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第四話 「規則」

 




 声がした。


 僕たちは、驚きのあまり、声が出せなくなった。


 声の方向を見ると、小人がいた。


 地面に立っていたので、危うく踏みつぶしそうだったが、その小人は何も構わない様子で、


「君たち、見ない顔だねぇ。新前かい? だったら働いてもらわないと。食っていけないよぉ。みんな必死に城を完成させるようと頑張っているから」



 五ミリくらいの大きさの小人は、僕らに向かって、そんな話をした後、そそくさと棚の上に戻って行った。たった今、起こった現象に、僕らは顔を見合わせた。



「なにが、起こったんだ?」と、僕は言う。


 もしかしたら、あの小人たちは、僕らのことを「巨人」としては見ていないのではないだろうか。あくまでも普通の小人として、対等に接している。


 あの日も、原始人の小人は、僕に向かって干からびた米粒を渡してきた。この行為は、僕を巨人として認識していてはできない行為だ。


 その旨をカオリさんに伝えると、やはり彼女の考察も、僕と同じものだった。


「どうよ、女神さま」

 僕は、ワザとらしく彼女に聞く。この文明の神様に、なれそうかい? と。



「とっても手応えがありそう。今からワクワクする!」


「それはよかった」


「ねえ。さっきはごめんね。私、ちょっと可笑しかったよね」


「そんなに神様になりたいの?」


「なりたい」

 真剣な彼女の表情は、とっても可愛らしく見えた。





「実はさ、僕も同じことを考えていたんだ。指で潰せば簡単に死ぬような貧弱な小人が、必死に文明を作っている。しかも僕の部屋の中で。


 だから僕は、この小人たちにとってどんな存在なんだろうって、今日、授業を受けているときずっと考えていた。


 だからさ、お互いこのことは秘密にしよう。あのさ、二人で一緒に神様になろうよ。それは嫌だ?


 君は、この文明で唯一の絶対的な女神さまになりたい? 僕と一緒じゃ、嫌だ?」





 彼女の返答を待つのが怖かった。


 もし彼女が、この文明で唯一の絶対的な神様になりたい考えが強靭であれば、もしかしたら僕は殺されるかもしれない。


 そういった意味で、僕のこの質問はかなりのリスクを含むものだったが、彼女は意外にもすんなり僕の提案を受け入れてくれた。



「本当?」


 と彼女は一言そう言って、僕の瞳をジッと見つめた。


 彼女からは怒りや困惑の感情は見受けられなかった。


「いいよ。それでも。それにもともとは君だけの秘密のはずだった。アナタの部屋に入り込んで、神様になりたいだなんて勝手なことを言い出したのは私だから」



 いつになく彼女の表情が可愛らしく思えた。


 彼女は本気でこの文明の神様になりたいと思っているし、なれるのだと確信してもいた。


 その目を輝かせた表情は僕をドキリとさせるほどだった。


 加えて、二人で一緒に神様になろうよ、と伝えても彼女は怒ったりなどしなかったので、非常に安心した。


「そっか。ありがとね。じゃあ、これからは一緒にこの世界の神様をやろう」

「うん!」


 そいうことで、この日を境に僕らは小人の文明の神になった。


 小人たちから承認されたわけでは無かったが、僕らが決めたのだからそれは絶対的な事実だった。


 絶対的にこの文明の神様であった。



 僕らは簡単にルールを決めた。小人を殺してはいけないこと。小人の存在は誰にも知られてはいけないこと。


 新たな発見は二人で必ず共有すること。


 といっても文明は僕の部屋の中にあるのだから、情報をいち早く入手できるのは僕の方で、その発見を真っ先に彼女に伝えるということだ。


 その代わり、彼女の方が社会科や公民の成績が良かったので、政治に関してはこうしたほうがいいなどアドバイスをくれて、それをすぐに実行に移すことができるわけだ。



 しばらくお話をして、今日はこれで解散ということになった。


 カオリさんが帰った後も、家の中はガヤガヤとした喧騒に包まれていた。


 僕はとにかく親からこの光景を隠さなくてはならないと思い、シートをかぶせることにした。


 押入れの中から適当なサイズの布を取り出して、壁に突っ張り棒をたてて、布を垂らした。



 これで小人の存在を隠し通せるか非常に怪しいところではあったが、何もしないよりは遥かにマシだった。


 でも親に見つかるのは時間の問題かもしれない。





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