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第58話 「炭酸マジカリウム」

2020/4/1

タイトル改訂。





 そもそも賢者の石のレシピがこの中にあるとは限らない。このゲームにおいて存在していない可能性もある。しかしホムンクルスだの錬金術だのを出しておいて、まさかないとは思えない。

 多分に希望的観測を含む思考フローだが、せっかくゲームを楽しんでいるのだし、仮に成果がしょぼくても構うまい。そうだと信じてとりあえずやってみればいいのだ。


 レシピの中で最も怪しいのは、必要とされる素材が最も多く、またレシピの並んでいるツリーの中でどこにも属さず、ただ一つだけでツリーが存在しているレシピだ。これを暫定賢者の石として制作を目指す。


 そのレシピにおいて必要とされている素材は6つだ。現在のところ、アンロックされているのは水銀、硫黄、鉄、魔物の心臓、そして強酸である。あとの1つは不明だ。

 強酸がアンロックされているということは、レアが見たことがあるということだ。これまで見たことがある酸といえば主に工兵アリの出す酸だけなので、おそらくあれでいいのだろう。

 レベルが高くて困るということもないだろうし、実験の際には「賢者の石素材専用」の工兵アリを用意し、出来るだけ経験値をつぎ込んで成長させてから酸を出させてみるつもりである。もしこのレシピが賢者の石でなかった場合はいきなり職を失う事になるが、高スペックなのでどこでも活躍できるだろう。


 水銀と硫黄は鉱脈から採取できている。硫黄については鉄などの硫化鉱物が採掘されているので、それを『錬精』した際に得られたものだ。水銀は鉱脈内に普通に存在しており、坑道を作っている際に壁から吹き出してきた。

 当然、硫化水銀である辰砂も少量ながら産出されている。

 この素材の水銀と硫黄は、まとめて辰砂では駄目なのだろうか。通常の硫化ではなく『錬金』によるマジカルな結合が必要だということなら、仕方がないが。


 辰砂といえば、かつて文献によっては賢者の石と呼ばれることもあった。

 レアは『錬金』を取得してからというもの、ログアウト中などにVR図書館で古代錬金術についての文献を読み漁ってきた。

 辰砂は古代中国でも神丹などの霊薬の材料として有名だ。といっても結局は硫化水銀なので、毒物なのだが。


 もし仮に、水銀と硫黄が「賢者の石」とされる辰砂を作るための材料として上げられているとしたら。

 その場合、では他の材料は何のために必要なのかということになる。


 とりあえず水銀と硫黄は辰砂用ということで分けておくとして、他の素材の役割を考える。


 まずは素材の中でひときわランクの低い鉄の存在が気になる。水銀の保存用だろうか。水銀は多くの金属と合金を造るが、たしか鉄では合金はできなかったはずだ。それとも別の理由が何かあるのだろうか。


 もし仮に鉄になにか特別な理由があるのならば、残る一つの素材も推理できそうな気がする。


 先程の辰砂を賢者の石と仮定したとする。

 そして他の材料もまた賢者の石を造る素材だと考えた時。


 辰砂以外で賢者の石と呼ばれていたようなものといえば、有名どころでは黄血塩だ。


 黄血塩はフェロシアン化カリウムの事だが、中世では確か家畜の内臓などの窒素の多い有機物に、鉄と炭酸カリウムを──


「あ、そのための鉄か」


 ならば、魔物の心臓は家畜の内臓の代わりか。であれば、炭酸カリウムの代わりになるのが最後の一つであるはずだ。

 適度にマジカルで、それでいて炭酸カリウムを含む何か。

 純度を無視すれば、もっとも簡単に炭酸カリウムを得る方法はそこらの植物を灰にして水にさらすことだ。

 しかしこれはレアが公式イベントの際に似たようなことをやっている。火力が高すぎてほとんどの木は灰を通り越して蒸発してしまったが、全く灰が存在していなかったということもあるまい。すぐ側には湯気を立てる泉もあったことだし、少量の炭酸カリウムならあの場にあってもおかしくはない。しかし素材名はアンロックされていない。

 ならば必要なのは炭酸カリウムそのものではなくて、それに絡んだマジカル物質ということだ。


「適当な……陸上植物の灰……で、なんかマジカルな……」


 これがたとえば「世界樹の灰」などと言われたらかなりお手上げだ。仮に存在するとしても世界樹の場所がわからない。

 運営にもらった地図には書いていない。

 それに、鉄、硫黄、水銀は単一の素材なのでどうも解釈しようがないが、魔物の心臓だの強酸だのは非常に曖昧である。リビングメイルのときのように、何を入れても完成品のランクや種類が変わるだけで、反応自体は何かしら起こるのだろう。


 そう考えれば、マジカル植物の灰、という大雑把なくくりでもとりあえず成功はしそうな気がする。その場合、どういう表記で素材がアンロックされるのかはわからないが。


「さしあたっては、マジカル木材の入手を検討すべきだな」


 このリーベ大森林に生えている木々は、普通の植物ではない。異常に生育が早いものもあるし、鉄より硬い木などもある。それらの木材から木炭を制作したりもしているが、アンロックされていないということはこれらの木材でもまだマジカル度が足りないということなのだろう。納得がいかないが。


 この大森林で入手ができそうにないのであれば、外からの入手を考えるしかない。街にありふれている素材などはどうせ周囲の草原やこの森からの恵みが主であろうし、城壁内の農場でマジカルな作物を育てているとも思えない。


「出張中のマリオンの報告を待つしかないか……」


 地図を入手したことで、闇雲に大森林の周囲を探索する必要が減った。そのためマリオンと銀花に命じ、大森林から一番近い魔物の領域に偵察に行かせている。

 定時連絡では順調に行程を消化しているようだし、『座標把握』などと地図を照らし合わせてみても方角も間違っていない。このペースならば、ほどなく魔物の領域に接触するはずだ。


 その魔物の領域も気候や環境が近いためか森タイプのため、可能なら制圧してしまいたい。

 この大森林とは生態系が違う可能性もある。もし同じような生態系だとしても、それならそれで牧場にいる魔物たちの交雑もできればしておきたい。

 制圧可能かどうかは見てみないとなんとも言えないが、マリオンが到着したならばその座標にレア自身を『術者召喚』し、アダマンシリーズを『召喚』していけば制圧に必要な戦力は整うだろう。


 その森がリーベ大森林とは違う生態系で、かつマジカル木材が生えていれば一番いい。

 レアはマリオンの報告を待ちつつ、それまではプレイヤーたちに理不尽ボスをけしかけて暇つぶしをすることにした。


 なお接待プレイのことは忘れていた。





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