第42話 「第一回大規模イベント開始」
2020/4/1
タイトル改訂。
大規模イベントの日。
レアは前日の締切までにすでにエントリーを済ませていた。
眷属もエントリー出来ないかと考えていたが、システムメッセージに返答する形でのエントリーだったため、プレイヤーしかエントリー出来なかった。
この様子では、おそらくイベント会場へ連れて行くことも難しいだろう。
レアは公式サイトに告知されていた、イベント会場へのアクセス場所へと向かっていた。
その場所は各街などのセーフティエリアごとに指定されていて、中には「~の古城」だの「~火山」だのといった、明らかに街では無い場所も書かれていたが、おそらく魔物アバターなどのためなのだろう。
レア自身、最寄りの街よりも大森林内部のセーフティエリアの方が近かったので、そちらに赴いた。
大森林の中のセーフティエリアは、中心から外縁までの、ちょうど中間あたりに全部で5か所あった。
本来であれば魔物、というよりも、おそらくプレイヤー以外は近寄れないのであろうそのエリアは、レアの配下であるせいか、ケリーや氷狼たちやアリたち、それにディアスまでもが関係なく進入できていた。
「この、セーフティエリアのプレイヤーとそれ以外とを選別する機能、どうやっているのかな? チュートリアルAIの言っていたようにシステム的に差がないのなら、このセーフティエリアだけが違和感あるな……」
レアは静かな泉と、その周りに咲き乱れる天然の花畑を見た。美しい場所だが、今は不似合いにアリとアンデッドの騎士が佇んでいる。ディアスは普段は女王の間の隅に静かに控えているが、女王の間から外に出るときは必ずこうして付いてくる。まさに忠義に篤い騎士、といった感じだ。
そのセーフティエリアの隅に、淡く光る魔法陣のようなものがある。プレイヤーにしか見えていないのか、ときおりアリがその上を何の気なしに通るが、特に変化はない。
〈姫、本当にひとりで行かれるおつもりですか?〉
さっそくディアスがそう諫言してくる。彼はレアを姫と呼ぶが、スガルを女王と呼ぶのにその上役であるレアが姫とかどういうことなのか。もしかしたら生前は姫に仕えていたか、あるいは仕えたかったのかも知れない。
「そうだよ。たぶん、わたししか行くことはできないからね。試してみてもいいけど、無理だと思う。それにひとりではないよ」
レアはその全身を、先日『大いなる業』で産み出した黒い鎧で覆っていた。さらにその上からフード付きマントを羽織っている。
日中、このような日当たりのよい場所にレアが出てこられた理由がこれだった。
マントの下には、背中や腰に合計で5本もの剣を下げている。これも、すべてリビングウェポンだ。
この状態ならば、「装備状態」と認識され、共にイベント会場へ入れるかもしれない。
「さて、そろそろ時間だ。行ってくるよ。ディアスは女王の間に戻って、スガルの護衛をしておいてくれ。おそらく、わたしは2時間ほどで戻るから」
〈……御意〉
「ではね」
そういうとレアはセーフティーエリアの隅の魔法陣に乗った。公示されていた通り、警告と注意が表示されたが、流し読みして許諾の意思表示をする。瞬間、レアの視界が切り替わり、泉のほとりからレアの姿は消えた。
*
おそらく転移だと思われるが、移動した先はまるでローマのコロッセオのような場所だった。参加人数を考えれば、これではとても狭いはずであるが、不思議と闘技場からあふれてはいないようだ。
明らかに場内を超える人数が入っているにもかかわらず、ひしめき合っている、という感覚もない。
遠く観客席にも多くの人がいて、あれがおそらく参加を見送ったプレイヤーたちなのだろう。
公式によれば、バトルロイヤルに敗れたプレイヤーもあの観客席へ行くようだ。もちろん、出たければイベントエリアから出ていくこともできる。
しばらくすると、開始時刻になったのか、システムメッセージらしき声が聞こえてきた。ようやくか、と感じたが、現在このエリアは通常の6倍の速度で時間が流れているはずだ。5分前行動をすると、イベントエリアで30分も待つ羽目になる。
システムメッセージによれば、ここはあくまでイベント開始と閉会、観戦用のエリアであり、この後すぐにバトルフィールドへと転送されるらしい。
そのバトルフィールドは相応に広く、32のブロックに分けられていて、プレイヤーも抽選で32組に分けられ、それぞれそのフィールドへ送られるようだ。
その後、勝ち残った32人のプレイヤーで最終決戦を行うという流れだ。
レアが割り当てられたのはブロック16だった。フィールドはほとんどが森だ。普段、大森林の中を眷属の目を借りて探索しているレアには有利なフィールドと言える。
転送された後、早速レアは身を隠せそうな場所を探した。森の中を歩き回り、ときおり見かけるプレイヤーはリビングウェポンに命じて即座に切り捨てた。サービス開始から2週間程度では、金属製の鎧を着ているものはいても大したランクの金属ではないようで、レアの剣の前では布の服同然だった。
──そういえばよく知らないのだけど、結局この子たちに使った金属はなんだったのかな。
レアは薙刀の嗜みはあったが、西洋の直剣の扱いには明るくなかった。現在のSTRとDEXならば、刃筋を立てて斬ることくらいはできるだろうが、得意な作業というわけでもない。ならば生まれながらに剣である本人たちに任せた方がよかろうと思い、その柄を握ってはいるが、実際は剣がひとりでに斬っている。
そうこうしているうち、鎧を着ていないレアならば、すっぽりと隠れられそうなウロを持つ木を見つけた。周辺の落ち葉や藪なども利用し外套をすこし偽装すれば、より見つかりにくくなるだろう。
「よし。ここに決めた」
しかしレアは参加者の数が減ってくるまで隠れ潜むだとか、そういう戦略を取るつもりはなかった。
能力値だけでいえば、レアはおそらく参加者屈指だ。何も考えずに戦っても、決勝へは行けるだろう。
問題はレアの先天的な特性にある。その選択は後悔していないが、日の下に出られないということと、少し遠くになると途端に物が見づらくなるという性質は大きなディスアドバンテージだ。馬鹿正直に正面から勝負する気はなかった。
レアは素早く外套と鎧を脱ぐと、外套に偽装を施した。鎧自身が自ら動いてくれるため、着るのも脱ぐのも驚くほどの早さでできる。
偽装した外套を着ると、体を丸めて木のウロにもぐりこんだ。
「さぁ。それでは君の体を貸してもらうよ。そういえば、名前がなければ不便だね……。よし、君は今から鎧坂君だ。あ、女性型だから鎧坂さんかな? リビングウェポンのみんなは、生み出した順に剣崎一郎から五郎君だ」
そうしてレアは木のウロの中で目をつぶると、『召喚』ツリーで取得したスキルを発動させた。
「『術者召喚:精神』」




