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第六話 「独裁」

 



「何を無礼なことをする! 私はこの文明の神だ。力を認めよ」



 と、言った。


 制服にしがみつく彼らを、埃を落とすように振り払うと、彼らは絶叫し、イテェ。と言いながら地面に落ちた。


「このように、私はお前たちよりも強い力を持っているのだ」


 と僕は言った。


 だが、彼らは僕の言葉を全く聞こうとはしなかった。それどころか、まるで精神障害者を哀れむような目で見てくる。



 小人たちは僕の机の引き出しを勝手に開けて、中からタコ糸を取り出した。


 大勢の小人がタコ糸を引っ張って伸ばし、僕の首に巻き付けた。


 僕は、抵抗することもできたが、こんな貧弱な紐で僕の首が締まるわけがないと思ったので、とくに抵抗しなかった。


「執行せよ!」

 というオオ様の声が聞こえた。



 とたんに僕の首に巻き付いたタコ糸が締まった。


 けれども、くすぐったいだけで、全然苦しくはないので面白かった。


「ケンジくん大丈夫?」


 と、カオリさんから心配する言葉が投げかけられた。僕は、


「大丈夫、大丈夫、ちょっと死んだフリをしてから生き返ったらどんなふうになるか試す」


 と答えて、あからさまな表情で、


「ううー。苦しいよぉ。これじゃあ死んじゃう。オオ様、許してくだせぇ。俺には愛する妻と子供たちが居て、俺の帰りを待っているんだよぉ」



 という命乞いをしても、まったくタコ糸のチカラが緩まなかったので、神殿をブチ壊すという行為はよほどの大罪なのだと自覚した。



 そろそろかな、と思い、僕は死んだフリをした。



 僕は床に倒れこんだ。


 しばらくジッとそのままにしていると、小人たちの騒めきが聞こえた。


 死んだ、死んだ、という困惑の声が聞こえた。


 なるほど、僕は公開処刑をされたという提なのだ。


 であるからここで立ち上がり復活の宣言をすれば、僕はいよいよ神格化されるかもしれない。




 僕は、にょっきり立ち上がった。


 小人たちが絶句した。


 オオ様が泡を吹いて失神した。


 その様子に僕は思わず「あはは」と笑ってしまった。


 カオリさんも笑いをこらえきれないらしく「あはは」と大笑いしている。



 だんだんとテンションが高くなってきた。


 僕はこの小人の文明に、もっと自分の力を認めてもらいたかったので、少し過激な行為に出ることに決めた。


 オオ様をもっと怖がらせるのである。怖がらせて、僕にひれ伏させて、僕を新たなオオ様であると認めさせるのである。



 そのために僕は、オオ様を指でポンポンと叩いて、意識を取り戻させた。オオ様は恐怖のあまり震えている。


 民衆も状況が理解できず愕然としている。



 僕は机の引き出しから透明のペンケースを取り出した。


 そうして、オオ様をヒョイと摘み上げると、彼は喚き散らしながら絶叫した。気の毒に思ったが、関係ない。


 彼をペンケースの中に放り込んで蓋をした。それから空気穴を作るためにハサミを用意した。


 僕はハサミでケースに穴を開ける作業をした。


 小人たちはこの世の終わりを目撃するかのような表情で、この光景を見ている。


 僕は、とても楽しかった。

 こんなに楽しい遊びを他に知らない。


 小人たちは、その小さな体と、小さな頭脳で、必死に生きている。その生命を僕らが完璧に掌握している。


 その事実が、僕にとってたまらなく快感だった。

 それは横で感動に打ち震えているカオリさんも同じだった。


 彼女はあまりの面白さのために笑い続け、目に涙を浮かべている。彼女は、僕の肩に両手を置いて、


「あははは。ケンジくん、それ、最高。最高すぎるでしょぉ」


 彼女は狂ったように笑っている。


 オオ様はペンケースの中で必死に命乞いをしている。


 民衆の小人たちは泣き叫んでいる。


 僕は、その光景を見て、ほんとうに嬉しい気持ちになった。ほんとうに芸術作品を見ているような気持になった。


 それで、ほんとうに神様になったんだという実感が湧き上がって、僕の胸の奥でより一層の熱を帯び広がった。



 それがたまらなく優越的だった。



 崩れ去った神殿が力なく僕のことを見ている。神殿の残骸のカケラ一つ一つに至るまで、僕には輝いて見えたし、僕の功績を称賛してくれているようにも思えた。




「ねえ。見て、ケンジくん。民衆が私たちを見ている。民衆が、私たちを称賛してくれている。


 ねえ。今、私たち、ものすごく奇麗なカケラを見ている。あの残骸。あの崩れた神殿の残骸も私たちを神様だって認めてくれているはずよ。



 ああ。幸せ。私たち、本当にこの文明の神様なんだ。ずっとずっと神様なんだよ。だって私たち、小人じゃなくて人間だから……小人なんかよりもずっと高次元にいる気高い人間だから」



 カオリさんは言っている。

 その華奢な唇を動かしながら、この事実に感嘆している。



 僕はその彼女の表情を見てより一層の胸の高鳴りを感じた。彼女の言うことは真実で、この文明における絶対的な真理なのだ。それを今、僕らは噛みしめている。



 小人たちは依然として言葉を発しなかった。あまりの驚愕に、なんのアクションも取れなくなってしまったようである。



 しん、と静まり返った文明は、どことなく奇妙なものだった。



「分かったかあ!」

 と僕は叫んだ。



「分かったか、民衆どもめ! これが私のチカラなのだ。私のチカラは強いのだ。


 お前たちが作り上げてきた神殿など、こんなにも簡単に崩れ去るのだ。これからは我をオオ様としてあがめよ!」



 僕はもう一度、拳を振り上げると、力なく崩れ去った神殿の残骸に二度三度の鉄槌を浴びせた。



 気の毒なほど無残に崩れるその神殿の姿は、幾度となく僕の胸を刺激した。



 気高い優越感を僕の心の内にひしひしと伝え、いつまでも高揚感が消えなかった。



 そのうち、小人たちが、僕にひざまずいた。

 この間の、原始人の小人みたく、


「ははー。ははー」

 と、無様にひれ伏している。とうとう僕の胸の高揚感は限界に達してしまって、



「アッハッハッハ。アッハッハッハ」


 という狂ったようなバカ笑いを繰り広げた。


 隣でカオリさんが、ふざけたように地面に這いつくばって、小人と同じように、ははー、ははー。と僕を崇めたてまつっている。



 彼女は、ひれ伏しながらも、時折、喘ぐような笑いをしていた。僕も、しばらく高笑いを続けた。





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