第49話 「エキシビション」
2020/4/1
タイトル改訂。
ウェインとかいうプレイヤーもやはりイベントに参加していたようだ。
急に名前を呼んでくるのでレアは驚いた。何か答えてやっても良かったのだが、レアとケリーの声は全く違うため、そこから何か邪推されても面倒だ。
なので極力小さな声で起動キーをつぶやき、魔法を発動させて周りのプレイヤーもろとも薙ぎ払った。
レアの『サンダーストーム』のもたらした被害は甚大で、まず最前線にいたタンク役は全員死亡している。その少し後ろに陣取っていた、盾や厚めの鎧を身に着けてはいるが、革製ばかりで金属製の胸当てなどは身に着けていない者たちは辛うじて生き残っている。電撃系の魔法は金属製の防具に対して特効があるためだろう。
それと耐久力の差か、ウェインなどを含めた軽戦士系のプレイヤーも死に戻っている。彼らはもともと回避主体の戦闘スタイルのため、AGIなどは高くても、VITに経験値を振っている者は少ない。
本来ならばこの手の魔法は回避することで対処するのだろうが、電撃系の魔法は発動も弾速も断トツに速い。範囲魔法としては他属性と比べて際立って範囲が狭いが、それでもこの程度のプレイヤーたちに回避できるものではない。
残っているのは、目の前の革タンクたちと、範囲外にいた遠距離職たちだ。
レアの魔法の発動によって一瞬の空白が生まれているが、じきにまた魔法や矢の雨が降らされるだろう。
遠距離職のいるあたりにまた別の範囲魔法を撃ち込んでやってもいいが、リキャストタイムが終わる前に魔法を次々撃っていくのは、咄嗟に取れる選択肢がどんどん狭まっていく結果になる。特に今レアが放ったような高ランクの魔法はリキャストタイムが長い。
手間だがここは剣で殺していくことにした。
目の前の革タンクたちを一閃して屠りながら、レアは後衛の元へ向かう。動かしているのは鎧坂さんだ。しかし剣を振るっているのは剣崎一郎自身だ。剣崎の動きに鎧坂さんがついていけるのかのテストでもある。今の所、特に違和感があるようには見えない。すばらしい連携だ。
革タンクを一掃できた鎧坂さんは、背中の三郎を左手に抜いた。
両手に剣崎をだらりとさげ、『縮地』を使って手近な魔法使いに迫る。驚き、何の対応も取れていないうちに、その首を撥ねる。血を吹き出しながら消えていく死体を見て、初めて周りの者達が動き始めるが、もうここはすでに後衛の群れの中だ。うかつに矢や魔法を撃っていいのか迷いが見える。実に非合理的な思考である。
いかにレアを討伐目標として足並みを揃えているとは言え、これはあくまでバトルロイヤルだ。本来プレイヤーは全員敵同士である。ならばまとめて吹き飛ばすつもりで攻撃を放てばいいのだ。
そこでレアを倒せれば良し、倒せなかったとしても、周りのプレイヤーを流れ弾でキルできれば、なんらかのポイントが入るだろう。全く損のない選択肢だ。なぜ誰もそうしないのか、レアには理解できない。
むしろレアならば、今更魔法を一撃入れたところでダメージが通るとも思えない敵を攻撃するより、流れ弾を装って周りの脆弱なプレイヤーを攻撃することを選ぶだろう。それがもっとも合理的だ。
とはいえ、それをされるのは現在のレアにとってはうまくない。なぜなら、他のプレイヤー同士が潰しあえばレアの得られる経験値が減少してしまうからだ。
ゆえに誰かがそれに気づく前に、レアは自分の周りのプレイヤーを片付ける。
『回転斬り』や『スラッシュ』、『縮地』、『投擲』を駆使して次々とプレイヤーたちをキルしていく。『投擲』された剣崎は怪しまれない程度に何人か巻き込んでキルし、そのまま地面に刺さっている。
剣を投げた鎧坂さんは、背中の四郎や腰の二郎を抜き、通常の攻撃やスキルをばらまきながら、剣崎を投げた方向へ進み、手に持っている方の剣崎を『投擲』する。そして空いた手で先程投げた剣崎を回収する。その繰り返しだ。
プレイヤーたちがようやく覚悟を決めてか、周りに人がいようが攻撃を飛ばしてくるようになったが、その頃にはもう彼らはまばらにしか残っていない。
「『フレアアロー』」
レアは相殺を嫌い、弓を携えたプレイヤーには魔法を、魔法を撃ってくるプレイヤーには投擲をして一人ずつキルしていく。
このゲームの攻撃魔法はすこし特殊な仕様があり、放たれた魔法に対して、真逆の軌道で魔法を放つと「相殺」という現象が起こる。同属性で全く同じ魔力量の攻撃ならば、大抵は衝突地点で爆発が起こり、目標へ到達することはない。また例えば火属性と氷属性など、特定の組み合わせの魔法の場合は威力が相殺され、どちらの効果も消え去ることになる。INTの差などによる威力の差があったり魔法のランクが違う場合は、弱い方は完全に消え去るが、強い方も弱い方との衝突で失われたエネルギーは戻らず、弱体化したまま本来の対象へ向かう。
このような、誰か1人が集中して一方的に狙われているような乱戦の場合、魔法戦になると相殺や衝突が起きやすい。
現在の状況で言えば、それは単純にレアの火力の低下を意味するため、MPやリキャストタイムというコストやリスクを払って魔法を撃つ以上、慎重に吟味する必要があった。
もっとも、この頃になるとレアを囲むプレイヤーたちもかなり落ち着いてきており、たとえ弓系の戦士に魔法を撃ったとて、その背後から複数の魔法使い系のプレイヤーが魔法を放ち、レアの魔法を完全に消滅させてしまうこともしばしばあった。
またレアが放った剣崎に対して矢を放ち、投擲武器の軌道を逸らすなどという離れ業をやってのけるプレイヤーも現れた。
これにはレアも驚いた。そうしたスキルは確かにあるが、その気になれば自身の軌道を自由に変えられる剣崎に対して回避を許さず矢を当てるなど、よほどのリアルスキルがなければなし得ない。
ちらりとそちらを見てみれば、例のナース服だった。反射的に魔法を撃った。
「『ヘルフレイム』」
この魔法を以てナース服の居た、レアから見て左手側のプレイヤーが一掃された。
多少の相殺などものともしない範囲魔法の威力に、他のプレイヤーたちも攻撃の手を止めた。
レア1人に対して集中砲火を加えているにもかかわらず、状況は五分だった。
そこに一息で約半数の戦力が失われ、さらに残った者たちも動かないとなれば、これを片付けるのは造作もない。
動揺したプレイヤー連合はもはや連携など取れず、程なくバトルロイヤルは終了した。
どうやら、エキシビション参加者たちはもれなくレア狙いだったようだ。
こうして、第一回公式大規模イベントは幕を閉じた。本来運営が企画していたイベントがどのようなものだったのかは結局わからなかった。




