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第二話 「特撮」

 




 目を覚ました時、朝の七時ごろだったが、女の小人が一人増えていた。


 小さくて見えにくかったが、顔はなかなか美人だった。でも依然として、


「うほ、うほほ」


 と頭の悪そうに声を発している。合計三人。


 こいつらは原始人か。あいにく僕は、今から高校へ行かなくてはならない。


 早めに朝ご飯を食べて、早めに着替えて、そうして僕は高校に向かう。朝食のとき、小人のことを考えていた僕に向かって母親が、



「なにか心配事でもあるの?」


 と聞いてきたが答えなかった。僕にはそういう母親の配慮が煩わしかった。きっと、両親に小人のことを打ち明けたら、たちまち騒ぎになってしまう。だから、しばらく黙っていよう。



 高校に向かう途中の道は、秋の気配があった。


 イチョウ並木からひらひらと黄色い葉が落ちてきて、それに合わせるようにふんわりと金木犀の香りが漂ってくる。



 どこかで花が咲いているのだ。

「やあ、ケンジくん。どうしたんだい? 深刻そうな顔しているじゃないかぁ」


 自転車に乗ってやってきたイツキダが、僕の横を通るとそんなことを言った。


「ちょっとね」

 と、僕は答えた。


「まぁた世界平和について考えているのかい?」

「そうだよ」


「それはイイコトだと思うよぉ」

 イツキダはそう言って、ニヤニヤしながらさあっと僕の前を通り過ぎていった。



「世界平和、かあ」

 僕は空を見上げた。


 僕は小学校の頃から歴史が好きで、とくに人類の文明の発展についてや、宗教や、精神的な活動についてよく調べていた。



 中学三年生の後学期、僕は受験が差し迫っていたのだけれど、そのときハマってしまったのが、世界平和についてだった。



 それで、世界平和について調べるのが面白くなってしまって、勉強がおろそかになってしまって、結果的に偏差値がとっても低い今の高校にしか入れなかった。


 ここでは、みんなの興味があるのはゲームのこととか、漫画のこととか、他人の色恋についてだったので、僕は一人だけ浮いた存在になって、こうして茶化されて、孤独に生きている。



 でも、僕はこの孤独が好きだった。


 周りを観察してみると、優秀な生徒は、生徒会とか委員会とか部活動なんかに打ち込んで、勉強もたくさんやって、あんまり時間がなさそうだったから、可愛そうだなあ、と僕は思っていた。



 対して、僕は掲示係という、居ても居なくてもいいような係にしかなっておらず、勉強も何とか赤点を取らないくらいだったので、時間はたっぷりあった。



 そのたっぷりあった時間を、どうすれば世界平和が実現するかについて考える時間にしていたので、学校での僕のアイデンティティーは世界平和によって確立されているのかもしれない。



 そんなことを考えているうちに、僕は学校へ到着した。


 授業を聞いている間も、小人のことが頭から離れなかった。あの小人は何なのだろうか。


 授業が終わった。英語の授業だったが、ノートはほとんど取れなかった。これは期末テストが心配である。でも、今、僕にとって重要なのは期末テストなんかではなく、小人についてである。



 これは僕だけにとって重要なのではなく、おそらく全人類にとって重要な話題である。大げさではなく、実際に。


 不安がつのる一方だったので、誰かに打ち明けようと思った。


 と、いっても気軽に悩み事を相談できる友達などいなかったので困った。しかもこの悩みはかなり深刻な悩みだった。



 僕の悩みは、そこら辺の気軽な悩みなどではなく、たとえば両親が離婚しそう、とか、おじいちゃんの容態が急変した、とか……そのくらい重く、深刻な悩みだったので、誰かに打ち明けるのにはためらわれた。



 でも話さない訳にはいかなかった。

 だからと言って相談する相手を間違ってはいけない。



 適当な男子に話をすれば、たちまち僕の部屋にマスメディアが集まってしまう。そうなってはマズイのだ。



 考えた結果、僕は隣の席に座っているカオリさんに打ち明けることにした。


 なぜカオリさんかというと、一言でいえば、すごくタイプだったし、話しかけるきっかけには最高かもしれないと考えたからだ。



 それに加えて、彼女はとても静かな人間で、僕と同じようにあまり友達が多い方ではないと見たから、彼女に話しかけたところで、小人の噂が町中に広がるなんていうことはなさそうだからと思ったからである。一石二鳥である。



 休み時間になったところで、僕はカオリさんに話しかけた。

「ねえ、カオリさん、ちょっといいかな」

 と僕は話しかけた。



「ん?」

「昨日、実は面白いものを撮ったんだ」


 僕はスマホを彼女に渡して、例の小人の映像を見せた。カオリさんは黙ってそれをジッと見つめていたが、やがてとても明るい顔になって笑い始めた。



「ハハハ。すごーい。なにこれ、ケンジ君が作ったの?」


「作ったんじゃない! 撮影したんだ」


「だから、全部ひとりで撮影したの?」


 カオリさんは何か勘違いをしているようだった。僕は、現実に現れた小人を撮影したのであって、決して特撮映画の真似事などした訳ではない。



「よく聞いてよ。あのさ、本当なんだ。本当に小人がウチに現れたんだよ!」


 真剣に話す僕の目を彼女はずっと見ていた。そのうち、また彼女は笑い出してしまった。


 笑い方がとても可愛いと思ったが、信じてもらえないのは辛い。


「うちにおいでよ。本物の小人がいるからさ」

 僕は、彼女に言う。

 すると、カオリさんはやや驚いた表情をした。


「えぇ?」


「信じてないでしょう。おいでよ。本当のことだから」


 戸惑いながらも、彼女は承諾してくれた。



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