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黄金の経験値【なろう版】  作者: 原純
第二回公式イベント 1
88/612

第88話 「決戦の前」

2020/4/2

タイトル改訂。





 ウェインは王城という場所に入るなどという経験ができるとは思っていなかった。

 もちろん別のゲームでならそういうこともあったが、このゲームに関して言えば作り込みのレベルが違う。

 外から眺めて迫力ある雄大な城だと感じたままに、内部も荘厳なものだった。


 騎士の後をついて歩いていくが、次第に上へ、奥へと入り込んでいく。廊下は広いが入り組んでおり、もはや一人で帰れと言われても帰れる気が全くしない。イベント期間中ならば、死んで戻った方が早いくらいだ。こんなことなら城下町の宿でいったんログアウトしておくのだった。今死んだらまたルーレットだ。


 途中から、すれ違う人たちの視線が厳しくなっている。おそらく本来であれば、傭兵などが入ってきてよいエリアではないのだろう。

 騎士がなぜここまでウェインを連れてきているのかわからないが、ウェイン程度なら騎士一人でも制圧できると考えているのだろうか。身のこなしを見るかぎり、それは間違ってはいなさそうだが。さすがは王都の騎士だと言える。


「失礼します! 保管庫持ちの方を1名お連れしました!」


 やがて到着した重厚な扉の前で、騎士がノックをし、入室の許可が出たため入っていった。ウェインもそれに続いた。


「失礼しまーす……」


「おお、よくぞいらっしゃった! ローソン、保管庫持ちの方はおひとりだけなのか?」


「は。どうやら昨日から組合にはどなたも顔を出されていないようです」


「ううむ。辺境各地で起きている防衛戦では、普段より多くの保管庫持ちの傭兵が協力してくれていると聞く。そちらの方へまわってくれているのやも知れぬな。何せ今のところは、王都は平和だ」


 応接間らしいデザインの、やわらかそうなソファーを勧められた。ウェインが言われるままにソファーに腰かけると、すかさず紅茶が差し出された。

 こんな城の奥の方に応接間なんて使いづらくて仕方なかろうに、どういう時に使うのだろう。

 紅茶を出してくれた使用人らしい人は、一礼すると部屋を出ていった。


「まずは来ていただいて感謝する。私は陛下よりこのヒルス王国の宰相を仰せつかっておる、ダグラス・オコーネルと申す。よろしくお願いする」


 宰相だと。

 大物である。一介の傭兵が面会していい立場の相手ではない。

 なぜウェイン──いや、プレイヤーを呼んだのだろうか。


「──あ、ええと、ウェインといいます。姓とかはありません。傭兵をしています。よろしくお願いします」


「うむ。ウェイン殿は、なぜ自分がここへ呼ばれたのか不思議に思っておろう」


「……はい」


「実は今、王国各地で魔物による襲撃が起きておる。我が国はその対応に追われ、私も昨日から寝ていない」


 まさかの寝てないアピールだ。ウェインもよくVRリーマンの友人にこれをやるが、ゲーム内世界でもこんな文化があったとは。謎の親近感が芽生える。

 各地の襲撃とはイベントの事で間違いない。ウェインは頷いた。


「だが実のところ、事の起こりは今からおよそ10日前までさかのぼる」


 なんのことだろう。初耳だ。

 イベントが始まったのは昨日からのはずだ。10日前から運営の仕込みがあったということだろうか。

 確かにその頃と言えば、イベントの詳しい内容が発表された頃、あるいはその少し前くらいだ。


「10日前、我が国の国教であるヒルス聖教の総主教聖下が、神託を(たまわ)ったと発表された」


「神託……ですか」


「左様。神託とは、総主教聖下や主教座下が、神より賜る不思議な御言葉で、世界全体の趨勢(すうせい)にかかわるような内容であることが多い」


 世界全体。システムメッセージのようなものということだろうか。ウェインには何も覚えがないため、もしかしたらイベントの告知をNPC用に行うための仕掛けなのかもしれない。


「それによれば、新たな「人類の敵」が誕生したとのことであった」


 人類の敵。


 ウェインはピンと来なかったため、宰相が説明をしてくれた。


 それによれば、人類の敵とは世界の色々なところに全部で6体いる特殊な魔物のことで、その存在1体でたやすく大陸を滅ぼすほどの力を持っているらしい。人の力では抗うことさえ不可能なため、「災厄」と呼ばれている。

 災厄には大悪魔や真祖吸血鬼などがいるらしいが、これまでこの国が戦ったことがあるのはそのうちの大天使のみだ。

 と言っても大天使自体は表に出てくることはなく、配下の天使をけしかけて気まぐれに王都や大きな街を襲うくらいらしいが。


 そんな災厄の、七番目が誕生した。


「おそらくそれが、魔物どものこの大侵攻の引き金であろう」


 なるほど、と思った。やはりイベントの仕込みだ。

 その七番目の災厄とやらがこのイベントの黒幕で、神託とかいうのはイベントフラグの発生アナウンスだ。


「本格的な侵攻が始まったのは昨日からだ。保管庫持ちの方々が昨日から見られないのは、おそらく各都市に救援にかけつけてくれているのではないかと」


 ウェインはうなずいた。だいたい合っている。

 ウェインだけが王都にいるのは、偶然の結果だ。帰るべき宿が破壊されたため、各地をさまよって、王都にたどり着いた。


「そうであったか。ウェイン殿はあのエアファーレンに……。そうか」


 この口ぶりでは、宰相はすでにエアファーレンの街が壊滅したことを知っているのだろう。あれからおおよそ1日が経過している。エアファーレンからこの王都までがどういう位置関係になっているのかさっぱりわからないが、たとえば伝書鳩などを使っているなら遠くにあったとしても情報が届いていてもおかしくはない。


 しかしウェインがここへ呼ばれた話とは繋がらない。攻撃を受けているのはあくまで辺境であり、ここ王都が魔物の襲撃を受けるなど考えられない。火急というからには王都の安全に関係する内容だと思ったのだが、なぜ今なのだろう。


「であれば話は早い。実はその7番目の災厄が生まれたのは、エアファーレンのそば、リーベ大森林なのだ」


 衝撃をうけた。しかし同時に納得もできるような気がする。

 リーベ大森林から溢れ出し、街へ押し寄せてきたアリの衝撃力はとんでもなかった。

 初心者の多い、SNSなどでは大森林先生などと呼ばれるようなフィールド型ダンジョンから現われていい魔物では無かった。

 あの森には普段は弱いアリやゴブリンなどしか現れず、それも一定以上殺すと強制的に死に戻りするというよくわからない仕様のダンジョンだ。ゆえに最近では、引き際を見極める目を養うと同時に、戦闘の基礎を学べるチュートリアルダンジョンとして初心者プレイヤーに人気のある場所だった。


 それもあって、エアファーレンの街には初心者プレイヤーが多い。

 ただ前回イベント優勝者のレアもあの森で稼いでいるという、ウェインが流した噂もあるため、ときおりトップ層のプレイヤーが現れたり、ウェインのようなストーカーじみた追っかけもいたりはするのだが。いやウェインは断じてストーカーなどではないが。


 そんなまったり傾向の辺境に突然現れた殺意の塊のようなアリの大軍だ。

 瞬く間に街は破壊され、おそらくすべてのプレイヤーとNPCは殺された。プレイヤーたちは王国各地にリスポーンしたはずだ。


「言うまでもないだろうが、エアファーレンの街はわずかな間に滅んだ。そして時を同じくして、少し離れた場所にあるルルドの街というところも、植物型の魔物に街ごと飲み込まれ、消え去ったのだ。ほとんど同時に壊滅したこと、襲った魔物の種類が全く違うことから、直接の関係はないと思われるが、影響がなかったとは限らない」


 宰相の言うことはもっともだ。イベントなのであらゆる辺境からモンスターが出てきたのだろうが、影響というか、キーとなっているのはボスであるその災厄だろう。


「そしてそのおよそ1日後、つまり今日だな。ラコリーヌの街という、辺境からはかなり離れた場所にある、我が国の交通の要所が、巨大なハチの大軍に襲われた。ハチは各々がアリを抱えていたらしく、そのアリの放った、上空からの謎の攻撃によって、ラコリーヌの街は滅び去った」


 あのアリだ。

 あの砲弾を放つアリを、ハチが抱えて強襲したのだ。

 人が空を飛ぶことなど考えもしないこの世界で、航空爆撃など、全く想像の埒外に違いない。その街がどれほど大きな街だったのかはわからないが、街の規模に関わらず、おそらく滅びる運命だったのだ。


「……エアファーレンに現れたアリと同種だと思います」


「やはりそうか……。エアファーレンを襲ったアリ型の魔物が災厄の手の者だとすれば、その手はラコリーヌまですでに伸びているという証明になるな……」


「その、ラコリーヌという街は、ここから近いんですか? 今日陥落したということは、まだそれほど経っていませんよね?」


 仮にそうだとすれば、鳩による知らせだとしても、ハチが鳩よりよほど遅いのでなければ、知らせが来る頃にはこの王都が襲われていてもおかしくはない。

 しかし街道から見える範囲ではそんな様子はなかった。災厄の配下は王都とは違う場所に向かったのだろうか。


「いや、徒歩で8日ほど、行軍ならば9日ほどかかる場所だ。早馬でも2日はかかるだろう」


「では伝書鳩などでその情報を……?」


「いや。鳩は送ったが、送ったその時点では壊滅の事実は知らなんだし、返事も帰ってきていない。かの街の状況を知ったのは別のルートだ。

 ……実は、9日ほど前に災厄討伐軍を編成し、リーベ大森林へ向け出撃させたのだが」


 9日前というと、総主教たちが神託を聞いた翌日くらいの計算になる。

 つまり神託を聞いてすぐに軍隊を編成したということだ。よほど思い切りがいいか、よほど追い詰められていなければ一国の首脳部がそんな決断はできないだろう。

 この世界のNPCにとって、災厄とはそれほど恐ろしいものなのか。


「その討伐軍が、つい先程全滅した。ラコリーヌでな」


「なっ──」


「討伐軍司令からの最後の連絡が、今朝がた届いた伝書鳩だ。内容は、ハチの大軍がラコリーヌの街に展開しているため、災厄討伐を優先するか、ラコリーヌの援護をするか、どうするかというものだ」


 それで知ったという事だろうか。しかしそれでは、朝にラコリーヌの街がハチに襲われたかもしれないということしかわからない。ラコリーヌの街が壊滅したという確証は得られない。


「私は悩んだが、ラコリーヌの街は見捨ててでも、災厄討伐を優先してリーベ大森林に急げ、と文を返した。この時点では、攻めて来ておるのはハチだけで、肝心の災厄は巣である大森林から出ておらぬだろうと考えておった」


「それは……なぜでしょうか。配下を率いて攻めてきたという可能性もあったのでは……」


「無論そうだ。しかしこれは経験則というか、先に他の災厄について話しただろう? その中の天使どもとだけ我々は戦ったことがある。

 天使どもを支配しておるのは大天使という災厄なのだが、この大天使は通常、居城である天空城から一切外には出て来ぬ。出会ったものが全て死んだため、見たことがないだけだという噂もあるが、少なくとも我々や他国の持っている文献には大天使が天空城から出た記録すらないのだ。

 此度の第七災厄はまだ生まれたばかり。であれば、余計に自分の城から出ては行かないのではないかと判断したのだ」


 一理ある、だろう。しかしイベント的にそれはどうなのだろう。大陸中に散っているプレイヤーの討伐目標が、いち地方の片田舎の森から出てこないなど、イベントとして成立するのだろうか。


「わかりました……。しかしそれでも、ラコリーヌの街を討伐軍がその、見捨てたという事にしかなりませんよね? 壊滅したかどうかとは、少し違うのでは?」


「うむ……。保管庫持ちの方ならば、知っておるやもしれぬが、我らのような貴族階級は、眷属というものを持つことが出来る」


「はい、存じてます」


「では詳しい説明は省こう。眷属は死しても、1時間後に最後に眠りから覚めた場所に蘇生することができる。これはよいかな」


「はい」


 たしか、公式のFAQで見た事がある。

 しかしまた話が飛んだ。それがどうかしたのか。ラコリーヌ壊滅と何の関係があるのだろう。


「私は討伐軍に、自分の眷属の騎士を3名同行させておいた。3名がお互いを常に監視するよう特殊な訓練を課し、それを修了したものだけを選んだ。3名の騎士には特殊なポーションをひと月分持たせておる」


 話が見えてこない。


「そのポーションは、眠りを妨げる強力な効果のあるものだ。私が送り込んだ3名の騎士は、たとえ行軍が何日に及ぼうとも、決して眠ることはない。そして行軍中に死したときには、最後に目を覚ましたこの王都で復活するのだ」


 ウェインは絶句した。

 そこまでするというのか。

 いやするのだろう。ここは彼らの世界だ。彼らの生きる国なのだ。


「その我が騎士が先程蘇生し、報告してくれた。ラコリーヌ壊滅の報、そして災厄襲来の可能性ありとな」


 これ以上ないほど確実な情報だ。これがプレイヤーであればフレンドチャットやSNSなどで情報の共有を行なうのだろうが、それが出来ないNPCが、まさかこのような手段でもって間接的に長距離通信を行なうとは。


 だが、すでに騎士の死に戻りによって情報を得ているのなら、何のためにプレイヤーを探していたのだろうか。ウェインが今からすべきことはなんなのか。


「ウェイン殿にお願いしたのは、だ。なるべく多くのお仲間に、この王都に集まってもらえるよう呼びかけていただく事だ。おそらく高確率で、次はこの王都に災厄が襲来する。それも、災厄本体が」


「なっ! なぜ……! その根拠はなんなのですか!」


「うむ……」


 宰相が目配せをすると、先程のローソンという騎士が大きな地図を持ってくる。羊皮紙かなにかで出来ているらしいそれをローテーブルに広げ、宰相がその一点を指差した。


「ここ。ここがリーベ大森林だ。そしてここがエアファーレンの街」


 地図など見るのは初めてだが、こんなふうになっていたのか。言われてみればよく分かる。確かにこれはあの街だ。もっとも、もうあの街は無いため、この立派な地図も描き変える必要があるだろう。


「そしてここがラコリーヌの街になる。エアファーレンとラコリーヌに現れた魔物が同種のものである以上、同じ勢力、つまり災厄による襲撃であることは間違いないだろう。

 これを見ると、エアファーレンの街はリーベ大森林の西側に位置している。

 そしてその更に西にラコリーヌがある。つまり奴は、ほとんど一直線に西に向かって進軍しているということだ」


 確かにそのようだ。さらに言えば、その先には王都がある。宰相の言いたいのはそういうことだろう。


「そして次に、災厄本体が進軍に同道している可能性についてだが。

 我が騎士が死亡したのは正確にはラコリーヌ壊滅時ではない。その後だ。

 ラコリーヌ壊滅はたしかにハチとアリの魔物による攻撃によって行われたのだが、その攻撃で滅ぼされたのはあくまで街並みと、痛ましいことだが主に街の住民と錬度の低い兵たちだ。討伐軍の上位の兵士や騎士たちはその攻撃では死ぬことはなかった。

 生き残った兵士や騎士たちを倒すにはハチどもでは力不足とみてか、その後ハチどもの軍は急に姿を消したのだ。これがどこに消えたかはわからないという事だが、ともかく、居なくなったことは確かだ」


 ウェインは頷く。宰相は話を続けた。


「問題はその後だ。騎士たちの上空に突如、アンデッドの群れが現れ、地上に落下してきた。落下してきたアンデッドどもは異常な強さで、街を壊滅させる攻撃すら耐え抜いた騎士たちでも太刀打ちできなかったそうだ。傷一つつけることが出来なかったと聞いている」


 ウェインも噂だけなら聞いたことがある。リーベ大森林に異常に強いアンデッド騎士が現れたことがあると。

 アリが、災厄がリーベ大森林から生まれたのなら、そのアンデッドも間違いなく同じ勢力だ。


 ウェインがそう伝えると、宰相も頷いた。


「なるほど。やはり災厄の配下で間違いなさそうだな」


「しかしそれだけでは災厄本体がそこにいたということにはならないのでは?」


「うむ。だが考えてもみてくれ。突如上空にアンデッドが現れるなど、普通に考えて有り得ぬ事態だ。現れたのが地上であれば、まだわからぬでもないが、上空だぞ。いったいどういう理由があればそんな現象が起こるというのだ」


 宰相の言うことはもっともだ。不自然極まりない。


「それを素直に受け取るくらいなら、何らかの手段で不可視となった何者かが、何らかの手段で空中に浮かび、そこで魔物を喚び出したと考えるほうが遥かに納得できる。

 事実、自らの姿を見えぬようにする魔物は存在する。大量のアンデッドを喚び出す魔物も確認されている。

 そしてエアファーレンから1日足らずでラコリーヌに到着したハチの大群、それに同行していたならば、当然災厄も空を飛ぶ手段を備えているということだ。

 災厄であれば、単体でそれら全ての能力を行使できるとしても不思議はない」


 宰相の話も十分荒唐無稽に聞こえるが、ひとつひとつ分解してみれば確かにその方が有り得そうに聞こえる。そして災厄がその全てを行える可能性があるというのも納得できる理屈だ。


「ハチどもを下がらせたことから、この王都もハチに攻撃させるつもりがあるのかどうかはわからない。その気になれば、我が騎士たちでも勝てぬアンデッドを召喚することも可能だからだ。

 だが少なくとも、現時点で災厄本体がリーベ大森林を出て一直線に西に向かって来ている可能性は非常に高いと言えるだろう」


 そこで宰相は紅茶を飲んだ。

 ウェインも初めて、自分の喉が非常に乾いているのを自覚し、宰相に倣った。

 紅茶はすっかり冷めてしまっている。


「……それで、プレ、保管庫持ちの情報網を利用して、王都に防衛戦力を集めて欲しいということなのですね」


「そのとおりだ」


 ウェインは考えた。どうやったら多くの、それも実力のあるプレイヤーをこの王都に集めることが出来るかを。

 断ることは考えていない。昨夜壊滅してしまった、名も知らぬ街のことを思う。ウェインにもっと力があれば、あの街は滅びずに済んだかもしれなかった。

 力がないのは今も同じだが、力を集めることは出来るかもしれない。


「わかりました。どれだけ出来るかわかりませんが、やってみましょう」





***





【イベントボス】ヒルス王国王都集合!【確定】





1:ウェイン

ヒルス王国の王都にイベントボスが襲来する可能性が高い。

ソースはNPCの王国宰相

来られる人は出来るだけヒルスの王都に集まってくれ。


2:モンキー・ダイヴ・サスケ

馬鹿か。まだ二日目だぞ。


3:丈夫ではがれにくい

複数回現れるなら、二日目に来てもおかしくないっちゃおかしくないが……


4:アマテイン

>>1はどうやって王国宰相なんて大物とコネクション作ったんだ?


5:ウェイン

>>4

今王都にプレイヤーがほとんどいない。傭兵組合に行ったら騎士がプレイヤー探してて、たまたま俺だけがいたから城につれてかれた。

そこで詳細聞いて、多分かなり高確率で「災厄」とかいうボスモンスターが王都に来る


6:モンキー・ダイヴ・サスケ

設定がガバガバすぎる

解散。


7:名無しのエルフさん

>>5

「災厄」ってその宰相閣下から聞いたの?


8:ウェイン

>>7

そう

なんか六大災厄とかいうのが世界中にいるらしくて、今回のイベントボスが7番目の災厄らしい

それが王国の東のリーベ大森林ってダンジョンに生まれたのが10日前

でイベント開始の昨日から進撃始めて、まっすぐ西に向かってる

初日はエアファーレン、今朝はラコリーヌで、次は王都

多分今日


9:明太リスト

>>8

別のスレッドで立ってるな

エアファーレンて街が速攻陥落したのは事実

ラコリーヌって街が一瞬で消え去ったのも事実

その先が王都なのかは地図が公開されてないからわからないけど、まぁ説得力はある


10:名無しのエルフさん

補足しとくと、その「災厄」の話もマジよ

ウチがいるのポートリーって国なんだけど、そこの教会の偉いおっさんがポートリー王都で演説してた

たしかどっかにスレ立ってなかったかな

わりと色んな国でその話出てたと思うけど

確かそれが10日前だね

ヒルス王国東端部って言ってたから、場所も合ってる


11:丈夫ではがれにくい

マジなのか、それともSNS巡回しまくってる暇人のフカシなのか


12:ウェイン

フカシじゃない

マジで時間がない

頼む誰か来てくれ


13:おりんきー

>>9

そのスレ見てたけど、エアファーレンの街相当ひどい状況みたい

エアファーレンの街って、ヒルスにいるビギナーの間で話題の初心者ダンジョンあるんだけど、そこからいきなりアリが湧き出してきて、数時間ともたずに壊滅したって

最初は「はじまるぞー」みたいな書き込みばっかりだったのに、すぐに「やばい」とかばっかりになって、しばらく誰も書き込まなくなって、数時間ぶりの書き込みが「どこここ」だった

宿屋破壊されてランダムリスポーンになったみたい

城壁から街並みから全部瓦礫に変わったって


14:モンキー・ダイヴ・サスケ

>>13

おい待て

何だダンジョンって

このゲームそんなシステムあったか?


15:明太リスト

初心者ダンジョンってリーベ大森林のこと?

運営から明確にアナウンスはされてないけど

検証班の間じゃ、どれだけモンスター倒してもそのうち復活するし、どれだけアイテム拾っても無くなったりしないし、やり過ぎると強制死に戻りで追い出されるしで、サイレント実装された初心者救済コンテンツなんじゃないかって結論になってる

死に戻りって言っても入る前より経験値が減ることはまずないし良心的

そのへんの調整も神がかり的なバランスだし、専用のAIがいくつも用意してあるんじゃないかな

ルートもパッと見だとわかんないくらい微妙にだけど、歩きやすく整備されてるしね


16:アマテイン

雑談はよそでやってやれ

>>12

マジだったらやばいのはわかるんだが、現実問題他国の王都とか今から行くの無理じゃないか?


17:カントリーポップ

>>1がマジだったとしても、あくまで可能性の話でそ?

なんとか行けたとしても、辺境から遠い王都でその後どうしろと


18:ウェイン

たのむ

マジで頼む

災厄なんて来たらヒルスが無くなる


19:ウェイン

だれか


20:ギノレガメッシュ

おィー?

なんで!俺に!声かけねえんだ!

みずくせえええええええええええ!


21:アマテイン

>>20

ギノレガメッシュじゃないか

なんでこんなとこいるんだ


22:おりんきー

>>21

誰?


23:明太リスト

>>22

現行の最硬タンクの人

一日目にして防衛成功したとか言ってなかった? 別スレで


24:ギノレガメッシュ

>>21

ウェインは俺のフレンドだから

>>23

言ってたぞ

防衛隊が凌いでる間に、攻撃隊が敵の本隊叩いて終わらせた


25:カントリーポップ

まじかよあと一週間あるけど何するの?w


26:ギノレガメッシュ

>>25

だからこれから王国を救いに行くんだろ?


27:丈夫ではがれにくい

やだなにこの人かっこいい


28:ウェイン

ギル、ごめん忘れてた

助けてくれるのか


29:ギノレガメッシュ

>>28

フレンドだろ?

水くせえなまかせろや


30:ヨーイチ

面白そうだな

俺も一枚噛ませてもらおうか


31:アマテイン

ナースのヨーイチか


32:丈夫ではがれにくい

セリフだけはいつもかっこいいw


33:名無しのエルフさん

でも格好はキモいw


34:明太リスト

でも実力はキモい(褒め言葉


35:カントリーポップ

てかなにげに、このスレトップ層ばっかじゃない?

みんな決勝出てたよね

>>1は聞いたことない名前だけど


36:ウェイン

俺は大したことないプレイヤーなんだ

初日に防衛失敗して宿屋もなくなってランダムリスポーンして、その先でも街が滅んでランダムリスポーンして、最後に王都に辿り着いたらプレイヤーが俺以外居なかったんだ

ひとりじゃなにもできない

みんな助けてくれ


37:丈夫ではがれにくい

初日に滅んだとこなんてあんのか

と思ったらさっき出てた街か?

初日に2つも滅んだ街あるのも驚きだけど、その両方にいてランダムリスポーン食らうってのも驚きだよ

>>1あんたどんだけ運ないんだよ


38:ギノレガメッシュ

助けるのは決まってるんだが、実際どうやってヒルスの王都まで行ったもんか

俺はまだ今日の分の転移サービス使ってないが、そもそも国外だしな

一回じゃ王都まで届かねえ


39:ギノレガメッシュ

嘘、行けるわ王都

今見たら隣接街リストん中にヒルス王都が入ってた

昨日まで無かったんだけどなんでだ?


40:丈夫ではがれにくい

バグ?


41:明太リスト

このゲームでバグはないと思う


42:名無しのエルフさん

まって

昨日までリストになくて、今日はあるってことは、逆に昨日まではリストにあったけど今日はないって街もあるんじゃないの?

その街が滅んだから隣の街がなくなって、王都が繰り上がりでリストに出たってことじゃない?


43:ギノレガメッシュ

じゃあ俺のいる国からヒルス王国までは、もう王都しかねえってことになるけど


44:ウェイン

宰相から聞いた

ヒルスは現時点で少なくとも5つの街が滅んでる


45:モンキー・ダイヴ・サスケ

世紀末かよ


46:ヨーイチ

ギノレガメッシュはそれでよいとして、他のメンバーはどうする?


47:モンキー・ダイヴ・サスケ

なんで他の奴まで行く前提なんだよ

いいけどよ


48:明太リスト

>>46

昨日検証スレで見たんだけど、転移サービスのときプレイヤーが持ってるものはなんであれ、プレイヤーの一部として扱われるみたいなんだ

おんぶしたまま転移して、今度は逆におんぶして帰ってこれたって報告あった

だからSTRとかVIT高い人が何人も担いで移動して、次の街で別の人に入れ替えて……って繰り返してけば何人かはヒルスまでたどり着けるんじゃないかな


49:丈夫ではがれにくい

それ何人必要になるんだよ

あとそれだと最終的に王都に着いたときタンク何人残ってんだよ


50:ギノレガメッシュ

>>49

俺がいるだろ


51:カントリーポップ

あんたほんとイケメンだなw


52:名無しのエルフさん

いろんなスレで人集めてくる


53:明太リスト

気づいてないひといるかもしれないから言っとくと

これ最終的に自分がどこまで移動したとしても、死ねば元いた街に戻れるよ

今はデスペナルティ無いしね

だから仮にイベントボスが現れなかったとしても、無駄になるのは今日の分の転移サービスだけ

これ付け加えれば協力してくれる人も増えるんじゃない?


54:名無しのエルフさん

>>53

気づいてなかったw

ありがと


55:モンキー・ダイヴ・サスケ

誘導先はこのスレでいいな?


56:ウェイン

みんなありがとう

ほんとありがとう


57:アマテイン

礼ならまず君のフレンドに言うんだな

彼の登場で空気が変わった





***





「……なんとか、人を集められそうです」


 宰相の応接間のソファーを借りてSNSに書き込みをしていたウェインは、使用人に頼んで隣の執務室から宰相を呼んでもらった。


「おお、ありがたい……。それで、どのくらいの方が来られそうなのかな」


「ええと……20、いや30人くらいは来れそう、です。みんな、俺の何倍も強い人たちです」


「なんと……」


 宰相はそう言うと黙り込み、眉間に皺を寄せた。


「……申し訳ないが、少し、ここで待っていてくれぬか」


「え、はい。それは、かまいませんが……。あの、王都に到着したプレ、知人たちはどうしましょう」


「む、そうだな。ローソン、お前が対応しておいてくれ。お集まりいただいた方々には……申し訳ないが内庭にお通ししてそこでお待ちいただこう。

 ウェイン殿、申し訳ないが、やはり内庭のほうに移動していただけないか。ローソンに案内させよう。私も陛下にお話したらすぐに向かう」





 再びあの複雑な回廊を突破し、内庭という場所へ案内される。

 まだ短い時間しか経っていないが、それでも初めて城に足を踏み入れた時よりは多少は心も落ち着いている。

 先を歩く騎士、ローソンに雑談がてら話しかけることさえ可能だ。

 沈黙に耐えられないとも言うが。


「ええと、ローソンさん? 宰相……閣下は、陛下に何のお話をしに行ったんでしょう」


 ローソンはふと立ち止まり、前を向いたまま答えた。


「ウェイン殿が……ご自分の出来うる限りのことをされていると目の当たりにして、宰相閣下も感じ入ることがあったのだろう。本来王国には何の義理もないあなた方が全力を尽くしてくれると言っているのに、我々が何もせぬわけにはいかない。おそらくそういうことではないか」


「そうでしたか……。ありがとうございます」


 ローソンは明らかに何か知っている様子であった。

 しかし話せないこともあるのだろう。話せない中で、精一杯ウェインにわかってもらおうとしているのはその口ぶりから感じられた。


 それからしばらく無言で歩き、内庭に出た。


「ウェイン殿のお知り合いは、いつごろ来られるのだろうか。それとどこを目指して来られるのだろう」


「ええと、一人はもう街に入ってます。ほかのメンバーもぼちぼち集まってくると思います。とりあえず、王城前に来るように連絡しておきましょうか?」


「そうだな。そうしてくれると助かる。では済まないがウェイン殿はここで待っていてくれ。私が王城前で待機して、こちらに誘導するようにしよう」


 応接間からここまでの道のりはまったく覚えていないし、ここからどうやったら外へ出られるのかもわからない。

 言われずとも、ここに置いて行かれたら待っているしかない。


「わかりました。よろしくお願いします」


 SNSの先ほどのスレッドに集合場所の追記をし、ギルにフレンドチャットを飛ばす。


〈──王城前に来てくれってさ。豪華な鎧の、ローソンって騎士が迎えに行くから〉


〈王城前だな、わかった〉


〈……ギル、その、ありがとう〉


〈やめろって。ボスに勝ってからにしようぜ〉


〈……ああ、そうだな〉


 しばらく待っていれば、ほどなくギルも来るだろう。





「マジで王城内入れるんだな……。すまん正直半信半疑だったわ」


「今からでもこれ拡散したら人増えるんじゃない?」


「でもタイムリミットっていうか、襲来が具体的にいつごろになるかわかんねえからな。今から向かったとしても、間に合うか微妙じゃないか?」


「一応そのことだけは警告するとして、言うだけ言っておこう」


 アマテイン、おりんきー、カントリーポップ、丈夫ではがれにくい……。

 ウェインでも知っているトップクラスのプレイヤーたちだ。本当に来てくれるとは。

 スレッドにはいなかったが、有名プレイヤーである「その手が(あった)か」もいる。

 彼女は数少ないヒーラーの1人で、回復魔法系スキルの発見者だ。

 そのあとにも続々とプレイヤーたちが入城してくる。もう、30人は超えただろうか。


「みなさん、ありがとうございます……」


「さすがに国が一つなくなるとかマジだったら洒落にならんからな。これで釣りだったら許さんところだが、とりあえず嘘じゃないみたいだな」


 全身黒タイツのニンジャだ。彼も決勝で見た顔だ。


「俺は最初から信用している。ギノレガメッシュのフレンドだという話だし」


 そこへナース服の紳士が現れた。ナースのヨーイチだ。


 彼は今、この黒タイツのプレイヤー、モンキー・ダイヴ・サスケと2人で行動しているらしい。

 決勝でともに同じ相手に敗れたことで、何か通じるところがあったようだ。


「それよりも、ウェインと言えばどこかで聞いた名だと思ったが、確か前回優勝者のレア氏がリーベ大森林にいるという話を流したのが君だったな」


「そうだ、レア氏とは連絡はとれないのか? ここに彼女がいれば勝率は上がると思うんだが」


 ヨーイチとアマテインの言葉に、ウェインは目を伏せた。


「レアは……わからない。フレンドというわけじゃないんだ。彼女はPKで……。たぶん、ソロでやってると思う」


 そもそもウェインに近づいてきたのも、ウェインをPKするためだ。そんな情けないことはとても言えないが。


「そうか……。そういうことなら仕方ないな」


「おお、これほど集まっていただけるとは……。ウェイン殿には感謝の言葉もない」


 そこへオコーネル宰相が現れた。その後ろからは、騎士たちがなにやら大きな物を数人がかりで運んで持ってきている。布をかぶっているため何なのかは不明だが、丸いシルエットのものだ。

 見た目から言えば数人がかりでもとても運べそうにないものだが、意外と軽いのだろうか。いや、どちらかといえば騎士たちのSTRが高い為だと考える方が自然だ。ウェインより強いであろう騎士たちだ。軽いものなら1人でも、バランスを考えても2人で十分だろう。


「これはすでにウェイン殿に語ったことなのだが……」


 宰相は内庭のプレイヤー全てに、先程ウェインが聞いた話を語った。

 

「なるほど、確かに、そういうことなら、王都に現れる可能性は高そうですね」


 話を聞いたアマテインがプレイヤーを代表してかそう答えた。


「うむ。そこで、だが……」


 宰相が目配せをすると、騎士の一人が運んできた物の布を取り去った。

 その正体は虹色に輝く、しかしどこか不気味に見える、水晶でできた巨大な卵のようなものだった。


「我が国の騎士でもない、いわば善意で協力してくださる皆さんが力を尽くしてくれている。このような状況で、我々はただ座して待つなどということは、国として有り得ぬ。無論、王都に残っている騎士や兵士は皆さんと協力して事に当たるのだが、それとは別にだ。こちらも最大限の力を振り絞るべきだろう」


 宰相は水晶の卵に近づいて、表面に触れながら続ける。


「これは秘遺物(アーティファクト)と呼ばれる、古代の秘宝だ。我が国の国宝の一つでもある。これの使用の許可を陛下より(たまわ)ってきた」


「国宝……!」


「アーティファクトだって!?」


「新カテゴリのアイテムだ」


「それは……よろしいのですか」


 アマテインが尋ねると、宰相はプレイヤーたちを見ながらゆっくりと頷く。

 そしておもむろに秘遺物についての説明を始めた。


「この秘遺物は、指定した対象範囲にいる、全ての者に弱体化の呪いをかける効果がある。あらかじめ登録した、10名までの人物を除いてな。

 効果時間は、発動させてから1時間だ。

 弱体化には段階があり、発動してしばらくは、弱い効果しかない。しかし効果範囲に相手を留め続けておれば、その弱体化の割合は徐々に大きくなってゆく。

 それだけではない。弱体化の効果の発動中にこの水晶が破壊された場合、残りの効果時間に関わらずその瞬間から10秒だけ、効果が残る。

 しかも、その時点で残っていたはずの効果時間に応じて、その弱体化効果が強まるのだ。もちろん時間が残っていればいるほど強力な呪いとなる。この呪いは無差別で、あらかじめ登録してあったとしても効果を受ける。

 この時、最大で全ての能力が5割カットされる。これは生命力も例外ではない。ゆえに、ダメージを受けている状態でこの呪いを受ければ、その瞬間に死ぬことすらあるのだ」


 破格に強力なアイテムだ。国宝というだけのことはある。

 つまりどんなボスであろうと、10秒限定で全能力値を半減させられるということだ。

 イベント限定アイテムなのだろうか。

 だが、こんなものをもっているなら、なぜ討伐軍に持たせなかったのか。

 これがあれば、ラコリーヌは壊滅を免れたかもしれない。


「……なぜ、これを今? これがあれば、討伐軍が壊滅することもなかったのでは……」


「うむ。この秘遺物には条件があってな。特定の場所でなくば、起動させる事ができぬのだ。そしてその場所のうちのひとつが、この王都になる」


「そうなのですか……。しかし、国宝なのですよね? 破壊してしまっても……」 


 いかに国の危機とはいえ、国宝を破壊するというのはやりすぎに思える。

 ウェインたちが敗北すれば国家存亡の危機のため、そういう意味でならわからなくもないが。


「ウェイン殿、よいのだ。この秘遺物はどのみち、ひとたび発動させれば輝きを失い、二度と使うことは出来ぬ」


「本当にいいのですか? その、先程のお話ですと、不定期に天使とかも攻めてくるんですよね? 天使の親玉がもし現れたときのために取っておいたほうが……」


「……実はな。この秘遺物は、天使どもには効果が薄いのだ」


「どういうことです?」


「魔法などに、属性同士の相性があるのは存じておられるな? あれに似ておる。

 この秘遺物は、その名を「精霊王の心臓」といい、伝承ではかつてこの地を治めていたとされる精霊王が、その死の間際にこの地に住まう者のために遺されたものだとされておる。

 そして天使どもの属性は精霊王と近しい勢力に属するものでな、精霊王のお力が通じにくいのだ」


「そうなんですか……」


「先ほどの起動可能な場所の話に戻るが、その場所はこの大陸に6箇所あり、それぞれがこの大陸を治める国の首都の場所になっておるのだ。これはそれぞれの国の王家が精霊王の後継たる資格を備えているという何よりの証ともなっておる。

 我が国には我が国に伝わる秘遺物に関する情報しかないが、おそらく各国にも同様のものがあるのだろう」


 もしそうなら、いかに災厄などが攻めてきたとしても、各国の王都だけは特別なイベントアイテムが用意されているということだろう。

 流石に国を滅ぼすなどの、大きな情勢の変化はしにくいように調整してあるという事なのだろうか。

 このアイテムが事実上持ち出し不可なのも、NPCが勝手にどこかへ出かけていってレイドボスなどをプレイヤーより先に倒したりしてしまわないようにというバランス調整なのかもしれない。


「じゃあ、今回の、えと、災厄はアンデッドだから効きそうだってこと? 少なくとも天使ではないだろうし」


「その通り。精霊王のお力がもっとも強く影響を及ぼすのは、精霊王と対を成す存在だと言われておる。その存在が何であるのかは不明だが、少なくとも魔や闇などといった勢力に属する存在であるのは確かだ。今回の災厄がウェイン殿の言われるようにアンデッドと関係が深いのならば、これ以上にふさわしい使い時はあるまい」


「宰相閣下のお考え、わかりました。アーティファクト、使わせていただきます」


 アマテインが頭を下げ、他のプレイヤーたちもそれに倣う。


「うむ。よろしく頼む」


「それじゃあウェインさん。作戦を練ろう」


「えっ」


 急に名前を呼ばれたウェインは、一斉に自分に向けられた視線に戸惑う。

 おそらくここにいるプレイヤーの中で、ウェインがもっとも弱い。

 そんな自分がなぜ。


「おいおい、俺たちを集めたのはウェインだぜ? 俺たちはあくまでウェインの手伝いをするために来たんだ。しっかりしてくれよ」


「ああ、ギノレガメッシュの言うとおりだ。この人数を集めたのは君だ。だからこのレイドパーティのリーダーは君だ」


「でも、それはギルがいてくれたからで……」


「そうかもしれない。だがギノレガメッシュが集めたわけじゃない」


 なんて奴らだ。これがトップ層のプレイヤーたち。

 ウェインの言葉を信じてこんなところまで来てくれた者たちなのだ。

 それだけではない。ここに来るまでに、途中の街に置き去りにせざるを得なかったタンク系のプレイヤーも居たはずだ。その彼らは本当に何の利益もないにも関わらず協力してくれたのだ。


 ならば、弱いだのなんだのは言っていられない。それほど自信があるわけでもないが、作戦を練るのだ。いや、自分になら出来るはずだ。なにせ自分は、あのレアを推理によって追い詰めた事があるのだ。ここで退いてしまっては、あの時一瞬でも自分を認めてくれたレアにも顔向けできない。いや別にレアについてどうこうという感情は無いが。


 そう覚悟を決めたウェインは、プレイヤーを見渡し、頷いた。


「わかった。作戦を立てよう」





「まずは現状、わかっている事をまとめよう。

 敵はこのイベントのボスと思われる「災厄」と言われる強大な魔物で、リーベ大森林で発生した。

 奴はアリとハチを操りエアファーレンの街を壊滅させ、その後まっすぐ西に向かい同じくアリとハチを使いラコリーヌの街も壊滅させた。そして強力なアンデッドを空中で喚び出し、騎士たちを殺害した。ここまではいいな」


「ああ。続けてくれ」


「この時点ではっきりしている災厄の能力は次のとおりだ。

 まずアリとハチ、アンデッドを操ること。

 空が飛べるということ。

 姿を消すことが出来るということ。

 西に向かっている──つまり、現れるなら東からだということ」


「そうだな。すでになんか厳しい内容の項目があるが……」


「それからこいつは不確定の情報になるが、ラコリーヌの街ではハチとアリを一旦下げたという報告がある。この時点でアリとハチがどこにも見当たらなかったと言っているから、もしかしたら王都へは連れてこないかもしれない」


「希望的観測ってやつだな……」


「確かにそうだが、問題はそこじゃない。それ以上にこの事実が示しているのは、災厄がもし単騎で姿を消して王都に向かっている場合、まず発見すること自体が不可能だってことだ」


「あ……」


「ひとつ、いいだろうかウェイン氏」


「どうぞ、ヨーイチさん」


「さん付けは要らない。俺は『真眼』というスキルを持っている。このスキルは、発動させると周囲の生物……まあアンデッドやゴーレムなども含むが、とにかく周囲の者のLPを可視化して感じ取る事ができる。具体的な数字などがわかるものではないが、ぼんやりと光と色で教えてくれる。光の強さは残りのLPの割合を、色は最大値の大きさを大まかに示している」


「ちなみに、そのスキルなら俺も持ってるぜ」


「なるほど……。じゃあまず、監視というか、索敵はヨーイチとモンキー・ダイヴ・サスケさんにお願いしよう」


「サスケでいいだろそこは。なんでフルネームなんだ。あとさん付けはいらねえ」


「……サスケにお願いしよう。

 ハチを連れていた場合は別途で後で検討するとして、まず1人で現れた場合だ。

 姿を消して現れる可能性が高いから、索敵を二人にお願いする。

 そして次に重要になってくるのは、秘遺物の効果範囲、デバフフィールドにいかに誘い出すかだ」


「そうだな。普通に考えて、災厄が来てからあれを用意していたんじゃあ遅い。さっき触らせてもらったんだが、触っただけで使い方がわかった。なんでも、秘遺物ってのは例外なく触れれば使い方がわかるらしい。

 で、それによると起動時に対象にするのは「場所」だ。人や物じゃない。そして効果時間だが、30分以上を残して「破壊」による強制終了を発動させた場合がもっとも効果が高くなる」


「ありがとうアマテインさん。

 てことは、1番理想的なのは、災厄をポイントへ誘導し、後衛が秘遺物を起動、その後30分以内にLPを確殺ラインに持っていき、そこで秘遺物を破壊して、その効果によって倒す、かな。

 これを可能にするには──」









「──では、大筋はこれで行こう。実際のところは相手がどんな魔物なのかもわかっていない。想定外の事態も予想されるけど、一番大事なのは秘遺物破壊による最後のデバフだ。ここに持っていったからと言って勝てるとは限らないけど、ここに持って行けなければおそらく絶対に勝てない」


「まずは俺が矢で奴を挑発し、同時に他のプレイヤーに奴の居場所を教える」


「キーになるのはやはり最後のデバフ中にいかに相手を動かさないようにするか、だな」


「おう。責任重大だぜ。任せとけや」


「それと可能なら、なるべくそれまでに災厄のLPを削っておきたい」


「僕の『恐怖』が通るかどうかは五分五分だけど、アンデッドなら「魂縛石」があれば効果自体はかけられるはずだ。あとは抵抗判定だけど……」


「誰かが気を引いて、背後からサスケがイカ墨玉を投げて暗闇状態にすることで確率を上げよう」


「これ、マジで後頭部に当てても目潰しできんのか? どういう理屈なんだよ」


「そういうアイテムなんだから仕方ないだろう。詳しくは作ってくれた錬金術師に聞け。奴はこの戦いにはついてこられないだろうから、途中の街に置いてきたけど」


 作戦は概ね定まった。あとは実行するだけだ。


「……でも、これは前衛の全員が確実に死ぬことになるのが前提の作戦だ」


「いや、これしか無いと思う。幸い、デスペナルティも今は軽い。案外、あのアーティファクトを使って、犠牲前提で勝つための調整なのかもしれないぞ、デスペナ緩和は」


「このゲームの運営、システマティックな説明しかしないからなぁ」


「ま、デスペナが無いなら気にするほどのことじゃねえよ。どうせ貰える経験値なんかは貢献度に応じて分配だしよ」


「災厄を少しでも足止めするために、死んだとしてもリスポーンはしない。死体をそのまま残して、災厄の足元を邪魔するんだ」


「最後のタイミングには俺がしがみついてでも抑えてやるから、すまないが、回復の順番で迷ったら俺を回復させてくれ。俺が1番死ににくいから、それで少しでも足しになるはずだ」


「はい。わかりましたギルさん」


「よし、じゃあ配置につこう。正直、奴がいつ現れるかもわからない状況だ」


「おう!」


 ウェインたちによるレイドボスバトル、災厄討伐戦はこうして始まり、そして大陸史上初、人類の敵の討伐に成功したのだった。




 しかし。









かつてこの地を治めていた…?どこかでそんな話を聞いたような




ピタゴなんたらスイッチ


レアがエアファーレンを滅ぼしてピンボールをはじく(ウェイン君が飛ぶ)

はじかれた先の街、アルトリーヴァをブランが滅ぼし、ボールをトス

王都カップにイン

ラコリーヌが壊滅したことでカップの底が抜け、ブロックを倒す

(宰相に呼ばれて掲示板に書き込む)

ブロックが倒れたことで新たなボールがエントリー(ギル)

新しいボールの通行を止めていた3枚の壁(ヴェルデスッド、アルトリーヴァ、ラコリーヌ)が取り払われ、新しいボールのエントリー場所から王都までへの滑り台完成

王都にボールが到着し、フラグが立つ


みたいな。




NPCの遠距離通信に関しては、眷属の設定考えたときから「絶対こういう裏ワザ考えるやついるよな」と思っておりましたので、気づいておりながら黙ってくれていた方がいらしたらありがとうございます。




基本的にそれぞれの視点でのお話になりますので、その時の視点の勢力の者から見た事実しか書きません。

例外はブランパートの八百長経験値の件ですが、あれも無理にあそこに入れる必要はないのでどこかに移すかもしれません。


ですのでNPCは「災厄が」「六大災厄が」と申しておりますが、それがそのまま世界に存在する特定災害生物の数とは一致しません。

彼ら(とそこに伝わる伝承など)にはそう考えられているというだけのことになります。

もっと多いかもしれませんし、もっと少ないかもしれません(特定災害生物ではないけど人類に仇なす存在なのでそう言われているとか)

例の謎スキルはリアルタイムで起こったことしかわかりませんので「あいつやべーから絶対他のヤバイやつと同列だと思うんだけど、俺聞いてないんだよね。でも聞き漏らしたのかもしれないし一応そう言っとこ」って考えた誰かが昔いて、それが伝承として残ってしまっている、など。


何が言いたいのかと申しますと、NPCの人たちは別に本人に嘘を付くつもりがなくても結果的に誤情報をプレイヤーに与えてしまう事がありますよ、ということです。

その誤情報も含めて世界観というか、異世界らしさを追求したゲームの舞台装置ということです。


本作において、というかこのゲームにおいて、絶対正しい情報は「システムメッセージ」のみになります。

もしかしたらこれまでにブランの件のように混ざってしまっている箇所があったかもしれませんが、いずれ落ち着いた時に修正していきます。


本来であれば作中でほんのり匂わせていければいいだけのことかと思いますが、私の力不足で申し訳ありません。


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― 新着の感想 ―
今回で死ねたのは有情ですねー 今後は天狗になることもないだろうし
負けたのは主人公が呆けてたからって設定はわかる 緊急脱出のためにとった緊急脱出手段を本番前に遊びで使い切ったというのも一応それで納得した けど、回復役が何度も活躍してたのに(蘇生もできるかもしれない)…
[気になる点] 弱視ってのがどの程度か良くわからんが乱視が無いなら相当近視でもあらゆる物体の輪郭はわかる。ならば敵の位置がわからんなんてあり得ないんだが……(自分が相当近視なのでそう思うだけなんだが)…
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