第85話 「ラコリーヌの更地」
2020/4/2
タイトル改訂。
レアはラコリーヌの街を更地に変えた航空兵と砲兵たちをいったん下がらせた。
掃除役の狙撃兵と航空兵のペアに命じ、生き残りをヘッドショットで始末させる。
驚いたことに、幾人かはヘッドショットをもはじく兵士がいた。きちんとした鎧を身に付けた、騎士と思われる者たちに至っては、全員がそうだ。兜などの効果もあるのだろう。ふだん森で始末するプレイヤーたちはあまり兜を着用しない。
「なんかやたらと兵隊さんが多かったみたいに見えたけど、王都から援軍とかにでも来ていたのかな? 王都の兵士ともなれば、飽和攻撃からも生き延びて、さらにヘッドショットも効かないものがいるのか。
でも援軍って言っても、わたしがエアファーレンを落としたのは昨日の話だし、来るの早すぎないかな。なんでこんなとこまで軍隊で来てたんだろう」
生き残った兵士や騎士たちはあたりの惨状を見て、おおいに嘆き悲しんでいるようだ。しかしすぐに上空を見上げ、憎しみのこもった眼で睨みつけてくる。
「あれで死なないとなると、べスパに紐なしバンジーをさせようにも、抱えて飛んでる間にべスパを倒せる人とかも居てもおかしくないな。爆撃と狙撃くらって生きてるなら、落下で死ぬとも思えないし。これ以上はアリたちでは無理か」
今この街まで来ているのはレアと航空部隊だけである。そうでなければエアファーレンからラコリーヌまで1日では来られない。
ここはレアが直々に片付けてもいいが、まだ実戦で使ってみたい戦力がある。
アダマンシリーズだ。
彼らには木こりの真似事しかさせていない。
この後はもう小さな街は無視して王都に向かうつもりだが、王都は廃墟型の領域にするつもりのため、絨毯爆撃を行うわけにはいかない。
となれば、航空兵たちはもう休ませていいだろう。
「お疲れ様。森へお帰り」
スガルに連絡して全員を『召喚』させ、森へ帰した。
「さてと。じゃあ……そうだな、3小隊でいいかな」
上空でアダマン小隊を3つ同時に『召喚』する。
レアは『光魔法』の『迷彩』で姿を消しているため、虚空から突然現れたかのように見えるはずだ。
この演出に特に意味はないが、ビジュアル的にはさぞかし映えるだろう。せっかくのイベントであるし、派手にいかねば。
『召喚』されたアダマン小隊は、重力に従ってそのまま落下し、地響きと土煙を立てて耕されたばかりの大地に埋まる。
落下の衝撃から立ち直ると、次々と地面から這い出し、兵士たちに襲いかかった。
まずレアが驚いたのは、兵士がアダマンナイトの斬撃を躱したことだ。大森林に遊びに来ていたプレイヤーなら今の一撃で死んでいる。
その後振り抜かれた兵士の一閃をアダマンナイトも躱そうとしたようだが、躱しきれずにその鎧で受けてしまった。兵士の剣よりアダマンナイトの方が硬かったため、無傷に終わったようだが、相手の装備が上等だったらアダマンナイトはおそらく勝てなかっただろう。
実力というよりはスペックの差で押し切り、兵士たちは次第に数を減らしていく。
あそこまで鍛え上げたのに装備が低品質なせいで死んでしまうとは、レアには実にもったいなく思えた。
一方、さすがにあの飽和攻撃をほとんど無傷で生き延びただけはあり、騎士たちはアダマンシリーズ相手にも一歩も引かない。
アダマンリーダーでなんとか互角といったところだ。驚異的な実力といえる。それはつまり、第一回イベント参加時の鎧坂さんと同程度の実力ということだ。
3小隊ではアダマンリーダーは3体しかいないため、残りはアダマンナイトとスカウトなどが受け持ち、アダマンメイジが援護をして戦況を抑えている。
数こそそれほどいないようだが、こんな騎士が守っていたのでは、この街を地上から攻め落とすのは困難だったはずだ。航空部隊を運用して正解だった。
しかしこれほど強く、しかも数が少ない騎士だ。もしかしたら正式な騎士なのかもしれない。
ということは、どこかにいる主君を殺さなければ真の意味では殺せない。
その主がこの街にいたとしたら、その者も爆撃を生き延びたということになる。
瓦礫の中から立ち上がった者たちは今全員アダマン隊と戦っている。主君が生きているとすれば、まだ瓦礫の中にいるはずだ。もしくは、騎士たちの中に紛れているか。
騎士たちが主君を探したりせずにアダマンたちとの戦闘に没頭しているということは、主君が死なないことを確信しているということだろう。
不自然に仲間をかばったりする様子も見受けられないことから、騎士に偽装して紛れているというわけでもない。
であればこの街にはいないのかもしれない。
ここで騎士たちを殺したとして、これだけ破壊されている都市でリスポーンできるとは思えない。
眷属たちがリスポーンするのもプレイヤー同様、最後に眠った場所からだが、NPCの場合はそれが破壊されていた場合どうなるのかはわからない。
生き残りを探してレアが街の上空をうろうろしている間に、兵士たちの数を減らした事で均衡を崩した戦場は片がついたようだ。
レアが戻ると兵士や騎士たちの死体が横たわっていた。
このままここで1時間待って騎士の死体がどうなるのか確認してみるのもいいが、それほど意味のある行動にも思えない。彼らの主君がここにはおらず、さらに彼らがどこか遠くでリスポーンするようなことになればまったくの無駄な時間になる。
何かに使えるかもしれないのでアダマンたちに死体を収納させ、次の一手を考える。
「アダマンたちは運べないから……。このままここに残しておくしかないな。だったらわたしだけ飛んでって、王都でまた召喚すればいいか。『飛翔』って便利だな」
インベントリから地図を取り出し、確認する。
ここから王都へはだいたい西の方へ行けばいいようだ。適当に進み、ある程度近づいたら上空から街道を探し、あとはそれを追えばいいだろう。
この距離ならば歩いて行ったら何日かかるかわからないが、飛んでいけばすぐだ。
*
風が気持ちいい。
と言いたいところだが鎧坂さんの中なのでそういったことは一切ない。視覚的には視界のすべてが上空からの景色のため、非常に素晴らしいのだが。
あまり下ばかり見ていて交通事故を起こしてもまずい。
とはいえここは遮る物のない上空だ。ごくたまに鳥の姿を見かけるが、鳥だって別にずっと飛んでいるわけでもないし、彼らには彼らの生活圏があるため、そこから大きく離れたりもしない。
と、視界に入った一羽の鳥が気にかかった。高度はレアよりもだいぶ下だが、かなり遠くから飛んできているのが見えていた。レアとすれ違っても、そのまま飛び続けている。
小さな鳥だ。おそらく鳩だろう。
鳩がこんなところをたった一羽で飛んでいる。
ありえない話ではない。野生の鳩は多くの種が群れを作って生活するが、この世界でも同じかどうかはわからない。
長距離を飛ぶこともまあ、あるかもしれない。住処を追われただとか。
しかしそれよりも、あの鳩は誰かに飼いならされた伝書鳩だと考える方が妥当に思える。
だとすればどこへ行くのだろうか。この先には壊滅した瓦礫の山しかない。
それは瓦礫の山となる前の街に、鳩を使って連絡を取ろうとした人物がいることを意味している。
レアは好奇心からその鳩を捕えることにした。
しかし案の定、力加減を誤って潰してしまった。
ここはオミナス君などを呼んで対処してもらった方が良かったかもしれない。
ひっくり返してみれば足になにかくくり付けてある。やはり伝書鳩だ。
手紙をじっくり読んでみたいが、時間をロスするのは避けたい。
ひとつ思いつき、レアはオミナス君を『召喚』すると、王都に向かって飛び立たせた。
とりあえずいったん地表に降り、木陰で鎧坂さんから外に出ると、血で汚さないように鳩の足から慎重に筒を抜き取る。
筒には布片のようなものが押し込まれており、取りだして広げてみると意外と大きい。
そこに書かれていた内容は、レアを少し驚かせた。しかし納得もさせるに十分なものだった。
いわく、あの街にいた異常な数の兵隊は、どうやらレアを討伐するために組んだものだったらしい。災厄の討伐、とあり、その目的地がリーベ大森林らしいことが書いてある。心当たりから考えれば、この災厄とはレアのことを言っているのだろう。
その心当たりとは例のシステムメッセージだ。あれを聞くことのできたNPCが王国上層部にでもいたのだろう。この手紙の送り主はヒルス王国宰相となっている。適当な人物がおいそれと会える存在ではない。国家の中心に顔が利くような人物がシステムメッセージを聞いたのでなければ、レアのことは宰相まで伝わるまい。
手紙の受取人の司令というのはあの軍隊を指揮していた人物だろう。飼いならされた猛禽などに襲われる可能性もある伝書鳩で、暗号もなしにここまで詳細に記載するとは不用心極まりない。
とはいえ、ここは国内だし、他国と戦争をしているわけでもない。レアとは戦争中と言えるかもしれないが、魔物相手にスパイの警戒は普通はしないだろう。
なぜあの街に大軍がいたのかはこれでわかった。レアを討伐するために遠征し、たまたま立ち寄っていただけだ。しかしそこへハチの大群が襲ってきたため、中央に指示を仰いだといったところだろう。
手紙によれば、ラコリーヌの壊滅を見過ごしてでも災厄の討伐を優先しろ、とある。
レアの討伐は叶わなかったが、ラコリーヌは希望通り壊滅させてやったので、プラスマイナスゼロと言えよう。
──しかし、わたしを討伐しようと軍を差し向けるとは。
なぜリーベ大森林というレアの自宅の場所までわかったのかは不明だが、王国にとってはレアの存在はよほど目ざわりと見える。
しかもあの程度の軍隊でそれが可能と思われているとは。
完全に舐められている。
ここは一発、殴り返してやるべきだろう。
実際にはレアはまだ殴られてはいないが、相手が拳を振り上げたのは確かだ。それを最後まで振り抜くかどうかは相手の都合であり、拳を振り上げた時点でもう反撃されても文句は言えないとレアは思っている。
ここでロスした時間は大したものでもないが、せっかくの機会であるし、スキルのテストを行うと同時にロスを帳消しにしておきたい。
レアは再び鎧坂さんに潜り込むと、スキルを発動させた。
「『キャスリング:オミナス君』」
一瞬の浮遊感のあと、レアの体は上空にあった。
先ほど飛ばしたオミナス君とレアの居場所を入れ替えたのだ。
あわてて『飛翔』し、落下を免れる。
「なるほどこうなるのか。『キャスリング』する相手がどこにいるのかあらかじめ『視覚召喚』とかで確認しておいた方がいいな。でもそれだったら別に『術者召喚』でいいな。本来は自分の緊急避難のためのスキルなんだろうけど、そんな機会もないし」
オミナス君には適当に帰っておくよう指示する。難しいようならこちらの用事が済んだら『召喚』するのでそこらで遊んでおくように言っておく。
王都に近づいたら街道を探すつもりだったが、わざわざ探さなくともすぐに見つかった。国の中心だけあり、かなりいろいろな方面に街道が伸びているようだ。
今レアの真下にあるのがラコリーヌ方面から伸びている街道かどうかはわからない。
なにしろ街道はかなり曲がりくねっている。
森や丘、川幅の広い場所などを迂回するため、仕方ないのだが。
とにかく、街道を辿れば王都に着くはずだ。そろそろ、『迷彩』を発動させておくべきだろう。
王都を制圧し、死の街へと変えるのだ。




