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第59話 「突撃、隣の」

2020/4/1

タイトル改訂。





 2日後、マリオンから魔物の領域に到着したとの連絡があった。

 レアはリーベ大森林をスガルとライリーに任せ、ケリーとディアスを伴ってマリオンのもとへ飛んだ。例の、外套と鎧坂さんを着込んだ出で立ちである。


「直接会うのは久しぶりだね。マリオン、銀花。元気そうで何より」


「ようこそおいで下さいました、ボス」


〈ご無沙汰してますボス。あれがお隣さんの森です〉


 最初に覚えたせいか『氷魔法』が得意なマリオンと、氷狼である銀花の相性は思っていた以上にいいらしく、道中もときおり襲撃してくる知能の低い盗賊や魔物の集団を連携してうまく始末してきたようだ。


「連携の訓練にはなりましたが、脅威度としては私たちのどちらか片方だけでも容易に殲滅できる程度のものしかおりませんでしたので……」


「まぁ、そういう訓練をやったことがあるのとないのとでは違うだろうし、やらないよりはよかったんじゃないかな」


 雑談がてらに、これまでのことを聞きながら魔物の領域へ向かう。

 お隣さんの森はリーベ大森林とは若干雰囲気が違う様に感じられる。

 地図によれば、森の中に境界線があるとされているリーベ大森林と違い、こちらの森はその木々が乱立する境目からすでに魔物の領域として人類に認識されているようだ。


 領域に対する最前線、リーベ大森林に対してのエアファーレンの街のような辺境都市がこの辺りにもある。

 ただしそれは現在レアたちのいる位置からはかなり離れている。

 その街へ向かう街道が魔物の領域の森を囲うように敷かれており、マリオンたちがここへ来るのに利用したのはその街道だ。森から街道まではけっこう距離があり、それは最寄りの街も同じ様子である。


 リーベ大森林とエアファーレンの街の距離が比較的近めなのは、これまでリーベ大森林に強力な魔物がいなかったためだと思われる。白魔たち氷狼がリーベ大森林に逃げ込んだのも同様の理由だろう。

 これまでどうやってその平和な状態を維持していたのかは不明だが、レアが思うにおそらくリーベ大森林はスガルの揺り籠だ。あるいはディアスの揺り籠かもしれないが、とにかく、レイドボスとなりうるモンスターを育成するためにあの森はあったのだろう。

 街の規模が小さいためか、アーリーアクセス開始時点ではスガルはまだレイドボス化していなかった。プレイヤーがあの街に増えてくるにつれて成長していくように調整されていたのかもしれない。


 それを考えると、街の建設や街道の敷設の時点で大げさに避けられているあの森は、リーベ大森林より魔物の領域としては格が上である可能性が高い。


「まあ、楽しみではあるよね。いまの私たちが先輩がた相手にどれだけやれるのか」


〈先鋒は儂が勤めましょう。姫は万が一にも死亡するわけにはいきませぬので、最前線にはおいでになりませんよう〉


「……少し残念だが、それは仕方がないか。もともと、死なないための戦力増強案でもあるわけだし、それで死んでしまっては本末転倒というものだ」


 最前線で森を見られないのは残念だが、あまり攻略の難易度が高いようならレアが出ていくべきではない。ディアスも十分以上に強力な個体であるし、ここはまず彼に任せてみるべきだろう。レアはディアスの戦うところを見たことがないため、実際はどのくらい強いのかを確認する意味もある。


「ディアス、アダマンシリーズをいくらか召喚しようかと思うのだけど、どのくらい居たらいいかな?」


〈必要ありませぬ。と言いたいところですが、姫は儂の指揮能力も確認したいのですな? では、1小隊ほどお願いできますかな。それ以上は、この森の攻略には過剰になりますゆえ〉


「この森は我らがリーベより格上の領域だと思ったんだけど、ディアスがそう言うならそうするよ。もし足りなかったらいつでも言ってね」


 そしてレアはアダマンリーダー1体、アダマンメイジ9体、アダマンスカウト6体、アダマンナイト14体からなる1小隊を召喚した。たかが1小隊だが、森の中で行動するとなると大人数に感じる。


「このゲームにはそういうシステムはないけど、レイドパーティーってこのくらいかな? まぁ現実的に考えてプレイヤー30人以上も集めるのって相当大変だよね」


 この程度の数ならば、すべてがアダマンリーダーだったとしてもレアの敵ではない。それは鎧坂さんを着ていなくても変わらない。昼間でなければだが。


「基本的にアダマンシリーズとカーナイトたちは、わたし以外だとスガルとディアスの命令に従うように言ってある。そのどちらも居ない時はケリーたちが最優先かな。その全員が居ない時は自己判断で行動すると思うけど、リビング系モンスターだから、自己判断だと敵を効率よく殺すとかそういうことしか出来ないと思うけど」


〈十分でしょう。ではこやつらの性能試験も合わせ、儂の能力もとくとご覧にいれましょう〉


 ディアスはそう言い、アダマンたちに短く指示を出すと、スカウト6名が森に散っていった。全身アダマンで出来ているとは思えないほど身軽に木々の中へ消えていく。アダマンとはいえ、スカウトの彼らは鎧は軽装だし、筋肉や内臓、脂肪が全く無いため、イメージほど重くはない。普通の人類種と同程度の体重だろう。

 しかも恒温動物と違い発熱もしないため、蛇系の魔物などが持つ赤外線系の暗視にもひっかからない。隠密行動をする者として必要なものはすべて与えられていると言っていい。


 アダマンシリーズやカーナイトたちには武装も与えてあるが、彼らは数が多いため、どうしても低ランクの数打ち品になってしまう。

 低ランクの棍棒などで殴るくらいならその手で殴ったほうが数倍強いため、与えてある武装は大抵が刃物で、素手とは種類の違うダメージを期待してのことだ。単純なダメージ量なら、体当たりがもっとも効率がいいのかもしれない。

 できることなら1体に対して1本のリビングウェポンを与えたいところだが、騎士の怨念がない。

 この森に進軍したのは、あわよくばディアスがかつて任されていた軍団以外の、亡国の騎士団の者たちがこの森で果てていないか期待したという面もあった。ディアスたちの遺骨は確かに数が多かったが、大陸唯一の国家の騎士団としては少なすぎる。騎士団の残骸は大陸中に散っていると見るべきだろう。


 スカウトが消えると同時に、ディアスも隊を進めている。こちらはスカウトと違い慎重にだ。藪を払い、戦闘可能な空間を広げながら漸進(ぜんしん)している。指揮能力とは本来は部隊の掌握をする所から評価すべきだが、今後その工程が必要になることはないだろうし、現場の純粋な指揮のみを見ることにする。それで言えば、慎重だが実に合理的で無駄のない指示と言えよう。


 ディアスやアダマンたちを見ながらレアは満足していた。この戦闘単位がいくつも作れるほどの戦力がリーベ大森林には控えている。この進軍で他の勢力との戦闘能力の比較ができれば、リーベ大森林の客観的な戦力評価ができるだろう。


 ディアスたちの切り開いた行軍路をレアもゆっくりと進む。

 両脇にはケリーとマリオン、殿に銀花がついている。鎧坂さんたちも含めれば、この全員が感覚強化系のスキルを取得している。よほどの実力差でもない限り、奇襲されることはない。

 偵察のためなら、フォレストオウルのオミナス君を連れてきてもよかったが、彼はそう強くない。飛行可能な強いモンスターがいた場合、太刀打ちできない可能性がある。フォレストオウルは森の中で行動することに特化したフクロウのため、身体のサイズが小さめだ。その分戦闘力も低い。


 少し進むと、前方のディアスたちがふいに停止した。確認してみると、スカウトが何かモンスターを発見したようだ。スカウトから報告を受けて、ディアスがフレンドチャットを飛ばしてくる。


〈姫、敵を発見しました。この森は、どうやら単一の勢力によってすでに制圧されているようです〉


〈なんだ、そうなのか。それなら、その勢力を駆逐するか屈服させるかすれば、森の支配権は奪えるということかな? それで、どんなモンスターなんだい? まさか人類種ではないよね?〉


〈……はい。この森を制圧しているのはアンデッドです。鎧を見るに、おそらくは……かつての我が同胞です〉






 


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