第3話 アニメでもマンガでも絵本でも
ベルが指を振ると、あっという間になこちゃんが煙に包まれて……。
ぽとり、と床に落ちたのは、ぬいぐるみ。
あれは何の、ぬいぐるみなんだろう? 体の形は人間みたいなんだけど、体中がもふもふの毛に包まれてる。背中は黄色の、おなかは真っ白のふわふわの毛。
そして人間よりも長くて先が黒い鼻がちょこんと付いていて、頭の上に三角形の耳がぴーんと立っていて、おしりにはわさっと大きなしっぽが生えていて。
なこちゃんだって分かるんだけど……人間じゃない。
狐。
狐、だよね。まるで、狐と人間を混ぜ合わせた様なぬいぐるみに、なこちゃんがなっちゃった……!?
「へえ~かわいいじゃない。これは結構、楽しめそうね」
そしてベルはなこちゃんをひょいっと拾い上げると、そのままローブに入れてしまった。
「さて、と。それじゃ、そろそろ――」
そしてベルが、教室の扉の近くに集まったわたしたちを見下ろして――。
じゅるり、と舌なめずりをする。
「こ、こんなの夢なんでしょ??」「き、きっとこれは、すごい手品なんだよ!」「助けて、助けて下さい!」「変えないで、変身したくないよ!」「せんせい……誰か、来て……」
みんなわんわん泣いて、助けて、許してってベルに言ってるけれど……。
「やっぱり人間って、面白い。毎日こんな退屈なところに通ってがんばってるのに――」
だけどベルはくいっと、指を振った。
「最後はただのお菓子になって、みんな私に食べられちゃうんだから」
そのとたん、教室中が煙に包まれる。
「けほっ、こほんっ……!」
息が苦しいよ、前が見えない! それに……むぎゅっ!
「ひゃっ、あっ!」
いきなり体中がむぎゅむぎゅと、やらわかいもので上からも下からも押さえつけられて。動けないぐらいにぎゅうぎゅうになっちゃう……!
「ん、んぎゅ、な、にゃにこれ??」
体を包み込んでいる床は真っ白で。天井は、黄色くて。それに両隣を、大きくて赤いなにかにはさまれてる。
もちろん、教室じゃない。どこ、ここ??
全身がふわふわして、くすぐったくて、白い床がくっついてきてべたべたするよお……!
「ふふ、やっぱり学校中の子供達で作って正解だったみたい」
どこからか、そんなベルの声が聞こえてくる。
きっと、きっとベルはわたしに、いや、学校中のみんなに、魔法をかけたんだ!
でも、どんな魔法を?? 分からない。怖い、怖いよ!!
「とてもおいしそうなショートケーキになって、幸せじゃない? なんて、もう誰も聞こえちゃいないか」
ショートケーキ。
ベルはわたしたちを、ショートケーキに変えちゃったんだ……!
真っ白い床は生クリームで。黄色い天井はスポンジで。でも、それはみんなみんなみんな、クラスの、学校中のみんなが変えられちゃったものだ。
そして、わたしの両隣にならんでるのは、イチゴだ。と、いうことは……。
「いちご……?」
そう、いちご。わたし、ショートケーキの間のイチゴになっちゃったの??
「や、やだよお、いちごなんかやだよお……!」
いちご……いちご、いちご、いちご。
思い浮かぶのは真っ赤で甘い、あのいちごだ。
わたしも大好きだった、甘いフルーツ。ショートケーキだって大好きで、誕生日になるといつもパパやママに買ってもらってた。
でも、わたしがその、ショートケーキのいちごになるなんて。これから、いちごとして食べられちゃうなんて、うそだ。こんなの、アニメでもマンガでも絵本でも、ありえない。
こんなひどい魔法を使う人なんて、いないはずなのに!
「みんなしっかりして、戻ってよ、元に戻ってよ! みんなはスポンジなんかじゃないよ、生クリームじゃないよ、いちごじゃないよ、ベルに変えられちゃっただけで、人間なんだよ……!」
泣き叫んでも、返事は一つもない。
仲良しだった友達はみんな、ショートケーキになっちゃったんだ……。
どうして、わたしだけいちごになっても、心はいちごになってないんだろう??
とにかく、このままじゃ、食べられちゃう。いちごとしてみんなと一緒に、ベルのおなかでとかされちゃう!
どうしてわたしが、こんなひどいめにあわないといけないの?? ぽろぽろと涙がこぼれて、止まらなくなる。
「ご、ごめんなさい! もう悪いことなんてしませんから、うわさなんて、流しませんから!!」
そうだ、きっと悪いことをしてたのがいけなかったんだ。
うそのおはなしを広めたり、携帯電話をもってきたり、だめなことをいっぱいしてたから、バチが当たったんだ。
「わたしまだ、やりたいことがいっぱいあるんです! いい子にしますから、いちごだけは……!」
こんな体じゃもう、お絵描きもおしゃれも運動も何にもできない。だって、いちごは食べられるだけの食べ物だから。
だけど、どんなに叫んでもベルには届かない。それどころか……。
「それじゃ、食べちゃおっと」
「ひいっ!」
そんな声に、びくんっと体が震える。
悪の魔女のベルからは、絶対に逃げられないんだ。いちごのまま、食べられちゃうんだ!
いやだ、そんなの、いやだ!!
「あ、あれっ?」
その瞬間――ふと気が付いた。
よく見れば、ちょっとだけ体が、いちごに変えられちゃった子の列からずれてることに。
試しに、思いっ切り力を入れてふんばってみると。
「うごい、てる……??」
! ちょっとだけだけど、動けてる!
もっともっと、震えてみる。すると、ちょっとだけ、前に進めた!
チリン。フォークがお皿に当たる音がする。
きっと、フォークをベルが持ち上げたんだ。
に、逃げ、逃げ、なきゃ!