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第6話 おもちゃの部屋でずーっと

「お、おかえりなさい、ごしゅじんさま……」

 テーブルの上に並んでお辞儀をする、獣人の形をしたぬいぐるみが、全部で七つ。

 人間の頃の記憶を引き継いだまま、動いて喋る不思議なぬいぐるみ達だ。

 生まれつき強い魔力を持っている人間――『魔力持ち』はこんな風に、変化後も活動できる場合が有る。

 と言っても、それはほんの、本当にほんの一握りの人間だけ。

 それも、女の子だけだ。これはきっと、魔法使いが女性――魔女しかいないのと、関係しているのだと思う。

そもそも人間の魔力なんてたかが知れてるから、それを感じ取って見つけることからして難しい。以前試しに調査してみたところ、学校を十個変えて見つけた魔力持ちはたった一人だった。

 私はそんな貴重な人間を見つけると、このぬいぐるみの姿に変えることにしている。

 『動いて喋る』特性を活かせるから、ぴったりだ。

「部屋の掃除はちゃんとしてくれた?」

「は、はいっ、勿論です!」

 話し掛けると、黒猫のぬいぐるみが大きな声で返事をしてくれる。ちらっと確認してみれば、確かに部屋はきちんと片付いていて、関心関心。

「紅茶、です」

「どうぞ……」

 私が椅子に座ると、今度はイタチのぬいぐるみがマグカップを、うさぎのぬいぐるみがコースターを、それぞれ抱える様にして持ってくる。

 よろめきながら一生懸命運んでる姿を見るのは、飽きない。

 それから羊のぬいぐるみと、リスのぬいぐるみが二人がかりでよたよたとティーポッドを持ってきて。

 そして、湯気を立てながらマグカップに紅茶を注いでいく。

「あなたたちに会いたくて、今日は早く帰ってきたの」

 紅茶を一口飲むと、狸のぬいぐるみの太いしっぽを捕まえる。

「そ、そうなんですか……」

「そうよ。嬉しくないの?」

 なんて言いながら、狸のほっぺたに頬ずりをしてみたりして。

「えい」

「ひゃあっ!」

 お腹を突いてみれば、狸のぬいぐるみはビクンと震えて甘い声を出す。

 滑らかな布地はやわらかくて。中にたっぷり詰まった綿は、押すと少し反発する。全身がもふもふのふわふわ。人間で作ったぬいぐるみはほんのりあったかい。

「ここが良いのかしら?」

「ひ、うくっ、な、ベル様、や、や……」

 全身をもふもふもちもちと撫でたりもんだりしてみる。

 この狸のぬいぐるみのお腹は、他のぬいぐるみよりも撫で心地が良い。

 触られるたびについつい反応してしまうぬいぐるみ。その表情はぬいぐるみなのに赤く染まっていて、不本意に快感を覚えているのが筒抜けだ。

「ふふっ、ぬいぐるみにさせられて、撫でられて興奮しちゃうなんて、変態ね」

「ん、そ、そん、な、あっ……!」

「ほら、ご主人様のありがたい言葉よ? もっと感謝なさい」

「は、はいっ、わたしも、べ、ベルしゃま、のことが、大好きです!」

 撫でられて気持ち良くなっちゃってる屈辱に耐えながら、湧きたってくる声や抑えながら狸のぬいぐるみは返事をする。

「くすっ。こんな変態なぬいぐるみなんて、きっと世界中のどこにもいないわね」

 その言葉に狸のぬいぐるみの表情が哀しく曇る。

「今のあなたを学校のお友達が見たら、なんて思うかしら?」

「……!」

 その言葉に、狸のぬいぐるみが絶望に打ちひしがれたのを見届けると、私はようやく撫でるのを止めた。

 まあ、そのお友達はもう、私がみーんな食べちゃったんだけど。

 狸のぬいぐるみに変える前は確か、クラスの委員長か何かをしている真面目な子で、クラスメイトから慕われていたのだ。

 だからそのプライドをもてあそんで、立派になっちゃったお腹をからかったり、自分でぽんぽんお腹を叩かせたりして沢山遊んだ。それでも必死に耐えてるところを見ると、余計にちょっかい掛けてみたくなっちゃったりして。

「本当に私のこと、大好きなの? 本当にそう思ってる?」

 それから私は、他のぬいぐるみに視線を向ける。

「と、当然です、ご主人様! 人間なんかより、ぬいぐるみの方がずっと良いです!」

「ご主人様がぬいぐるみにしてくれて、今とっても幸せです!」

「こんな素敵な魔法を掛けてくれて……本当に、ありがとうございます!」

「ふうん……」

 そんなの嘘に決まってるんだけど、必死に誤魔化そうとしてる姿もたまらない。

 どんな気持ちなんだろう? 自分をこんなぬいぐるみの姿に変えて、何もかも奪った魔法使いに思ってもいない感謝を言わされているのって。

 変化魔法で一番楽しいのは、こうやって魔法の力を十分に見せつけた後で聞く命乞いだ。

「それでね、今日は――」

 そして私は、膝の上に乗せていた狐のぬいぐるみをテーブルの上に置く。

「――新しいお友達を連れて来たの」

「ふえっ……?!」

 自分と同じようなケモノのぬいぐるみに会って、まだ状況が呑み込めない狐のぬいぐるみは戸惑って視線を泳がせている。

「ほら、自己紹介なさい」

「う、ううっ、わたしは……わたしは、なこ――」

 そして狐のぬいぐるみは恐る恐る、やわらかくて丸い自分の白いおなかをぎゅっと両手でつかんで声を出そうとする。

「なこ? そんな名前じゃないでしょ?」

「? えっ、でも、私の――」

「そんな人間みたいな名前じゃなくて。そう、狐だから――『おあげ』ちゃんでどう?」

「は、はい……ぐすっ、わたしはなこ――、いえ、そうじゃなくて……おあげ、です……」

 ちらちらとこっちの様子を伺いながら狐のぬいぐるみは、私が適当に考えた名前を言いながらぺこりとおじぎをした。

 大きな狐の大きな狐の耳もしっぽも今は垂れちゃってるけど、手のかからない聞き分けの良い子で良かった。

 まあ、ぬいぐるみに付けた名前なんて、みんな忘れちゃうからそんなに意味は無いんだけど。

 ただ、名前をペットみたいに変えられるみじめさを味合わせたいだけだ。

「あなたはこれから、ずっと、このおもちゃのお部屋で暮らすの。ずーっと、ね。素敵でしょ?」

 そして私は狐の鼻先をつん、と触って、はっきりとそう言い聞かせた。

「……」

 一瞬首を横に振りかけて、慌てて頷く狐のぬいぐるみ。ふふ、今ちょっと危なかったみたい。

「さてと――」

 そして私は並んでるぬいぐるみ達をざっと見渡す。

「――今日はどの子で遊ぼうかしら?」

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