第56話 「リビング兵団」
2020/4/1
タイトル改訂。
まずは例の金属と騎士の怨念であたらしいリビング何たらを造る。
鎧、剣はもうたくさん造ったので、今度は骨だ。非常に冒涜的なイメージだが、技術の発展には常に犠牲がつきものである。レアはそのような批判は恐れない。
冷静に考えれば、鎧や剣よりよほど怨念がこもっていそうだ。今度こそアンデッドが生まれてしまいそうだが、仮にそうであるなら、錬金術でアンデッドを生み出せるという新事実の発見になる。
レアの感覚では、リビングメイルなど立派なアンデッドの範疇なのだが、システム的にはアンデッドではないようだった。区分としてはホムンクルスとゴーレムの中間のような存在らしい。
「では、やろうか。『哲学者の卵』」
現れた水晶の卵に金属塊と騎士の遺骨を飲み込ませる。金属塊は奮発して多めにぶち込んでおく。剣崎を量産していた時に気づいたのだが、投入する素材が多すぎる場合、余った分は消費されずに残される。本来必要な分よりは若干多めに持っていかれるようだが、入れたら入れただけ使われるということはないようだ。ちなみに少ない場合は失敗し、素材はそのままだが卵は割れる。MPの使い損だ。
遺骨は再び入手できる算段がつかないため、少しでも消費を抑えるために肋骨と思われる骨1本にしておく。
続けて『アタノール』を発動してやれば、卵の中は問題なく虹のマーブル模様になった。ということは、なんらかの魔物が生み出されるということだ。
「よし、『大いなる業』発動だ」
そういえば、公式のアナウンスで、発声キーのスキル名を変えられるとか何とか言っていた気がする。何かかっこいい名前に変えてみるべきだろうか。
とりあえず、このような生産系のスキルの名前を変える必要性は感じられないが、戦闘中に発動する魔法名を変更するのは戦術的に価値がある。至近距離に敵が居たとしても、こちらの発動キーから魔法の内容を推察されるのを防げる可能性がある。
考え事をしているうちに、卵の光が収まった。
卵の中には、黒い鎧を着込んだ、鎧と同じ色の骸骨が立っている。
「スケルトンナイト……とかそういうのかな?」
にしては黒い。骨と言えば白いイメージなので、なんとも表現しづらい微妙な違和感がある。
卵を割って出てきた骸骨に、早速『使役』をかける。この作業も慣れたもので、どうやら自ら産み出した魔物は『使役』にそもそも抵抗しないようだということがわかっている。スガルがアリを産み出してすぐに命令できているのはそういう部分もあるのだろう。
「種族名は……アダマン……ナイト?」
だじゃれのようだが、思わぬところでこの金属の名前が知れた。マジカル金属代表その1、アダマンタイトとかそういうものだったようだ。アダマンタイトなのかアダマンチウムなのか別の名前なのかは不明だが、とにかくアダマンだ。大抵のゲームなどでは、硬いことで有名だ。確かに鎧坂さんも剣崎たちも非常に硬かった。
しかし、ということは、このアダマンナイトは骸骨部分もアダマンで出来ているという事なのだろう。鎧と同じ色をしているのはそのためか。リビングメイルと同じく、アンデッドではなくやはりホムンクルスやゴーレムに近い魔物のようだ。
全体の重量で言えば投入した素材ほぼすべてと同じくらいだろうが、遺骨は一本でも生み出せたということは、このアダマンナイトは量産できるということだ。
騎士の怨念がこもった遺骨を再び入手するのは難しいが、今ある分だけでも元の切り捨てられた騎士団を超える規模のアダマン騎士団を生み出せるだろう。
これは強力な戦力だ。構成している金属は鎧坂さんと同じものだし、ステータスもほぼ同じだ。鎧坂さんと比べてSTRとVITが若干低いが、代わりにINTが高めになっている。より人間に近いバランスと言える。あくまでバランスが近いだけであって、そこらの人間よりすでに数倍強いのだが。
レアは輜重兵アリからMPポーションを受け取り、それをがぶ飲みしながらひたすらアダマンナイトを生産することにした。
騎士たちの遺骨が無くなるまで同じことを繰り返した結果、わかったことがある。
肋骨などの胴体に関わる骨を使った場合、アダマンナイトが生まれる。
大腿骨などの脚に関わる骨を使った場合、アダマンスカウトが生まれる。
上腕骨などの腕に関わる骨を使った場合、アダマンメイジが生まれる。
そして頭骨を使った場合、アダマンリーダーが生まれる。
指の骨など、あまり小さい骨だと素材として不足らしく、スキルは失敗する。そういった場合は複数の骨を入れてやる必要があるのだが、この時に脚と腕など部位が混ざって入ってしまうと、たとえ胴体の骨を使っていなかったとしてもアダマンナイトが生まれた。
そのためアダマンナイトの数が最も多い。頑張って選別したためにアダマンスカウトとアダマンメイジもそれなりにいるが、アダマンリーダーはどうしようもないため、かなり数が少ない。
ただし、アダマンリーダーは配下になったばかりのディアスほどの強さがある。戦闘経験などを加味すれば、同じ強さだったとしてもディアスには到底勝てまいが、プレイヤーを相手にする分にはどちらでも変わらない。ひとしく一蹴だ。
しかし終盤、どこの骨なのかわからない部分ばかりになってしまった頃など、アダマン塊も少なくなってきてしまったため、もっと数の多い金属を使うことになった。
そして生まれたのが「カーナイト」だ。一瞬何の事を言っているのかわからなかったが、もしかしてこれはカーバイト──つまり超硬合金なのだろうか。全然マジカルではないし、単一の鉱石から出来た金属塊を使ったのにすでに合金とはどういうことなのか。
そしてかなりの量が産出されているのだが、この森の地下はいったいどういう地層なのか。石炭層とレアメタル層が混在する地層など聞いたことがないが、そういう部分でマジカルなのだろうか。
いずれにしても、このカーナイトも、硬さという意味ではアダマンナイトに匹敵する。しかし数値的にはVITが低いので、おそらく欠けやすいとか、つまり脆いのだろう。
しかしSTRはアダマンナイトと同程度はあるので、その重さもあってか攻撃力は非常に高いようだ。そしてその分、AGIは若干低めだ。
これも残りの遺骨を全部使う勢いで創造したので、相当な数がいる。結果的にアダマンナイトより多くなってしまったほどだ。脆くて欠けやすいのだが、それもアダマンナイトと比べればの話であり、鉄の剣で切りかかっても手がしびれて終わり、剣は刃が潰れる。ただメイスなどで攻撃すれば当たりどころによってはかなりのダメージを受けるので、打撃には弱いと言える。
超硬のためか熱には強いようで、生半可な『火魔法』は効かない。『水魔法』も効かないが、たとえば『火魔法』と『氷魔法』を交互に使われると大ダメージを受ける。また『雷魔法』にも特に耐性はないようで、普通にダメージを受ける。単純に硬いせいだろうが、『地魔法』はほとんど効かないし、重いせいか『風魔法』も効きが悪い。
金属の魔物だとわかれば『雷魔法』で的確に攻撃するのだろうが、初見でこれを金属だと思うプレイヤーはいるのだろうか。たいていはアンデッドか何かだと考えて『火魔法』中心で戦うのではないだろうか。スケルトンと同じく打撃には弱いので、打撃が得意な戦士は苦手と言えるだろうが、それも相性程度の話だ。相性が重要になってくるレベルのプレイヤーがそうそう居るとも思えない。
しかしやってみなければわからないし、イベントの時同様、性能試験は必要だ。アダマンシリーズが鎧坂さんの廉価版だとして性能試験はパスするとしても、カーナイトの戦うさまは見てみたい。
なのでレアはカーナイトを1体、プレイヤーの集団にけしかけてみることにした。
まぁつまり、あたらしいおもちゃで遊んでみたかっただけなのだが。




