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第七話 「完結」

 




 次の日から、小人の様子が変わった。僕を見た小人たちは、とたんにソワソワし始めるのだ。


 そのソワソワは文明中に広がり、留まることを知らなかった。


 僕は疑問に思ったが、その小人たちの表情を動画に収め、カオリさんに送った。



 それから、学校へ向かった。昨日と同じように、小人たちが、これからどういう行動に出るのかが非常に疑問だった。


 それと同時に、非常に不安でもあった。いつしか僕の頭の中は、完全に小人の文明のことでイッパイになってしまった。



 不安と期待と、胸の高揚感と緊張は、僕の心の中でひしめき、まるで新しい恋に落ちたかのような感覚を呼び覚ました。


 刺激的だと思ったし、非現実的でもあった。



 そうして今日もカオリさんと一緒に帰る。帰って小人の文明を観察する。


 しかし、僕が部屋に入ると、小人たちは鬼のような形相を浮かべて、団結し、


「こーろーせー。こーろーせ」


 と僕に向かって、罵声を浴びせてきたのだ。


 その一致団結。あまりの鬼気迫る表情。その異常な光景に、僕は心から怒りが込み上げてきた。


 この世界の神である僕を、こんなにも侮辱してよいのかと、疑問に思いながら、その光景を愕然としながら眺めていた。



「そりゃそうだよ。ケンジくん、神殿壊しちゃったもん」


 とカオリさんは言ったが、僕にはその言葉の意味が分からなかった。



 僕は、この文明の神様なのだ。神様だから何でもやって良いはずなのだ。それなのに、彼らは反逆する。反逆する資格すら無いちっぽけな小人どもめが、僕にたてつく。



 その情景に、なぜだかすごく取り乱し、激高してしまった。


「おい! 小人どもめ。文明の神であるこの私に向かって、その態度はなんだ。鉄槌を下してやる、まずは女子供から殺してやる。お前たちに屈辱を味わわせてやる」



 僕は渾身の叫び声を張り上げ、民衆の中の、おそらく一番、美人であると思われる女の小人をヒョイと指でつまみ上げた。



「見せしめだ。まずはこの女から殺してやる。服を脱がして、これでもかという程、屈辱を味わわせて、それから、ゆっくり痛めつけて、殺してやるのだ!」


 僕は叫んだ。


「ケンジくん。それはいけない。


 アナタ、文明の神様なんでしょう? そうしたら常に清く正しい政治をしないと! 今のアナタは暴君だよ! もう一人の神様である私がゆるさない。


 私も小人たちに賛成する。

 アナタを、今ここで殺してあげる!」




 僕が彼女のことを振り向いたとき、彼女は鬼のような形相を浮かべながら、僕に襲い掛かった。



 僕はつまんでいた女の小人を落としてしまった。


 女の小人は、恐怖から解放された安心感のためか、ワンワンと泣きじゃくっていた。


 地面に倒れこんだ僕に、彼女は馬乗りになった。


「この世界の神様は、アナタだけじゃない。私も、この文明の神様なの。私こそが、真の世界平和を達成できる神様。そう、アナタなんかよりも断然ね」



 と言って、その細い指先で、僕の喉を締め付けた。


 僕は、息ができなくなってしまった。このままでは本当に殺されるのだと思った。


 そう言えば、今、カオリさんに言われるまで世界平和のことをすっかり忘れていた。


 どこの世界を平和にするのか、平和とは何なのか、思えば、僕はそういった思考を頭から完全に排除してしまっていることに気が付いた。


 その時だった。

「待ちたまえ!」


 という声が聞こえた。その声で、カオリさんは手の力を緩めたので、僕は息ができるようになった。


 ふと声の方向を見る。白髪の老人の小人が、そこにいた。彼は白衣を着て眼鏡をかけている。博士だと思われた。



「とうとう完成したのだ。あの暴君を粛正する発明を。私の生涯をかけて生み出した巨大な装置を!」


 博士は天井を指さした。そこにはヒョウタンのような黒い塊があった。



 その塊を見た時、僕はギョッとした。

 小人たちが歓声をあげている。



 核兵器だ。核兵器が歓声したんだ!

 と小人たちは祝杯している。



「さあ、今こそ、暴君に、粛正を!」


 博士が手を振り上げると、小人達が再び声を荒げる。




 しゅっくせい! しゅっくせい! ほーろびろ、ぼーくん!

 しゅっくせい! しゅっくせい! ほーろびろ、ぼーくん!




 ヒョウタンが落ちてきた。



 僕とカオリさんは「アッ!」と声を上げた。


 すると部屋中にものすごい爆風が起き、崩された神殿をさらに木端微塵にし、小人たちをたちまち焼き払い、全ての文明に宿った命を、ことごとく吹き飛ばしていった。



 辺りには、焦げ付いた神殿の残骸と、焦げ付いた小人たちの死体だけがあった。



 僕らは無事だった。


 焼き払われ、焦げ付いた文明を、ただ茫然と見ていた。


「なんてことだ」

「うそよ」


 僕らは顔を見合わせた。


 小人たちは、自分たちのチカラだけで文明を滅ぼしてしまったのだ。


 僕らは、もう二度と、彼らの文明を破壊することなんてできないのだ。



 僕は、彼らに敗北した。

 カオリさんは笑っている。



「ねえ、ケンジくん。文明……滅んじゃった。

 ねえ、見て、真っ黒。みーんな真っ黒。それでね、この文明で生き残ったのは私たちだけ。


 アナタと私は、この文明で、たった二人だけの生き残り。これって、それこそ……神が私たちを選んだんだよ。


 あはは。あははは。ねえ。ケンジくん。この文明の中で、私たちだけが特別。本当に、特別な存在なんだよ」




 彼女は、僕の肩を両腕で揺らしながら、そんなことを語っている。


 僕は、唖然としながら立ち上がって、小人たちの丸焦げになった死骸をかき集めた。



「やあ。小人ちゃん。こんにちは。僕は、この文明の神様だよ。僕は、この文明でいちばん偉いんだよ。君たちなんか、指で、簡単につぶせちゃうんだよ。君たちが、作って来たもの、築き上げてきたもの、みーんな。簡単にブチ壊せちゃう。すごいチカラを、僕は持っているんだよ。やあ。小人ちゃん。僕は、この文明の神様、なんだよ」





 僕はいつまでも、いつまでも、その黒焦げの死骸をかき集めながら、山積みになった大群に向かって、そう語り続けていた。






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