奴隷だな」


 そう言って俺の髪を掴んできた男を蛇が殴り飛ばすと、悲鳴が上がりそれが伝わり、すぐに兵達に囲まれてしまいました。


「奴隷が人を殴ることは、重罪であると知っているか?」


 剣を構えて威圧しながら言う、隊長らしき中年の髭面男の目。これまでの旅で見てきた、侮蔑の目でした。


「僕達は奴隷じゃないよ。勇者適正を持つ亜人が出てきたってー、聞いてない?」


「知らんな。私には、うまいこと奴隷輪(どれいりん)を外して逃亡した、亜人の奴隷にしか見えん」


 見当は付いていたのでしょう。男の返答は勇者であることを踏まえた上でのものでした。


「奴隷輪って、複雑な魔法がかけられてるんでしょ? そっちの方が確率低くない?」


 呆れながら聞く蛇には、下品なにやついた笑みを顔に貼り付けたまま応えません。そういうことにする、ということでしょう。


「一応言っておくけど、僕達に敵意はないよ? ご飯食べさせてもらって、ベッドで休ませてくれればすぐに出て行くからさ」


 普通に言った蛇の言葉には、髭面以外の兵達からの怒声が返ってきた。


 曰く、ふざけるな、亜人を入れる飲食店があると思っているのか。


 曰く、亜人が泊まった宿屋など、人が入れると思うな。


 曰く、そもそも勇者だろうが、亜人に金などないだろう。


「あるよ? これで足りるといいんだけど」


 そう言って、金貨の詰まった袋をじゃらじゃらと持ち上げて、数枚を見せました。


 すると騒がしさは増しました。


 曰く、亜人が金貨など持っているはずはない。盗みを働いたに違いない。


 曰く、あれ一枚で一年は遊んで暮らせる。


 曰く、山分けにしましょう。勇者と知らずに逃げ出した奴隷だと思ったと言えば、深く追求はされますまい。


 タマソン村の税は物納だったので、僕達は金貨一枚の価値を知りませんでした。そんなに価値があるものなのかと、聞いて驚きました。


 まぁ殺したクソ貴族から盗んだものなので、謂われのない罵倒ではありませんが。それにしても、本音がだだ漏れだし、目的がすり換わっています。


 別に他人がどれだけ馬鹿だろうがどうでもいいのです。ただ、こんな馬鹿どもが、僕達を見下していることについては腸が煮えます。


「へへ、ちょうどいい。亜人が勇者なんぞと、偉そうな立場に立とうとするのが気にくわなかったが、鴨がネギ背負って来てたとはな」


 隊長格の髭面は、にやついた顔から明らかな喜色を浮かべた顔になっていました。下品だということはどちらも変わりませんが、今はヨダレを垂らしている分だけ、汚いです。


 兵達は各々、ごちそうを目の前にした餓鬼のように、辛抱できないように震える手で剣を抜きました。


「本当に僕達には敵意はないんだ。でも、殺されそうとするなら、殺すよ?」


 蛇が最終警告を言い渡しながら、殺気を放ちます。


 能力が足りないのか、金に眼が眩んでいるのか、それに怯む様子はありません。


 死体になるであろう数を数えながら、俺も剣を手に掛けた時でした。


「待ちなさぁぁあい~」


 殺伐とした空気をすべて壊すような間延びした、女の声が聞こえてきたのは。




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