脱皮
周囲を警戒しながら蛇行しているつもりだったが、ぱちゃり、と水たまりに突っ込んだ。
やっぱり蛇は目が悪い。視界に入っていた水たまりにも気付けなかった。
と視界のせいにしてみたが、半分は俺の注意不足である。
《解析》しながら進んでいたが、水たまりのような現象は表示されないようだ。それはまぁいいとして。
蛇の目たる第三の目と舌を、十分に使えていないことが原因だ。ピット器官より視覚に頼っちゃうし、舌は気が付くとしまったままにしている。出していれば、水たまりにも気づけたはずだ。
積極的に出し入れしていこう。
チロチロ。
《暗視LV1》を手に入れたが、今のところあまり差異は感じない。鬱蒼とした木々の下でも、木漏れ日は漏れている。少なくともまだ日中。
夜になれば、恩恵を感じられるかもしれない。
それはそれとして、生まれて初めて水に浸かった。
生まれて初めての水浴びになるので、少し楽しんでいこうと、ぱちゃぱちゃしてみる。
ついでに言えば、水を飲むのも生まれて初めてだ。水美味いよ水。
チョロチョロと舌を出しながら水を飲む。人間だけでなくとも、やはり生物には水は重要らしい。
ぱちゃぱちゃ。
ぺちゃぺちゃ。
ぱちゃぱちゃ。
「きもちー」
しばらくぱちゃぺちゃと遊んでいると、身体の窮屈さがやわらいだ気がした。
消化まで待とうと、再びちょうどいい木の根を探していると、偶然石で体を擦った。
違和感を感じて体を見てみると、皮が少し破れていた。
「なるほど。皮が水でふやけて、破れやすくなったのか」
そもそも、こうやって脱皮するものなのかもしれない。
そうと分かればと、積極的に身体を石や木の根に擦りつけた。
皮のほとんどが剥がれると、もう一度水たまりに入って身体に切れ切れ残った皮をふやかし、完全に皮を取った。
うむ。爽☆快☆。
レベルアップによって、間違いなく力が上がっている。今なら小魔鼠なら一噛みで殺せる気がする。早く動こうとすれば、今までより素早く動ける確信もある。
身体も一回り大きくなった気がする。こんなに早く成長出来ているのは《恵体》の恩恵か。
皮が剥けたり大きくなったり、とんだ卑猥な生き物である。
フロイトが俺を性的な目で見るのも頷ける。
そんな目で見ないで!
「…………」
……ちょっと休んで腹の中消化したら、また狩りに出よう。