あの時の聖女の話をしよう(1)
「俺が、話すべきなんでしょうね。あの時の聖女の話は」
さすがに義理とはいえ、親に言えないこともあります。そのあたりはぼかしますが、思い出してみましょう。
あの聖女に出会ったのは、あの貴族を殺したコウシ●●を出て三番目に立ち寄った町でした。
俺たちは亜人の村にしか、留まれませんでした。金を払おうと宿屋には泊まれませんでしたし、物盗りや捕らえて奴隷にしようとして来る人族がいたからです。
全員返り討ちに合って死にましたが、揉め事は避けたかったので、出来る限りは亜人の村に泊まるようにしていました。
「すまぬ。少し疲れた」
それでも、夜を徹して荒野を高速で這っていた大蛇ーーヒジカが太く低い声で言えば、足は休めなければなりませんでした。
「口調も、声も変わるんだな」
イッサさんが、真ん中の頭に乗ったまま言います。
僕達の《獣度調整》と同じように、魔族のヒジカには《魔化調整》ができるらしい。ヒジカは魔化70%では白い40メートルほどの大蛇になり、80%ではさらに大きい、三頭二尾の蛇の魔物になった。100%で、五頭で四肢を持つ化け物になる。
イッサさんは巨体なのでしがみつけますが、俺が抱きつくにはヒジカの体は太すぎたので、俺はイッサさんの腰にしがみついていました。
「次の町で休みましょう。俺も、かなり腕がしんどいです」
俺たちを振り落とさないよう、一応は配慮してくれるのでしょうが、それでも速かった。
「寒いな。あたたまりたい」
ヒジカの《並列意志》は肯くと白い頭を下げて、
「下りろ。あと一時間も歩けば、町が見える」
と言うなりいつもの白髪で褐色の少年、蛇亜人の姿に戻りました。
「疲れたー。イッサおぶってー」
姿も違えば性格さえも違いますが、疲労や考えは同じようです。
「……重っ! どうなってんだお前の体」
「わかんないよー、自分のことなんてわかるわけないじゃん」
寝ぼけたような声で言ったかと思えば、すぐに寝息が聞こえてきました。
「寝顔はかわいいんですけどね」
すーすーと寝息を立てる、褐色の少年の顔は幼い。しかし間違いなく、巨大な蛇の魔物と同一人物です。
「かわいくない、重さだがな」
後ろから支えようかと言ったが、イッサさんは鍛えるためにもなると拒んだ。
荒野を歩き続けると、時々魔物が襲ってきました。
このあたりの魔物ならば、使い慣れない剣を持った俺でも、一人で戦えます。
「シッ!」
数度太刀を浴びせれば、出血で動きが鈍ります。そこから致命傷を入れるのが、俺の戦い方になっていました。
一頭や二頭なら、傷を負うこともありません。
「ヒジカの剣はどうだ?」
問うイッサさんは、なんとも言えない顔をしていました。本来、俺に戦わせたくはないのでしょう。
「いいですよ。使いこなすには、もう少し斬る必要があると思いますが」
何十もの矢に射られたヒジカさんから、僕は剣をもらいました。志は、三人ともが受け継ぎました。