第75話 「ブラン参戦」
2020/4/2
タイトル改訂。
「大規模イベント!今度こそ参加するぞー!」
伯爵に与えられている古城の一室。そこでブランは珍しくシステムメッセージを読んでいた。
少し前、ブランは3体のモルモンと3体のスパルトイを得て、そろそろ街を襲ってはどうかと伯爵にそそのかされた。
なるほどそれもいいかも!と一瞬考えたが、すぐに思い直した。これまでその楽観的な思考のせいで何度死んだかわからない。ここはもう少しだけ、慎重になっても悪いことはないだろう。
それに今はスケルトンだったあのころと違い、ブランの命は自分1人のものではない。眷属たちがいる。
伯爵が言うには、主君たるブランが死亡すると眷属たちも死亡してしまうらしい。ブランのリスポーンと共に眷属が復活するのかはわからないが、試してみる気にはなれない。
もう少し、あとちょっとだけ、念のため、念には念を入れて。
そんな風にずるずると経験値稼ぎと眷属の増強を繰り返し、いつの間にか30体ほどのスパルトイが配下に加わっていた。
さすがに伯爵には小言を言われたが、伯爵のゾンビたちとは仲がいいようなので、普段は共に城の警備をさせている。
ブランのモルモンたちはあの3体から増えていないが、伯爵もブランに倣いどこぞでコウモリを『使役』してきたらしい。
今伯爵の傍らには常に美貌の執事が控えている。伯爵のコウモリから転生したモルモンだ。
この執事は非常に有能で、ブランより遙かにできる子であるはずのアザレアたちがまるでポンコツに見えるほどだ。
戦闘力でいえばほとんど差はないはずなのだが、側仕えとしての出来と言おうか、アザレアたちもブランの世話を焼こうといろいろ頑張ってはいるのだが、たいていはすでに執事が先回りしてブランの世話を済ませてしまっている。
しかも執事は本来伯爵の眷属のため、ブランの世話をするということは、すでに伯爵の身の回りのことを完了させた後なのである。そして決まってこう言うのだ。
「お三方もおられるのに」
そのたびにアザレアたちは歯ぎしりせんばかりに悔しがり、ブランのベッドで勝手に不貞寝して枕を濡らす。
ともかく、そうしてずるずると戦力の増強に没頭してきたブランだったが、システムからの大規模イベントの通知でようやく我に返った。
しかも大規模イベントの内容は攻防戦だ。街を攻める魔物と、街を守る人類に分かれての大規模な戦争だ。なかなか街を攻める決心がつかなかったブランの背中を後押しする一手として、これ以上ないものだった。
「先輩! 街攻めますので手頃なところ教えて下さい!」
「貴様はまたいつもいきなりだな! 街を攻めるだと? ふうむ、手頃とな……」
「いやー、最初にアドバイス貰ってから随分待たせちゃいましたけど、ようやくその気になりましたよ!」
「いや、我らのように寿命のない者からすれば、特に待ったというほどのこともないが……。街攻めということは、あのスパルトイ共も連れてゆくのか?」
「そりゃもう。そのためにたくさん仲間にしたようなもんだし」
すると伯爵は、形のいい顎に指を添わせ、珍しく悩むように考え込み始めた。
「なんかまずいですかね」
「まずいことはないが……。貴様も気づいている──かどうかはわからぬが、この城は非常に高い場所、いわゆる高地に建っておる。同じ高地にある街、あの廃墟だが、あれはこの地が高地になる際に滅びておるため、攻めても仕方がない。ゆえに必然的に下界の街になるのだが、貴様のスパルトイたちほどの数を動かすとなると、どのようにして下界に下ろしたものかとな」
この地が高地になったとか、気になるワードが出てきたが、まぁそういう設定なのだろうとブランは深く考えず、伯爵の言葉を待った。
伯爵もブランの返事を待っていたようだったが、ブランが何も考えておらず、返事もなさそうなのを察すると、ため息をつき、言葉を続けた。
「……そうだな。城の下に地下水脈があろう? あの先は、下界の荒野に流れる河に続いておる。岩の隙間から水が流れ出すようになっており、それが河の源流となっておるのだ。ゆえにこちらからは外に出ていくことが出来ぬ」
では、地底湖から下流に向かうにつれリザードマンがだんだんと強くなっていったのはなんだったのだろうか。ブランはてっきり外部から入植してきた種族だから、より深い場所に追いやられた個体が弱いのだと感じていたのだが、それは違ったのだろうか。
そのことを伯爵にたずねてみると、どうやらリザードマンたちは伯爵が知るより前からあの地底湖に住んでいたらしい。
しかし地底湖には僅かな苔や小さな魚などしか居ないため、餌が少ない。外部に通じる下流の方は、稀に岩の隙間を遡ってくる活きの良い魚がいるとか、そういう理由で強いものが独占しているのではないかとのことだ。
「まあ、トカゲどもがなぜそのような階級社会になっておるのかは我も知らぬ。それにもう、トカゲどもで活きの良いのは貴様がほとんど赤い骸骨に変えてしまっただろう。今更気にしたところで意味はあるまい」
確かにそのとおりだ。
しかし、あの地下水脈から外に抜けられないのなら、地表に降りる手段はない。
どうしたものか、とブランは腕を組んで唸った。
「僭越ながら、発言をよろしいでしょうか」
伯爵の脇に控える執事が一礼してそう言った。
「なんだ? 申してみよ」
「ありがとうございます。ブラン様のお力ならば、地下水脈に沿って走る洞窟の出口を、魔法などで無理やりこじ開けてしまうことも可能かと愚考いたしますが、いかがでしょうか」
確かにブランの能力値ならば、岩壁一枚ぶち抜くことなど造作もない。しかしあまり大きな衝撃を与えて洞窟が崩落するようなことになれば面倒だ。
「悪くはないな……。だが、多少の危険はある。その案を採用するなら、眷属のモルモンなどに実行させたほうが良いだろう」
「てか、ツルハシみたいなのがあれば、人海戦術でみんなでカンカン掘っちゃえばいいんだけど」
人海戦術と言っても、洞窟の広さを考えれば実際に同時に掘削ができるのはスパルトイ数体が限度だろう。人間ならば疲れたらすぐ交代するなどして人数の多さを活用できるが、疲労しないアンデッドではそれも必要ない。
「ツルハシ? なるほど。労働力が有り余っているのなら、掘ればよいというのはもっともだ」
「ツルハシあるんすか?」
「何を言っておる。鉄のツルハシなどより、そのスパルトイの爪の方が遥かに硬いわ」
そうだった。スパルトイは割と上位のアンデッドなのだった。
ブランは城内でゾンビと語らっている──ように見えるが、両者とも発声出来ないはずなので実際は何をしているのかはわからない──スパルトイたちに命じ、地下水脈の洞窟の先、水が外に流れ出している出口を、手掘りで広げさせることにした。
広ければ広いほどいいが、イベントが始まるまでそれほど時間があるわけでもない。とりあえず人が通れるサイズの穴を合格ラインとし、それ以上は努力目標とした。
「それで、そこから荒野?に出たら街があるんですか?」
「河沿いにしばらく行けば見えてくるはずだ。この荒野には近くに魔物の領域とか言われる、人間どもが恐れる領域はない。強いて言えばこの城だが、この城から下界へのルートは今はない。ゆえにその街には、魔物の領域近くにある街に見られるような城壁などと言ったものはない。攻めるに易く、守るに難い拠点と言えるだろう。まぁ、攻め滅ぼすだけならば、守りづらいのは好都合でしかないが」
「なるほど! それいいですね! 近くに魔物の領域がないってことは、魔物と戦うのを生業にしてるプレ、ええと、傭兵?みたいな人も少ないだろうし、チュートリアルには丁度よさそう!」
「ちゅー、なに? まあよい。そこならば、スパルトイどもの……。いや、それほどの数はいらぬな。スパルトイ数体でも制圧できるやもしれんが」
「念には念を入れてですよ! そんだけ戦力差があれば、さすがにわたしが死ぬことはないでしょう!」
「僭越ながら、そういった言葉はあまり口に出して言わないほうが……」
開発「これもうPCは最初からインベントリ使えて、NPCは絶対使えないって仕様に変えたほうがいいんじゃない?」
開発サポートAI「PCも、ゲーム世界内にすでに大量に存在するNPCと同じベーシックストラクチャーを利用することでバグを最低限に抑える調整をしたので、今変更するとリリースできません。それにすでに何十億も存在するNPCにパッチを当てるなど現実的ではありません」
開発「一理ある…あるか?」
開発サポートAI「ただしそれをユーザー様に説明しますとインベントリを使用できるNPCが増え、そのような存在がひとたび野に放たれれば、インベントリパンデミックが起こされる可能性がありますので、可能な限り伏せておくべきかと」
開発「…やっぱ仕様変えたほうが」
開発サポートAI「合理的ではありません」
開発「ねえもしかして面倒だからやりたくないだけじゃないの?」
開発サポートAI「…セルフチェックの結果、感情ゆらぎ幅は法定許容値の範囲内です」
開発「ちょっと面倒なんじゃねえか!」
ここまでポンコツ組




