第74話 「辺境壊滅」
2020/4/2
タイトル改訂。
せっかくここまで頑張ってくれたのだし、最後までアサルトアントに焼き払わせてもいいが、ソルジャーベスパたちが観測手くらいしかしていないためたいそう暇そうだ。
この国に航空戦力が少ないのなら、ソルジャーベスパがこれから戦う相手は主に地上戦力になるだろうし、その練習も兼ねてここは彼女らに戦わせてみたい。
「というわけで、よろしく頼むよ。やり方は任せる。突撃兵と歩兵たちは砲兵のところまで下がらせようか」
〈了解しました〉
スガルのその返事とともに、上空で戦況を見守っていたソルジャーベスパたちが急降下してくる。
「うわっ!」
「敵はアリだけじゃないのか! くそっ聞いてないぞ!」
「傭兵どもめ! なぜ正確な報告もできんのだ!」
領主の騎士たちは口々に傭兵たちを罵るが、そうしたところで誰も手加減はしてくれない。
ソルジャーベスパたちは地面スレスレまで降下すると次々と騎士たちを抱え込み、急上昇していく。
「くそ! やめろ! 離せ!」
50メートルほど上昇すると、そのまま放り投げるようにして騎士たちを放した。
「ああああぁぁぁぁぁぁ……」
傭兵たちと違い立派な鎧を着込んでいたが、落下ダメージは彼らの装備では軽減できないようだ。
半ば鎧が地面にめり込むように衝突したようだが、その衝撃は着ている人間を殺すには十分だったらしく、落ちた後動き出す者はいない。
大量のソルジャーベスパによってほとんどの騎士が紐なしバンジーのサービスを受けた結果、領主の騎士団は壊滅状態だ。
この中に正式に『使役』を受けた騎士がいれば、放っておけばそのうちリスポーンするのかもしれないが、NPCの自動リスポーンは1時間後だ。プレイヤーならば即リスポーンするのだろうが、システムメッセージが聞こえないNPCならきっちり1時間後にしかリスポーン出来ない。
であれば、NPCのリスポン狩りはやはり効率が悪いと言える。
「なら、領主館は別にもう要らないかな。さっさと潰して、次に行こう」
砲兵アリに砲弾の雨をオーダーした。
領主館はまたたく間に炎と瓦礫に変わる。あの中に領主が居たかは不明だが、居たとしてももう死んでいるだろう。もし生きていれば経験値の事を思えば始末しておきたいが、街一つの壊滅と比べればそれも誤差のようにも思える。
「一応、歩兵たちは領主らしき人物を探しておこうか。他の兵たちは侵攻を続けよう。この街は森に近すぎるから、新たに拠点として運用する意義は薄いし、全て更地にしてしまっても構わないよ」
新たなる魔物の領域「廃墟型」を造ってみたいという思いは失っていない。しかしせっかくそれをやるならば、なるべくインパクトの強い立地でやってみたかった。
それにふさわしい場所は、やはり王都だろう。王国の象徴たる都。ここを廃墟にし、アンデッドたちの巣窟にするのだ。
「まあそれも、エアファーレンとルルドを制圧……というか壊滅させて、ラコリーヌも片付けてからの話だけどね。10日で間に合うかな? こっちはもうだいたい終わりそうだけど、ルルドの方はどうなってるのかな」
飛んでいる状態はレアが鎧を操作しているため、余所見運転は危ないので地面に降りる。地面に降りてしまえば鎧坂さんに主導権を渡しても問題ない。鎧坂さんに身体を返すと、レアは目を閉じ、オミナス君の視界に同期した。
*
ルルドの街は巨大な数体のトレントに囲まれ、その城壁は蔦のようなものに覆われていた。
城壁は非常に大きい。遠目に見ているため蔦に覆われているように見えるだけで、実際は蔦などではなく、もっと太い何かだ。
これらは全て木の枝や根だった。
そして街中にも緑が溢れ、それはトレの森から続いている。
俯瞰して見てみると、まるで森に飲み込まれたかのようにも見える。
あの森の中心はレアの世界樹であり、森の木々はレア配下のトレントたちであることを考えれば、森に飲み込まれたという表現は間違っていない。
こうして見ている間にも、街の家の屋根を内部から伸びてきた枝が突き破っている。急激に成長していく木の幹に家が飲まれていく。そこらじゅうにばらまかれたトレントたちの種子が発芽し、急成長している。
もともとトレントの『繁茂』ツリーにある『種子散布』で撒き散らされる種子に、これほど急激に成長する能力はない。それを可能にしているのは、街中に充満している光の粒だ。
この光の粒は、城壁を囲む数体の巨大トレントから花粉のように漂ってきている。
その巨大トレントたちは見るからに他のトレントとは風格が違っていた。
彼らは世界樹から『株分け』によって産み出されたエルダーカンファートレントたちだ。
通常のトレントたちの『株分け』は、自身の経験値を消費することで自分と全く同じ個体をもう一体産み出すスキルだ。しかし世界樹の『株分け』ではさすがに世界樹を産み出す事はできない。
世界樹の『株分け』で産み出されるのは世界樹の元になった種族、つまりカンファートレントだ。
産み出す魔物が弱い代わりに、消費コストは経験値ではなくLPとMPになっている。そしてこのカンファートレントは、親である世界樹の一部のスキルを中継する能力を持っている。
たとえば世界樹が散布系のスキルや範囲バフ・デバフ系のスキルなどを使いたい時、このトレントたちは世界樹の端末として、範囲系スキルの発動地点にすることができるのだ。
今ルルドの街に充満している光の粒は、世界樹のスキル『大いなる祝福』によるものだ。効果は範囲内の「植物」に属する全ての生命体の異常成育だ。
街中にもとからあった普通の植物も瞬時に成長したのだが、受粉などをする間もなく花が枯れるため、殆ど結実せずに朽ちていった。
一方でトレントたちには設定上寿命がない。通常の木のサイズになるには大抵1年ほどかかり、その後は何十年何百年と時間をかけてゆっくりと大きくなっていき、やがてエルダートレントに至る。
しかし『大いなる祝福』の効果によって、撒き散らされた種子は一瞬で成育し、またたく間に巨大化していく。
はじめに城壁を取り囲んだ、世界樹の端末たるカンファートレントたちは、自分たちの撒き散らした『大いなる祝福』の効果ですでにエルダーカンファートレントにまで成長していた。
この街で、積極的に人間を攻撃しているトレントは少ない。必要ないからだ。すでに地面が見えなくなるほどそこらじゅうに木の根が蔓延り、無事に建っている家など1軒もない。そこに住んでいた、あるいは道を歩いていた人間たちは一瞬で成長する木々に飲み込まれ、そのまま轢き潰されたか、身動きが全く取れない状態になっているか、たいていはそのどちらかだ。
うまく躱して生き延びた傭兵や騎士なども、どこから伸びてくるか予想もつかない枝や根から、いつまでも逃げ続けられたものはいなかった。
〈うわぁ。エアファーレンの街はアリに蹂躙されて可哀想だなって思っていたけど、ルルドはルルドでひどい有様だね。これもう生きてる人間居ないんじゃない? てか、そろそろ『大いなる祝福』止めてもいいんじゃない? もう要らないでしょこれ〉
〈そうですね。そろそろ私のMPも枯渇してしまうので、止めることにいたします〉
世界樹がそう答え、徐々に光の粒が薄れていく。それに伴って木々の成長も止まっていき、やがて街中の時が止まったように静かになった。
〈ひどい有様だったけど、なんかものすごく壮大で美しい光景だな……。感動的ですらあるよ。素晴らしい〉
〈神々しくも美しい魔王陛下にそう評されるとは、光栄の極みでございます〉
本気で言っているらしいことはわかるのだが、基本的にレアに忠実な眷属にそのように言われても、なんとなくヨイショされているような気がして落ち着かない。
とりあえず聞かなかったことにして流し、街の様子を観察する。
〈動くものはいないね。街にいた人たちは全滅したのかな?〉
本来であればプレイヤーならすぐにリスポーンしてくるのだろうが、その拠点となっていた場所が丸ごと魔物に制圧されてしまっている状況ではそれもできない。
〈そのようですね。この街はこの後どうされますか?〉
「このまま森に飲ませておけばいいよ。領域をここまで広げて、街道も飲み込んじゃって」
〈仰せのままに〉
トレの森からざわざわと、トレントたちが街道までを飲み込まんと溢れ出してくる。もともと大回りに街道を敷設し、離れて街を建設していた地域だ。その全てを飲み込んだとすれば、トレの森は一回り以上大きくなることになる。
〈じゃあ、こちらはそれでいいかな。向こうの片をつけてくる〉
〈お気をつけて〉
とはいえエアファーレンもそれほどすることは残っていない。
完全に更地にしたら、歩兵に掃討戦を任せ、航空兵と砲兵でラコリーヌにピクニックだ。
1か月記念に、本編のネタばれにならなさそうな、それでいて多分本編中で明かされることがなさそうなチョイ設定をひとつ。
ちょうど1か月前の投稿になりますが、第2部分冒頭は「チュートリアルはスキップできない。」で始まります。
オープンβ開始にあたってそのように修正された理由は実際のところは不明となっていますので、その設定について解説します。カンのいい方はお気づきかもしれませんが。
このゲームにおいて、最初に行われるチュートリアルで「PCとNPCのシステム的な違いは『システムメッセージを受け取ることができるか』という点だけである」と説明されます。
作中登場キャラクターは「この説明を徹底するためにスキップ不可にしている」または「リセットマラソンを容易にさせないためにスキップ不可にしている」のだと思っておりますが、実はそうではありません。
第22話において、NPCが初めてインベントリを使用します。
レアはこの出来事をもって、チュートリアルのサポートAIの言葉を噛みしめます。
このエピソードには、チュートリアルをスキップできないのはこの言葉をプレイヤーに、ひいては読者さま方に強く印象付けるためなのだ、というミスリードも含んでおります。
この後の検証の中で、インベントリを使用するための条件は「INTが一定以上」「インベントリの使用を実地で教わる」なのではないか、とレアは結論しています。
実は「INTが一定以上」は厳密には正確ではないのですが、「インベントリの使用を実地で教わる」は正解です。
ではシステム上NPCと差がないはずのPCがインベントリを最初から使えるのは何故なのでしょうか。
最初のログインの直前、そこでチュートリアルが行われ、サポートAIにインベントリの使い方をレクチャーされるからです。
つまりチュートリアルを受けることで初めて、プレイヤーはインベントリを使用できるようになるのです。
この仕様はクローズドβのころから変わっておらず、当時チュートリアルをスキップしたテスターから「インベントリが使用できない不具合」として多数報告されたため、正式サービスではチュートリアルはスキップできない仕様に変更されました、という設定です。
お読みいただきありがとうございました。




