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第10話 決着

―――。



 普通の人間よりも、魔力を持った人間を変えた方が、変化魔法は上手くいく。

 そして、勿論。

 魔力を持った人間よりも、魔法を使える者を変えた方が、もっと変化魔法は上手くいく。



 まぶしい光に部屋中が包まれた後に。

 ぽとり、と何かが床に落ちる音。拾い上げられるとすぐにそこから声が聞こえてくる。

「くっ、何だ、これは……!」

「――流石は魔女。まだ話せるの……?」

 部屋の中に響き渡る、ベルの声。

 その声は今、リルハちゃんの手の中の、ピンク色のパンツから聞こえてくる。

 パンツにはひらひらのフリルや、ハートマークの大きな刺繍がついていて、とってもかわいいけど……。

「こんなはずは、私が負けるなんて、そんな……」

 パンツがふるふると震えるとベルの声が聞こえてくる。ということは、もしかして。あのパンツって、やっぱり……。

「……認めなさい。あなたは私の魔法で、パンツになったの」

「ぱっ、パンツ!? この私が!? そんなはずが……!」

「ううん。残念だけど、本当だよ、ベル」

「嘘だ、私の変化魔法が負けるはずない! こんなの、嘘だ!」

「……さっきも言ったでしょう。正義は、悪になんか負けないんだよ」

「でも、でも! 今まで魔法警察も、お前みたいな生意気な魔女もみんな、みんな無様な姿に変えてやったんだ!!! 私の変化魔法に、敵なんて――」

 パンツになっても、ベルは凄い迫力で。びくっ! と、怖くて大きな狐のしっぽの毛が逆立つ。

 はらはらとしながらわたしは、リルハちゃんとベルのやり取りを見つめるしかない。

「確かに、わたしの魔法だけだったらきっと、あなたには勝てなかったと思う。でもね……」

 リルハちゃんは、哀しそうな目をして、ベルを見る。

 それから、わたしたちの方を向いて……テレビに映ってる時とそっくりに、優しく微笑んだ。

「みんなの正しいお願いが、わたしの魔法に力を与えてくれたんだ」

「う、うるさい! そんなのまやかしだ! たかだか子供の願いが伝わったところで――」

「今までやられてきたみんなの気持ちが分かるまで……」

 そして、リルハちゃんはさっとベルのことを両足に通すと。

「この悪の魔女の私が負け――む、むぐっ!? ん、んん~っ!!?」

「こうして、反省していてね」

「~~~!」

 そのままスカートの中にくいっと上げて、パンツとして履いちゃったのだった。

「う、うぐぐっ、ふざけるな、よりによってわたしが、ぱっ、ぱんつなんて、こんな、恥ずかしいっ、屈辱、んっ、ああっ! ん、むぎゅっ……。……」

 すると、だんだんベルの声はうすらいでいって……やがて、聞こえなくなった。

「「「…………」」」

 狸のぬいぐるみの子も、イタチのぬいぐるみの子も、みんなきょろきょろ、ちらちらお互いの顔を見合わせて。それから……。

「「「やったーっ!!!」」」

 みんなでいっしょに、ばんざいして喜んだ。 

 やった! ベルがパンツになっちゃった! 

 やった、やったやった! すごい、まだ信じられない。夢みたい! 

 アニメの世界からリルハちゃんが本当に来てくれて、わたしたちのことを助けてくれたなんて! 

 でもそれはほんとのおはなしなんだ! だって、もうベルはいないんだ、あんなにかわいいふりふりのパンツになっちゃったんだから!! 

 ぽふぽふとハイタッチをしたり、よしよしと頭をなでたり、しっぽに抱き着いたり。ちょっとくすぐったいけど、そんなの全然気にならない。うれしくてうれしくてみんな、泣きながら喜んでいた。

「ベルをやっつけたよ、みんな!」

 リルハちゃんもわたしたちのところに来て、ほっとした様に笑った。

「本当に、本当にありがとう、リルハちゃん!!」

 ありがとうって、いくら言っても全然足りないよ。

 だって、わたしたちの所に駆けつけて、あのベルに立ち向かって、やっつけちゃうなんて。

 魔法少女リルハちゃんは、アニメに出てくる様に――ううん、アニメで見てる時よりももっとやさしくて、かわいくて、かっこよかったんだ!

「う、ううう、ありがとう、リルハちゃん!」「リルハちゃん、とってもかっこよかったよ!」「助けてくれてありがとう~!!」「リルハちゃんを信じて、本当に良かった……!!」「えへへ、本当に、リルハちゃんに会えるなんて!」「リルハちゃん、大好き!」

 みんなもわたしももう何度もリルハちゃんにお礼を言って頭を下げている。

「――ううん」

 だけどリルハちゃんはふるふると首を横に振って、照れているようにえへへと笑った。

「わたしなんか、全然すごくない。みんなのお願いが奇跡を起こしたんだよ」

「わたしたちのお願いが……そっか……!」

 そうだ、そもそもリルハちゃんがここに来てくれたのも……。

「リルハちゃんが助けてくれたのも、すうちゃんがお願いしたのが伝わってくれたからなんだよね!」

 きっとすうちゃんはベルに見つからない様にこっそり、今朝教えてくれた秘密の電話でリルハちゃんを呼んでくれたんだ!

「うん。すうちゃんが教えてくれたんだ。ベルっていう悪い魔法使いが、ひどいことをしたって」

「そうなんだ。やっぱり、そうだったんだ!」

 すうちゃんの勇気が、わたしたちを助けてくれたんだ!

「うん。すうちゃんとの約束を守れて良かった。きっと――」

 リルハちゃんは安心した様に目を細めて。それから――。

「――すうちゃんも、喜んでくれてるよ!」

 ぽんぽんと、自分のおなかを叩いた。

 ……あれっ?

「? どうして、おなかを触ったの、リルハちゃん?」

 リルハちゃん、おなかが空いてるのかな? でも、そういう訳じゃないみたい? そんなリルハちゃんの仕草がちょっと不思議で、尋ねてみる。

「あっ、それはね」

 するとリルハちゃんは嬉しそうにごきげんで、こう答える。

「すうちゃんが今、わたしのおなかの中にいるからだよ」

「えっ? あはは、リルハちゃん、面白い!」

 すうちゃんがおなかの中だなんて、おかしい冗談を言うなあ、リルハちゃん!

「?」

 だけど。リルハちゃんは、きょとんとして首を傾げてる。あ、あれ……??

「それで……本当は、すうちゃんはどこにいるの?」

「だから、すうちゃんはここにいるけど……」

 そしてリルハちゃんは、まじめな口調でもう一回おなかをさすった。! まさか……!?

「う、うそ、だよね? だって、そ、それって、すうちゃんを、食べ――」

 そ、そんなことないよね。だってリルハちゃんは、すうちゃんの願いを聞いてくれたんだよ?

 ベルをやっつけてくれたんだよ? わたしたちを助けてくれたんだよ? 

 正義の魔法少女のリルハちゃんが、ベルみたいなこと、するわけないよね?? 

 きっと、わたしをびっくりさせるための、うそなんだよね。

「うん。いちごになったすうちゃん、とても甘かったよ!」

「!」

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