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黄金の経験値【なろう版】  作者: 原純
エピローグ
611/612

特別編 「四月の魚」

本日から新年度ですね。

世界的に大変な情勢の中ですが、新しい生活に切り替わる方もいれば、そうでもない方もいると思います。


今日は新しいものとして新連載を、

変わらないものとして特別編を投稿します。


こちらはこのようにちょこちょこ特別編や続編なんかを投稿していければと思っておりますので、よろしくお願いします。


なお新連載。

「美しすぎる伯爵令嬢(♂)の華麗なる冒険

 https://ncode.syosetu.com/n3514gw/」

だいたい内容が分かるようなタイトルにしてみました。

本日4月1日の18時に投稿予定です。





「そういえばさー」


 ライラが右上に視線をやりながら言った。

 そちらの方には何もない。

 他人には見えない素敵なお友達と話しているのでなければ、メニューのどこかを見ているのだろう。

 メニューウィンドウはプレイヤーが任意にレイアウトを変更できるため、それだけでは何を見ているのかはわからない。

 例えばレアが最適化したレイアウトであれば、右上だと日付と時刻の位置になる。


「今日エイプリルフールだね」


 どうやら同じ傾向のレイアウトのようだ。

 知らず、レアの眉間にしわが寄る。

 それによくない単語も聞こえた。

 少し気分が沈んだ。


「……そうだね」


「あれ、何でいきなり不機嫌になってるの? レアちゃんエイプリルフールに嫌な思い出でもあるの?」


 こいつは一体何を言っているのか。

 レアはそういう目でライラを見つめた。


 嫌な思い出が無いわけがない。


 言うまでもない事だが、このライラは、エイプリルフールにはどんな嘘をついてもいいと思っているタイプの狂人だ。

 幼く、純真だった頃のレアが何度騙されたか。

 経済的、肉体的な被害を受けた事こそないものの、精神的な被害を受けた事例は枚挙にいとまがない。

 1年に1度しかない日なのに枚挙にいとまがないとはどういう事なのかというくらい酷い目に遭っている。


 もちろん、エイプリルフールというイベントを知り、ライラの性格も知っていればおのずと警戒する様になる。レアもそうだった。

 しかし、いかに警戒されていたとしても、それをすり抜けるように騙してくるのがライラなのである。

 騙される、とこちらが警戒している事を逆手にとってさらに騙してくるのだ。


 ここ数年はライラが家を出ていたため被害がなかったので忘れていたが、今日はそのエイプリルフールだった。


「えいぷりるふーる、とは何じゃ? お主らの故郷の祭りか何かか?」


 もきゅもきゅと塩ゆで卵を頬張るメリサンドが尋ねてきた。

 ゆで卵をそのまま食べると口の中の水分をすべて持っていかれるためレアはあまり好きではないのだが、普段水の中で過ごしている人魚たちにはその感覚が新鮮でたまらないらしい。


「お祭りなんて上等なものじゃないよ。エイプリルフールと言うのは──」


「いやいや。お祭りだよお祭り。そうだね、せっかくだし、ちょっとメリサンドたちも体験してみようじゃないか。きっと楽しいよ」


 レアの言葉を遮り、ライラが言った。


 絶対ロクな事にならないな、と思ったが、この日ばかりは何を言ってもライラを止められる気がしなかったので口をつぐむことにした。

 被害者がレアでないならどうでもいい。


 しかし我関せずとティーカップを持ち上げたレアにライラが告げる。


「おっと、何してるのさレアちゃん。あとブランちゃんも。みんなに楽しんでもらうためには、ふたりの協力が不可欠だよ」


「ほえ?」


「……ええ……?」


〈3人でそれぞれ別々にメリサンド、ゼノビア、ジェラルディンに「嘘のエイプリルフール」を教えて、一番面白かった人が優勝ってことで! 目立てば専用のスレが立つだろうから、そのスレの伸びで判定しよう!〉


 やはりロクな事にならなかった。









 チーム分けには紆余曲折あったが、レアの担当はゼノビアになった。

 ブランがメリサンド、ライラがジェラルディンを担当する。

 ジェラルディンが少々ごねていたものの、彼女はゼノビアほどライラを嫌っていないため、そこまでの反発は無かった。


「ところで、どうして分かれてレクチャーするの? 全員に一度に教えた方が合理的じゃない? まあ僕はレア様とふたりきりになれるなら文句はないけどね!」


「ああ、これはね。知らない人に教える時は、誰の教え方が一番優れているのかを競うってしきたりになってるからだよ。エイプリルフールはわたしたちにとって大切なお祭りだからね。競う事で、より優れた伝え方を後世に残していくというか」


 まずは軽くジャブ程度に嘘を教えた。


「なるほど。確かに競争は人を成長させるからねぇ。中央大陸だっけ? 人類が競うのをやめたあの大陸は他と比べて極端に弱かったし」


「そうそう。そんな感じ」


「それで、その肝心のお祭りっていうのはどういうものなんだい?」


「ああ、うん」


 どんな嘘をつこうか。

 ライラじゃあるまいし、急に嘘をつけと言われても思いつかない。


 というか、考えてみればなぜこんな事をしなければならないのか。

 ブランも乗り気だったしあの場の雰囲気で参加すると答えてしまったが、別にレアがライラの提案に乗ってやる事などなかった。


「……やめた。ごめんねゼノビア。さっきのは嘘だよ。エイプリルフールって言うのは──」









「えー! じゃあレアちゃんは正直に全部言っちゃったの?」


「正直に全部言っちゃったよ。なんでライラの思い通りに行動しなきゃいけないの」


「参加するって言ってたのに!」


「ああ、あれね」


 レアは少し溜めてから言った。

 積年の恨み、少しは思い知るが良い。


「あれは嘘だよ。今日はエイプリルフールだし」


「うわレアちゃんが超ドヤ顔してる! 珍しい! レアちゃんの表情のレア差分ゲット!」


 悔しがらせてやろう、と思っていたのだが、ライラは意味不明な事をのたまいながら目を輝かせてレアを見つめてくる。

 なんだか急に恥ずかしくなってきた。


「もういいでしょうそれは。

 で、言いだしっぺのライラはどんな嘘をついたの?」


 どうせロクでもない事なのだろうが、後学の為にも聞いておきたい。

 SNSも覗いてみたのだが、どのスレがライラの行動によって立ったものなのかわからなかった。

 ブランの方はあまりにも際立って異常なスレタイだったのですぐ分かったのだが。


「ああ。それね。うーん。面白いと思ったんだけどね……」





***





「エイプリルフールっていうのはその名の通り、四月に愚か者を炙り出す行事なんだよ」


 ライラは連れ出したジェラルディンにそう教えた。

 ここまではだいたい合っているはずだ。嘘は言っていない。


「愚か者を? 炙りだしてどうするの?」


「そりゃ、罰を与えるのさ。人間はその知恵によって自然界で高い地位を築いてきたんだ。つまり賢さこそがヒトとケモノを隔てる唯一のフィルターであり、愚かな事は何よりの罪だからね」


「いかに賢くてもどうにもならない力の差というものはあると思うけれど、まあ愚かなよりは賢い方がいいのは確かね」


「愚か者を炙り出すやり方についてはいくつかあるけど、今日はジェラルディンもいるしハロウィン方式を採用しようと思う」


「はろうぃん方式」


「ハロウィンっていうのは、まぁまた別のイベントなんだけれど、簡単に言うと仮装だね。『変身』を使わずに他者に成り切ろうとするお遊びだと思ってくれればだいたい合ってる。

 今日はこれを使って愚か者を炙り出そうじゃないか」


「私がいるから、ということは、仮装ではなくて『変身』を使うのね」


「そうそう。

 適当な異邦人のパーティを見繕ってさ。その中のひとりの血を手に入れて、そいつに成りすますんだ。本物の仲間も見分けられないような愚か者なら、その場で罰を与える」


 プレイヤーなら、もし突然パーティメンバーの1人が2人に増えれば、フレンドチャットやSNSで真贋を判定するだろう。

 フレンドチャットを使われてしまえばどうしようもないが、SNSを使ってくれるならそれだけでスレが立ち、書き込みも伸びる可能性がある。

 ライラたちの正体を明かさず、かつ嘘を利用してスレを伸ばすという目的を達成するには、なかなか合理的なやり方ではないだろうか。


「異邦人って変な祭りがあるのね。まあいいわ。面白そうだし」


 それからライラとジェラルディンは協力してプレイヤーパーティにいたずらを仕掛けていった。


 だいたいの場合すぐにバレたが、現地で人を集めてマッチングしたパーティのようにメンバー同士の信頼関係が構築出来ていない場合などは、お互いに疑心暗鬼になる様子を楽しむ事が出来た。





***





「──と思ったんだけど、そもそもスレ立たなかったんだよね。なんか、実行したダンジョンのスレの中でちょっと話題になったくらいで。これは誤算だったね。考えてみれば当たり前かもしれないけどさ」


 被害に遭ったプレイヤーとしても、少しはエイプリルフールらしくて悪くないイベントだったのではないだろうか。

 しかしプレイヤーだから冗談で済むのかもしれないが、これがフレンドチャットやSNSのないNPCなら笑いごとではない事件だ。

 戯れに仲間割れを誘発させるとは、ライラの性格の悪さはやはり極まっている。


「ふっふっふ。じゃあ今回はわたしの優勝ですね!」


「ああ。そうだね。悔しいけど」


「いやわたしは参加してないし、優勝って言うかブランとライラが2人で競って勝ち負けが決まっただけでしょ」


「レアちゃんは不戦敗でしょ。今さら参加するっていうのは嘘でしたーってドヤ顔してもダメだよ!」


「ぐぬぬ」


 言い訳できない。

 別にブランに対してエイプリルフールでマウントを取りたいわけではないので負けても構わないのだが。


「で、わたしがどんな嘘をついたのかといいますと!」


「それは知ってるからいいよ」


「うん。普通に話題になってるよね。まあそりゃなるだろうけど」


「ええ!? 説明させてよ!」





***





「エイプリルフールっていうのは、簡単に言うとお祭りです! 狩猟祭? ってやつ?」


「何で疑問形なんじゃ」


「いや、古くから伝わるアレなので。由来が何だったのかはわたしももう曖昧みたいな?」


「ああ、異邦人は寿命短いんじゃったか。それならそういうもんなのか。しかし、狩猟というと、獣を狩るのかの。わしらにはあまり馴染みがない話じゃな」


「そうかも。だからメリーサンも知らなかったのかもね! じゃあせっかくだし、他の人魚さんたちも呼んで一緒にやってみない? 地上で行動できる子も結構いるでしょ? きっと楽しいよ!」


「ふむ。まあ、そうじゃな。ブランがそう言うんじゃったら、楽しいんじゃろうなあ。よし、声を掛けてみるか!」


「いいね! でねでね、何を狩るかって言うと、猿なんですよ!」


「猿か。猿と言うと、毛の生えたヒトみたいなやつじゃな」


「海にはいないのかな。シーモンキーとか聞いたことあるんだけど」


「ありゃ甲殻類じゃぞ。エビやカニの仲間じゃ」


「そっかー。確かに、猿と言えばモンキーってよりエイプってイメージだしね! そう、エイプリルフールのエイプとは、実は猿のことなのです!」


「ほー。じゃあリルフールって何なんじゃ」


「それはあれですよ、なんかあれ。方言みたいな」


「方言か。どんな意味なんじゃ」


「ええと、なんかその、りるふーる! って感じの。こう、ばーっと。ぐわーっと」


「……全然わからぬ。なんじゃ、何かを投げたりする動作か? それは」


「そうそれ! 投げるの! エイプ・リルフールとは、狩った猿の死体を投げつけるお祭りなのです!」


「……本当に楽しいのかのうそれは。異邦人の祭りは狂気に満ちとるな……」





***





【意☆味☆不☆明】人魚さんが新鮮な猿の死体を投げつけてくる件





1:ストロベリスト

何か今日やたらと人魚さんと遭遇するから、近づいてったら魔物の死体投げつけられたんだけど!

他にもそういう人いない?


2:ジベレリン

あ、俺もそれあった

ちなどこ?

俺は中央大陸東海岸だけど


3:ファーム

東海岸ってちょっと前にマーマンの目撃証言あった港町の方か

最近マーマン見かけないって聞くけど、代わりに人魚が出るようになったんかな


4:ジベレリン

マーマンが人魚に変わったのはいいんだけど、猿の死体オプションは別にいらなかったな

このゲームってなんでこう、普通のモンスターがいないのか


5:ストロベリスト

私が会ったのは西海岸かな

前に滅んだ方の港街の近く

てことは中央大陸の至る所で起きてるのかな

北と南の報告はよ!


6:まーちゃん

港は知らないけど、南の方は船にも被害出てたよ

航行してる貿易船に猿の死体が投げつけられて、輸送してた食糧が一部ダメになった

なんなのこれ


7:その手が暖か

人魚というと、マグナメルムの関係者に女王がいましたよね

災厄神国の方々は何か聞いてないんですか


8:丈夫ではがれにくい

いや、何も

ラルヴァニキも知らないみたいっつうか関わりたくないみたいな感じだったし、セプテム様たちは姿が見えないしなあ……


9:聖リーガン

なんだこれ、マジのスレなのか

今日あの日だからおふざけのネタスレかと思ったぜ


10:ウェイン

あの日って?


11:明太リスト

エイプリルフールじゃない?


12:ギノレガメッシュ

俺も嘘だと思って開いた

普通に考えて人魚が猿の死体投げつけてくるなんてありえねーだろうし


13:もんもん

なんだうそか


14:ストロベリスト

嘘じゃないって!

私以外にも被害者いるでしょほら!


15:蔵灰汁

僕もエイプリルフールネタかと

人魚って言うのもちょっとそれっぽいし


16:名無しのエルフさん

それっぽい?

人魚が何か関係あるの?


17:蔵灰汁

人魚っていうか、魚かな

フランスだとエイプリルフールを四月の魚って言うんだよ

子供が魚の絵を人の背中に貼りつけるいたずらをするんだったかな


18:モンキー・ダイヴ・サスケ

もしかして、それに引っ掛けて人魚が猿の死体を投げつけてきてんのか?

季節イベントのつもりかしらんが、相変わらずここの運営は狂ってんな


19:水晶姫

あなたにだけは言われたくないっていうか、あなた大丈夫なの?

襲われたりしてない? モンキーだし


20:モンキー・ダイヴ・サスケ

んなもん返り討ちにしてやるわ


21:ヨーイチ

で、結局本当の話なのかネタなのかどっちなんだ

あと本当だったとして、目的は何なんだ


22:ハウスト

あまりにも意味不明すぎて目的も何も全く分からんな……

スレタイを見ても意味が分からんが、まさにスレタイ通りとしか言いようがない事態だ


23:ノーギス

四月だったらイースターエッグイベントとかでもよかったと思うんですが

というか何故猿の死体なんでしょう


24:ヨーイチ

旧世紀の話だが、発見された人魚のミイラを調べたら猿のものだったという話があったな

それで猿に恨みがある、という設定とか


25:ギノレガメッシュ

どれもそれっぽいけど、どれも違う気もするな


26:ストロベリスト

謎は深まるばかりだわ……










前書きでまあまあいい事書いといてこの内容。

エイプリルフールだから仕方ない(

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― 新着の感想 ―
[良い点] 草いや草 [一言] 大量の人魚が至る所で新鮮な猿の死体を投げつけてくるのを想像して笑った笑笑 運営はどんな気持ちでこの現象を眺めてるんだ…??
[良い点] 本屋で書籍版見つけて、続きが読みたくて全話読みました。 一巻が81話くらいの位置だったので、単純計算で8巻くらいまでは出そうですね。 [気になる点] 後半がサクサクすぎるというか、 プレイ…
[一言] 長かったけど面白かった 続きがあれば読みたいです 面白い作品をありがとうございました
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